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シングルへの児童扶養手当を廃止せよ! 調査で鬱に追い込む現状とは?

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
写真はイメージです(写真:アフロ)

胸の締め付けられる思いがする。

高松市で、児童扶養手当の受給資格の確認のため、男性職員が夜に、2回も母子が暮らす部屋に上がりこみ、タンスのなかの衣類を、スマートフォンで撮影しするということがあった。母親が鬱に追い込まれたという(母子宅、男性市職員が1人で夜訪問 調査原因でうつ病に)。

以前、シングルマザーが8月に憂鬱になるわけ 役所の現況届、これでいいのかという記事を書かせていただいた。その反響はすさまじく、多くの方から体験談を寄せていただいた。

1.手当を貰うには、調査を受け入れなければならない?

多くの方がとても謙虚で、「税金から手当てをいただいているのだから、文句は言えないと思いますが」という姿勢をみせていらっしゃった。それを踏まえつつも、児童扶養手当を継続してもらうためにどれほどの屈辱的な調査や質問がなされているのか、ということがわかった。

なかには、実際に児童扶養手当を(収入制限を超えて収入があるため)、貰っていないにも関わらず、プライバシー(男性とのお付き合い)について説諭され、「いつ、手当てを貰うようになるかわからないんですから」と言われた人すらいる。

そのAさんは、「もしも自分に何かあって働けなくなることもある。そうしたら、こんな屈辱的な言われ方を、当然のように受け入れなければならないんだ」と思うと、メンタルを崩しかけたそうだ。

「この児童扶養手当をめぐる扱いはまるで、母子家庭になったことへの罰則のようにしか思えなかったです。実際にもらっている人であったら、どれだけ辛いだろうかと思いました」

2.子どものためになっているのか?

この児童扶養手当の調査のために、離婚後の父子関係に影響がでたという情報も、複数人から寄せられた。

例えばBさんは、週1回の面会交流をし、(主に外で会うが)たまに家の庭で遊んだりしたところ、元妻が市役所で、児童扶養手当の面談で注意をうけたそうだ。「今後、家に上がったり、庭で遊ぶのやめてほしい」といわれたという

男性との付き合いで、手当てが支給停止にされたという人もいた。

Cさんは男性との付き合い初めで、子どもにも会わせて関係を作っていこうとしたところ、職員二人に面談されて、

「どういう関係なのか、結婚しないのか。家に出入りするなら手当は払えない。(遠回しに)手当をもらいたいなら、子供に会わせずコソコソ会え」

といわれ泣いたという。結局さらに仕事を増やさざるを得なかったそうだ。もう中学校になっている子どもとの交際相手との関係がうまくいけば、新しい人生が開け、児童扶養手当が必要なくなったかもしれないのにである。

手当をいただくに辺り、皆さんの税金。文句は言えませんが、これはなんだと。

不正受給している訳でもないし、なんとかもう一度頑張ろう、新しい家族を…という思いも、手当をもらっている間は恋愛もダメなのだと。

'''ましてや、知らない男性に根ほりはほり付き合いの状況を聞かれる。

取り調べのようでした。

今でもあの悔しさ、屈辱は忘れません。'''

3.児童扶養手当の廃止を

この件で高松市長は、「国の事務処理マニュアルに従い、適正な調査だった」と言っている。担当者は、「今後は、できる限り複数の職員で調査することを検討したい」と考えているそうだ。

しかし、人数だけが問題だろうか。「調査を断れば手当が止まる可能性がある」と職員にいわれ、「抜き打ち検査」を受けなければならなったら、このお母さんのようにうつ病になるひともまた出てくるだろう。児童扶養手当を受給できる収入の層にとっては、この手当は「命綱」でもあるからだ。調査を受け入れろということが、まるで脅しのように響き、屈辱的であることは想像がつく。

個人的には、児童扶養手当はいらないと思っている。未婚、既婚を問わず、すべての子どもに対する給付を、最低限、現状の児童扶養手当並みに手厚くすることで、手当てに対するスティグマ(烙印)をなくせばよいのではないか。

さらに言えば、子ども手当導入とペアで廃止された、年少扶養控除を復活させるべきである。子育てしているひとには、一律手厚く保護すべきである。親がどんなライフスタイルをとっていても関係ない。「子ども」を保護するのだ。控除は富裕層に有利な税制ではあるが、あえて年少扶養控除が廃止させられる必要はない。

そして、やはり、養育費の支払いに対して、なんらかの策をとるべきである。養育費の不払いに刑事罰がつく国も、国が立て替えるという国もある。それに対して、日本では養育費の不払いに何の罰則もなく、受給している家庭は2割ちょっと。別居後4年を超えるひとたちは、2割を切っている

さらに言えば、シングル家庭の貧困の根底には、この国での女性の低賃金がある。シングル家庭の母が、これだけ働いている国はない。男女の賃金を公平にすることは、子どもの貧困、将来の格差を是正するためには、必須のことである

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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