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「メッタ刺しにする」-オウムに続き、脅迫されても滝本太郎弁護士が女性を守る「防波堤」を続ける理由

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
写真は、イメージです(写真:イメージマート)

9月27日に開かれた性同一性障害特例法が違憲かどうかをめぐって開かれた大法廷についての疑問を、以前書かせていただいた(性同一性障害特例法の違憲性の大法廷がもたらすもの―さまざまなひとたちの合意はどう見つけられるのか)。

それでは専門家から見ると、この大法廷はどう見えるのだろうか。ここで私の質問に答えてもらうのに適任だと思ったのは、弁護士の滝本太郎先生である。滝本さんはオウムの事件にかかわり、途中サリンで殺されそうになるなどの危機的な事態を何度も経つつも、ぶれることなく信念を貫いた方だ。共同親権にかんしては、懐疑的な私とは意見が異なるが、この問題について多くの弁護士がトランスジェンダーの権利獲得に熱心であるあまり、性急な制度構築に対して女性たちが疑問の声をあげることを批判するのに対して、そうした声を拾う側としてもっとも精力的にかかわってこられたのは、間違いなく滝本さんである。滝本さんは、女性スペースを守る会の事務局を担当もされている。

まずは滝本さんに、事務局を担当されるようになった経緯を聞いた。

「私は、2年前の理解増進法のときは、理念法にとどまるからよいと思っていました。女子トイレのありかたをめぐって、女性の権利法益を軽視しかねない運動だとは思っていなかったのです。もちろん、いまでもトランスに対してトイレにで嫌がらせをしたり、就職差別などがあってはならないと考えています(むしろ男性トイレで男性が嫌がらせをすることのほうが、問題だと思っています)。

また、トランス女性とは、性同一性障害のひとだと誤解してもいました。きつい身体違和があって、性的指向は男性に向いているのだと考えていました。ところが厚労省の委託調査でもトランスジェンダーのうち性同一性障害の診断を受けているひとは15.8%にとどまり(「令和元年度 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」)、女性に性的指向がむいているひとも多くいます。これは私と同様に、いまでも誤解しているひとが多いかもしれないと思います。

いままではなんとなく、男性器があるひとも女子トイレの使用も、黙認されてきたのだと思います。でも利用を黙認ではなく公認しろというのは違う。スポーツ選手権も女性として参加させろ、女湯やシェルターも利用できて良いというひとまでいる。理解増進法をつきつめればそうなりかねず、また日本学術会議などが特例法の手術要件を削除し、性自認で法的性別を変えようとまでしていることに驚きました。

性自認に基づいて、女風呂や女性トイレに入れさせろなどと言ってはいない、それ

は『デマ』だとときに運動側の方は主張します。マスコミもその運動側の言い分を

報道しますが、あきらかに事実と異なります。そこに入れろと言わなければ、何も問題はないのですから。

弁護士を長年していますと、女性装や女子トイレにかかわる事件にもかかわります。女子高校に女装して侵入しての体操服を盗んだ刑事事件とか、女子トイレでのわいせつ事件などです。国選事件ですし加害者の弁護はしますが、被害者の知的障害女性が可哀想でなりませんでした。小さな女の子が被害者となった女子トイレでの事件も、本当に酷かった。被害者側として、告訴までして色々聴取することまではもうできないということで、トイレ管理者の被害届出で、建造物侵入により罰金で済ませた事件もありました。加害者が女性の格好をしているときに、知的障害女性や幼児がしっかりと対応することは、とても難しいとわかりました。

『トランス女性は女性だ』というかたちで『性自認により女子トイレの利用を公認する』となると、性犯罪目的の男も容易に女性スペースに入れることになってしまいます。私にも孫娘が何人もおりますから、これは大変なことではないかと思いました。

 これを弁護士団体に問題提起したところ、『トランス女性は女性だ、なぜそれがわからないのですか』と弁護士がいうのに、面食らいました。そして、疑問を口にした女性たちが、酷い言葉で攻撃されていることも知りました。これはいかん。彼女たちの防波堤にならなければと思い、女性スペースの会の事務局を引き受けた次第です」

確かに、こうした安全を求める女性の声に対して「ヘイト」だとまでいう弁護士さんもいらっしゃるなか、積極的に発言する弁護士は珍しいのではないかと水を向けてみた。

「私はオウム事件などのカルトの事件にもかかわりましたが、現在のトランスジェンダーの運動のあり方は、カルトに極めて近いと思いました」

とのこと。どのあたりについてそう思われたのかについて、お聞きした。

「議論ができない点です。『トランス女性は女性です』と繰り返しますが、それはどういう意味なのか、なぜなのかといっても、まったく議論ができない。論理ではない点です。そして差別扇動だ、ヘイトだといい続ける。私に対しては、ある法律家団体のメーリングリストから外れよ、脱退せよとまでいわれ、それに一定数の若手弁護士らが賛成するという状況でした。ロートル弁護士の中からはそれはおかしいという方もいましたが、その勢いは変わらないですね。

 X(旧Twitter)をみれば、私や多くの疑義を呈する人は次々とブロックされてしまい、議論内容を知ろう、交換しようともしてはくれない。差別者とは議論しないことが正しい、戦術だと公言されている学者までいる。ブロックすべきひとの一覧もできていて、論者や支援者はそれに従っている。これなぞ『情報遮断』がマインド・コントロールの基本として、多くのカルト団体がしていることに酷似しています。

さらに支援者であるアライが、私たちと議論した性的少数者を批判して謝罪させたりまでしている。なんなんだろうと思いました。疑問をもつ女性たちに対して、『●●=殺す』という趣旨で、『ネトウヨ絶対●●マンと呼ばれた俺はトランスヘイト絶対●●すマンを宣言するよ』などと弁護士が言ってはばからない事態は異常です」

もちろん、ここで滝本さんが批判されているのは、トランスジェンダーの方でもなく、トランスをすることそのものでもない。むしろ多くはトランス当事者でもないひとたちの、ときに学者や弁護士を含むひとたちの、極端な運動の態度である。ここまで書くと、怒り狂って攻撃してくるひとがいるのだろうなと気が重くなってしまったのだが、よく考えれば、運動のあり方、攻撃的な言動を批判されると、相手を攻撃して黙らせようとする、そうしたあり方は確かに望ましいあり方から、はるかに隔たっている。

「オウムに殺されそうになった先生は、肝が据わっていますね」というと、「何事も攻撃はたくさんきますよ」という。

「この件でも、脅迫メールを受け取っています。これは理解増進法をめぐる議論が激しかった、6月10日のことでしたが、メールは以下のようなものでした。

ゴキ本太郎とかいうゴキブリ弁護士をメッタ刺しにします。失敗したら事務所にガスボンベを使用した簡易爆弾で事務所の人達を殺します。仲岡弁護士*よりゴキ本の方が死ぬべきだと理解しました。歩くヘイトに誅伐を。(*同様に、脅迫メールを受け取ったことを公開した、仲岡しゅん弁護士のことであろう)。

しかし、負けませんよ。女性や子どもらの安心安全にかかわりますし、社会も法秩序も混乱することが目に見えているのですから。性自認至上主義を先行させた国を周回遅れで後追いすることなく、早く何とかしたいです。先行した国では、後の反作用としての性的少数者への迫害は確実に起こるでしょうけれど、日本ではそれも起こって欲しくないのもあります」

次回は大法廷の疑問について、滝本弁護士のご意見を聞く。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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