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シングルマザー、手当をもらえなくても妊娠報告義務はある? 児童扶養手当の現状届の現状

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

1.声が届いた!

ヤフーニュースが、社会を変えることを実感した。シングルで子どもを育てていたら、収入によっては対象となる児童扶養手当の現況届についてである。

窓口で異性との付き合いの有無まで、聞いてくるというシングルマザーが8月に憂鬱になるわけ 役所の現況届、これでいいのかという記事を書かせていただき、赤石さんも8月の児童扶養手当の現況届 窓口嫌いをつくらないためにはをという記事を書いてくださった。

交際の有無まで届ける現況届の現状に多くの反響があったが一週間後にはとうとう厚生労働省が、「支援を必要とするひとり親が行政の窓口に確実につながるようにすること」を進め、「これらの趣旨を踏まえた窓口の対応」と「取扱いに遺漏のないよう特段の配慮」を市町村に求めたのである*。

有難いことだ。この際、現場はみんなの声を聞いて、徹底的に改善して欲しい。

2.妊娠報告義務がある。

児童扶養手当の現況届で、妊娠の有無をまだ聞いているという噂がある、といわれたことがある。噂ではない。事実である。前回取材した市町村の現況届から意図的に抜いた設問が、

「1年以内に出産の予定がある(平成 年 月頃)」

だった。同様に、

「妊娠している可能性がありますか。」

という設問があるという声はいくつも寄せられた。

Aさんは憤って抗議をしたところ、次の年は表現が変更されたが、またその翌年には元に戻されたという。

1日働き、子供の世話で自由な時間もないのに。私にとって、その質問は、屈辱的でした。

児童扶養手当は父子家庭にも摘要されていますから、「父子家庭のお父さんにも、女性に妊娠させてる可能性はありますか、と聞かれるのですか?」と抗議したこともあります。それに対しては杓子定規に、「それはしません」という回答でした。

もし仮に、子どもを妊娠していたらどうなるのだろう?

結婚して出産するなら、子どもの父親に扶養をしてもらうべきだということなのだろう。

しかしもしも結婚という道を選ばなければ、出産したことによってシングルマザーがこれまで受け取れていた手当までを取りあげるという恐れが出てくる。

いまいる子どもまで、困難にぶちあたることになる。

再婚するつもりで妊娠したものの、途中で別れてしまった場合など、妊娠の継続を迷わざるを得ないだろう。

また性暴力の結果として、妊娠することもある。

シングルマザーの出産の管理は、「離婚して子育てに専念しているはずなのに、また子どもをつくるなんて」という処罰の思想が透けて見えるといったら、いいすぎだろうか。

子どもは4人産め、3人産めと政治家が発言する割には、現実に産む際のサポート体制が整っているとはとても思えない。

3.困難な状況には援助を

Bさんは、未婚で子どもを産もうと決心した方である。Bさんの経験談。

私は未婚で子供を産みました。

その際、手当の申請を行った時にとても屈辱的な思いをしました。

相手の方の名前、大体の住所はもちろん、認知の有無、既婚者かどうか、職業、どの位深くお付き合いしていたか、会う頻度、妊娠した時のやり取りまで根掘り葉堀り事細かく発言させられました

シングルマザーとして出産、育児をしていく覚悟として、悩み抜き、感情も整理し、やっと前向きになった時でしたので、当時を思い出し涙目をこらえながら話したのを覚えています。

いくら守秘義務があるといっても、相手の方のプライバシーまで侵害されていると感じました。

未婚で出産という選択が、いかにも間違っているかのような、社会的に認められないような空気でした

私の場合はお互い合意でしたが、未婚で出産される方の中には思い出したくない経験もあるかもしれません。

それでも我が子に一生愛情を注いでいこうと覚悟した結果なのです。

私がコメントすることはない。以下のBさん自身のお話に、それは明らかだろう。

手当は子供の人権です。両親のいざこざは関係ありません。どんな環境の子供でも、生きる権利があります。

手当を申請にするにあたって、年収や養育費が関わってくるのは理解できます。

しかし、離婚や未婚のシングルマザーのプライバシーまで申告しないと「困っていないから受給しない」という役所の姿勢は大変遺憾に思います。

4.シングルだというだけで

それでも、シングルマザー(ファーザー)は、児童扶養手当をもらっているのだから、それくらいは我慢すべきという意見もあるだろう。しかし実際には、手当をもらっていないシングルマザーもが対象になっているのである。当事者にとっては、シングルということで罰せられているかのような屈辱感を感じさせることである(もちろん、手当をもらっているからといって許されることでもない)。

Cさんの声。

現況届には、妊娠しているかどうかの質問まであります。交際中の男性がいるか、どのくらい行き来しているか…など、どれにも当てはまらず子育てと仕事に忙しい身としては記入するのも嫌になります。

プライバシーの侵害はもちろん、私はむしろバカにされてるかんじがしてならない質問でもあります。

そしてなにより、あの市役所の対応の悪さ…手当てを申請しにくるシングルマザーをバカにしているのでしょうか、いつもいつも冷たい対応をされます。

子育て支援課とは名ばかり…支援してくれているとは到底思えない、程遠い現実です。

ちなみに、私は正社員で勤務し、年収からいつも制度が適用外・手当ては一円ももらえません

同時に、ひとり親医療も適用外・医療費は無料にならず子供の医療費もすべて負担しています。

頑張って働き、私になにかあったとき子供に残せるよう、自分で家を建てました。住宅ローンも支払っています。

ボーナスがあるとはいえ、養育費もなく毎月ギリギリの生活です。それなのに、補助は一切出ないのです…。

それなのに毎年現況届は出さなければならず、質問にも答えなければなりません。

屈辱以外のなにものでもありません。

この記事はもっと早く執筆予定だったのですが、色々な声を寄せてくださった方に記事掲載への許可を取るのにかなり手間取ってしまっています(まだ続行中。お返事もうしばらくお待ちください)。今後、情報を寄せてくださる方は、ニュースへの掲載を見合わせて欲しい場合のみ、「掲載不可」とお書きください。特定されないように、プライバシーには最大限配慮いたします。sendayukiあっとまーくgmail.com まで。

児童扶養手当の対応に変化のきざし 窓口の対応は変わるのか でも報告されています。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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