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【ブラック部活をどうするか】”やりたい人だけがやる”とはできないのか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
日本部活動学会でグループで話し合った改革アイデアを掲げる参加者

”ブラック部活”という言葉を聞いたことはあるだろうか?

2017年は、”ブラック部活”という言葉をかなり聞くようになった。顧問となる教師にとっても、生徒にとっても、過重な練習・試合などが負担となっていることを指した言葉だ。

朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』という小説が発表されたが2009年。このタイトルに象徴されるように、生徒にとって部活をするのは当然視されてきたし、先生にとっても顧問をするのは当たり前、という時代が長く続いた。

最近この流れに「ちょっと待てよ」、「部活に時間を使い過ぎでは」という声があがりはじめている。

”ブラック部活”と言うのがよいかどうかは、大いに議論の余地はあるが、過熱した部活をこのままではマズイと思い始める人が増えてきた。2017年は、部活のあり方について問う本・雑誌も、数多く出版された。当の教員の一部からは、「部活顧問はNO!」(拒否したい)という声や改革案も上がっている。研究者や教育関係者は、この12月27日に「日本部活動学会」を立ち上げた。国も、中教審(中央教育審議会)やスポーツ庁の検討会議で議論している(わたしは両方の委員として関わっている)。いずれも、2010年頃には考えられなかった動きだ。

先生にとっても強制されている実態

しかし、わたしが全国あちこちの教員や教育委員会関係者から聞くかぎりでは、

世間や国が少々騒いでも、職員室は無風だ

という声も多い。

このことをはっきりと示すデータはないが、いくつかの傍証はある。スポーツ庁の平成29年度「運動部活動等に関する実態調査」によると、次の実態である。

●「部活動を行う部への所属は生徒の希望である」と答えた公立中学校は66.7%。つまり、3割以上の公立中学校では、部活は希望制ではなく、参加するのが当然視されている

「希望する教員が顧問に当たる」のは、中学、高校とも5%に満たない。つまり、大多数の中高で部活の顧問をするのは、事実上強制である。

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●運動部の主担当顧問教員が、部活動顧問教員の配置に関する最も近い考えについて、「希望する教員のみを当たらせるべき」と答えた割合は、中学、高校とも4割前後に上る。「全教員を当たらせるべき」との意見もほぼ同じ割合で拮抗しているし、「どちらともいえない」という層も2、3割いる。

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どういうことだろう?

4割程度の教員が希望する人が顧問をしたらよいと考えているし、今の運用に疑問を感じている人も一定数いるにもかかわらず、実態としては95%の学校では希望制にできていない

なぜ、顧問が強要されているのか?

そもそも、部活は、学習指導要領上、生徒の自主的・自律的な活動とされている。これはどういう意味かというと、「やりたい生徒がいて、学校の設備や顧問などの条件が合えばやっていいですよ」ということだ。生徒にとっても、教師にとっても、部活は義務ではないし、強制できるものではない

たとえば、テレビでフィギュアスケートの選手の活躍を見て、憧れた。うちもフィギュアスケート部をつくってほしい、という生徒が数名あらわれても、あるいは数十名来ても、おそらくほとんどの学校は、フィギュアスケート部をつくらない。学校の設備や顧問などの条件面が整わないからだ。できないものはできないし、いくら生徒の要望があるからといっても、学校側からすると、実施は義務ではない。

中教審でも「各学校が部活動を設置・運営することは法令上の義務とはされていない」と確認している(働き方改革に関する中間まとめ、2017年12月22日)。

こうした制度、建て前と反して、実態としては、生徒にとっても、教師にとっても、半ば強制となっている部活は多い。紙幅の関係で、ここでは顧問の問題に焦点を当てると、やりたい教師がやれるならやったらよいですよ、とはなっていない。どうしてなのか?この説明をするには、2つの補助線を引く必要がある。

ひとつは、いま、多くの学校では、教員数に比べてかなりの部活数を抱えているという実態である。内田良准教授は2016年までのデータを紹介している(※)。「中学校の運動部について調べてみたところ、全国の運動部活動数は減少(1994年度比で0.88倍)してはいるものの、全国の生徒数(1994年度比で0.73倍)よりは減少幅が小さい。」つまり、生徒数・部員数が減っても、維持する部活もかなりあるのである。

(※)

内田良 拡がる教員の部活指導義務 「全員顧問制度」の拡大とその背景に迫る

しかも、教員数は基本的には学級数に応じて決まるので、少子化により教員数も減る。先生の数も部員数も減っているのに、それなりの部活数を維持しようとすれば、「全員で負担を分かち合いましょう」、「やりたくない人もガマンしてよね」となりやすい。

もうひとつの補助線は、「職員室が無風」ということに関連する。部活のあり方を見直そう、という話し合いすら、各学校で十分に行われていないケースが多い。なぜなら、いくつかの事情がある。

●前回書いたように、学校では、「子どもたちのためになるから」という教育効果を重視する文化がある。部活は子どもたちのためになる活動なので、「もっと減らそう」とか「自分はやりたくない」とは言い出しづらい。たとえ、見直そうという声があがっても、「部活は効果が大きいのだから大切です」という反対意見にあって、改革は進まない。

妹尾昌俊 教育界でも「働き方改革」が問われた2017年―なぜ、日本の先生は忙しいのか?

●「顧問をやりたくない人は無理にやらなくていいですよ」と言うと、抜ける人が出てきたとき、今の部活数の維持はできなくなる。どこかの部が休止や廃止となると、生徒、保護者、OB、時には地方議員なども巻き込んで、いろいろ揉める。校長としては、自分が在任しているあいだに、そんなややこしいことは避けたい。なので、職員室で部活の見直し、それも縮小を話し合おうという場は設定されにくいし、たとえ、そんな意見が出たとしても、校長の判断で、体よくスルーされてしまう学校もある。

●4月になれば、教職員は異動後の新体制となるが、とてもバタバタしていて、この時期に部活の運営体制を見直すのは不可能だ。すぐに部活の新入生勧誘も始まってしまう。それでいて、別の時期も忙しいので、見直そうという話し合いがなかなか持てないまま過ぎる。ある副校長は学校は「ベルトコンベアみたいだ」と言っていた。次々と行事等が押し寄せることを指した言葉だ。一度ベルトコンベアに乗ってしまったものに、ストップをかけることを学校は苦手としている。

写真素材:PATAKUSO
写真素材:PATAKUSO

部活改革の本丸は?

たしかに、多くの生徒や教師にとって、部活は楽しいし、やりがいがある。試合・大会に勝てたら嬉しいし、時には涙する。チームワークや頑張り続けることの大切さを学ぶ機会でもあり、生徒の貴重な成長の場だと言える。しかし、だからといって、今のように、希望しない教師まで駆り出す体制でよいのだろうか?

現状を改めるとすれば、どうすればよいだろうか?

部活については、様々な改革案が検討されている(一部は実施されている)。休養日の設定、大会のあり方の見直し、外部指導者や部活動指導員をもっと配置していけるようにすることなどだ。しかし、たとえそれらが動いたとしても、やはり予算にも人手にも限りがあるのだから、大事なのは、学校で抱える部活の数を見直していくこと、そこが部活改革の本丸であると思う。

では、現状では話し合いすらもてていない学校もある中で、どうしていけば、部活数の見直し、縮小を進めていけるのだろうか?この点については、次回以降の記事で提案したい。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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