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カレーは悪くない。だが、子どもへの配慮を最優先するのは当たり前のこと。

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(画像)いらすとや

カレーに罪はない

給食のカレーは悪くない

というツイートが多数寄せられている。

神戸市立東須磨小学校で男性教師が同僚4人から激辛カレーを無理矢理食べさせるなどの悪質ないじめを受けていた問題で、学校側の対応に批判が集まっている。

(中略)カレーを無理やり食べさせている映像をテレビなどで見てショックを受けた児童らへの対応として、給食のカレーを一時中止することなどが発表された。

これに関して「的外れな対応では?」と疑問の声が上がっていたが、全国のカレー店からも「給食のカレーは悪くない」「カレーに罪はない」と訴える動きがTwitter上で広がっている。

出典:Huffingtonpost 2019年10月18日

 カレーに罪はない。その通りだ。また、Twitterやテレビ番組で多くの方が言うように、カレーを一時中止にしたり、家庭科室を改装したりしても、根本的な解決にはなにもならない。その通りだ。

 なのに、なぜ、学校側はそんな対応をしようとしているのだろうか。

 わたしは事実確認できていないので、憶測となってしまうが、児童へのケアを最優先に考えたからだろう。

 記事にもあるように、学校側の説明としても、精神的にショックを受けた子への対応として、ということは言及されている。信頼していた先生があのような幼稚な、ひどいことをしていたのだ。児童への影響は大きい。実際、今回の事件を受けて、不登校になった子もいる。カレーは見たくない、カレーをみると吐き気がする、気が滅入るといった児童がでてきても、おかしい話ではないだろう。

 たとえば、東日本大震災のとき、テレビ等で津波の映像が何度も流れた。これに精神的にショックを受ける子やトラウマになる子もいた。授業等で当面のあいだは津波の映像を流したりすることはしないでおこうと学校は判断した。これを批判、非難する人はほとんどいないだろう。もちろん、だからといって、震災の教訓を風化させてよい、という話ではない。

 今回のこともおそらく、似た配慮だと思う。

 Twitterでは、「給食のカレーを楽しみにしている子も多いだろうのに」というコメントも多くある。しかし、たとえ、99人の子が大好きで給食のカレーをこれからも楽しみにしているとしても、1人の子が精神的に大きなダメージを受けるのなら、学校というところは、1人の子になるべく寄り添うところなのだ。

 しかも、カレーを永久追放しようとするものでもないし、給食で絶対に食しないといけないというものでもない。カレーに特にショックを受けない子は、家庭や外食でカレーを楽しんでいい。

 問題は、そこまで何重にも児童のことを配慮しようとする教育現場において、あのような悪質な傷害・暴行事件が起きたことだ。これはもちろん、関係者はしっかり検証して反省していかないといけない。

 世論の反発が強いのは、学校や教育委員会が給食のカレー中止や家庭科室の改装といった小手先のことに逃げている印象を受けるからだろう。つまり、あなたたちは、もっとやるべきことがある、と考えている人が多いのだろうと思う。

 被害教員が病気休暇になって1ヶ月半以上が経つし、この事件が報道されてから2週間近くが経つ。にもかかわらず、事実解明がはっきりしないことも多く、毎日のように、こんなこともあったのでは、とニュースになっている。加害教員への対処もまだ見えない。前校長や現校長、あるいは現教頭の責任もはっきりしないままだ。こういうことに世の中の多くの人が苛立っている。このことは、わたしも共感するし、神戸市の学校、教育委員会はもっと危機感をもってほしい。

 だが、だからといって、精神的にしんどい児童へのケアを軽視してよい、という話ではない。カレーの一時休止について、わたしは賛同する。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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