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電動キックボードは危ない?‐アメリカの事情を踏まえて

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

いま話題の電動キックボードが日本では、7月1日から免許不要となり、「歩道」走行可能になるという(【速報】電動キック 7月1日から免許不要に 時速6キロ以下で「歩道」走行可能 スマホ使用は違反)。少し信じられない思いだ。自転車は原則車道を走ることになっているのに、いくら制限がついているからとはいえ、電動キックボードが歩道を走る?

著者はいま、カリフォルニアに住んでいるが、電動キックボードは広く普及している。アメリカでは車での移動が主であり、公共交通機関があまり発達していない。さらにサンフランシスコは坂がちであり、自転車に乗るのはかなり困難である。その隙間を埋めるのが電動キックボードである。キックボードのシェアリングサービスは、よく見られる光景である。

しかし、この電動キックボード、怖いのである。「スマホ使用は違反」など、もう当然の前提だ。大学のキャンパスのなかを、すごい勢いで走りぬける電動キックボードに、つねに身構えている。スケートボードであれば、かなり乗り手も手加減をしているが、持ち手のついた、しかも電動のキックボードである。ものすごいスピードにぶつかりそうな気がして、うかうかと歩けない。周囲の人も「あれは危ない。キックボードにだけは、乗りたくない」「そもそもぶつかれたくない」という人は多い。

2019年に発表された、1年間にロサンジェルスで電動キックボードによる負傷者の研究では、電動キックボードの乗り手の事故は、私が懸念した衝突事故(約2割)よりも、さらに転倒のほうが8割と、格段に多いようである。入院したのは249例中 15 例(6.0%)で、整形外傷 (5人)、頭蓋内出 (5人)、腹腔内または胸腔内の重傷 (3人)、頸椎折 (1人)、脳震盪で (1人)。集中治療室に入った2人は、外傷性くも膜下出と硬膜下腫だった。最も一般的な外傷でも、頭部外傷 (100人)、骨折 (79人)ととくに頭の怪我が多い。今度の法規制では、ヘルメットについての義務はないが、明らかにヘルメットをかぶったほうがいいように思われる。

またカリフォルニア州の法律では、電動キックボードのレンタルは18歳からであるが、いちおう16歳以上から乗ることができる。負傷者の10.8%が18歳未満という明らかに高い数字について、著者のTrivediは言及している。

カリフォルニア州では、現在、歩道は乗り入れ禁止で、運転免許が必要となっている。制限速度は、時速15マイル(24キロ)。そしてアメリカの道路は、まっすぐであり、道幅も広く、なによりも車社会でそもそも歩行者が少ない。私の家の周囲では、犬を連れているか、ランニングシューズを履いていない限り、歩いている人などいない(車を持っていない私ぐらいだ)。先の論文で衝突事故が少ないのは、アメリカ、特にロサンジェルスならではの事情で、日本では対人事故がもっと起こるのではないかと疑ってしまう。

今回の日本の規制は、歩道では、6キロという制限がついている、とはいっても、20キロまで出る乗り物で、それが守られるだろうか。私は車を運転しないが、免許を取ったことは、有益だったと思っている。それはさまざまな交通ルールを学び、いかに乗り物が危険であるかを、肌身で感じたからだ。日本ではアメリカに比較すると、免許を取る人も少ない。免許を条件とすると、乗れる人がかなり限られるのもわかるが、16歳から無免許の若者でも運転可、しかも歩道走行可で大丈夫だろうかというのは、心配のしすぎだろうか。せめてヘルメットは、自主的に着用して欲しい。日本では、自転車以上に危険であり、事故が起こらないか心配である。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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