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アジアリーグアイスホッケー開幕 日光のゴールを守った福藤豊、釧路のチームを巡る問題について語る

沢田聡子ライター
筆者撮影

9月16日(土)、アジアリーグアイスホッケーの2023-24シーズンが開幕し、17日(日)にかけて日光と苫小牧で試合が行われた。しかし、今季はアイスホッケーの盛んな氷都・釧路では公式戦が行われない事態になっている。

日本製紙クレインズの廃部を受けて2019年に発足した釧路市を拠点にするひがし北海道クレインズは、2021・22年の全日本選手権を連覇するなど存在感を示してきた。しかし、コロナ禍により無観客試合を強いられたことが影響し、経営が悪化。給与の遅配が続いたことで、所属選手18名全員と監督・コーチが今年5月、チームを離脱した。

アジアリーグは7月、経営改善のための計画が提出されていないことなどを理由に、ひがし北海道クレインズの今季リーグ戦への不参加を決定したことを発表した。ひがし北海道クレインズに所属していた選手達は現在、6月に釧路で発足した北海道ワイルズでプレーしている。しかし新規加入の登録期間を過ぎていたため、北海道ワイルズも今季のリーグへの参戦はかなわなかった。

世界選手権では戦いの場が昨季昇格を決めたディビジョンIグループA(2部相当)に上がり、また2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪予選が行われるであろう今季、日本代表を含む北海道ワイルズの選手達がプレーの場を失うことは、日本のアイスホッケーにとり大きな痛手だ。北海道ワイルズは、アジアリーグに所属する横浜グリッツと定期的に交流戦を行うことになっており、リーグが開幕した16日にも新横浜で試合を行っている。ただそれはあくまでも現時点での次善策であることは言うまでもなく、選手達がリーグに公式に参戦できない状況は少しでも早く改善されるべきだろう。

9月16日、日光霧降アイスアリーナでは、H.C.栃木日光アイスバックスが東北フリーブレイズを迎えて開幕戦を戦った。開幕を待ちわびていた日光のファンの前で、第1ピリオド2分49秒、アイスバックスの鈴木健斗がパワープレー(相手のペナルティによる数的優位の状態)で先制ゴールを決める。フリーブレイズも第2ピリオド3分20秒にボイバン・アレクサンダーが得点、同点に追いつく。さらに15分45秒、ロウラー和輝のパワープレーゴールによりフリーブレイズが勝ち越すが、ピリオド終了まで11秒というタイミングでアイスバックスの鈴木健斗が自身2点目となるゴールを決め、2-2で第2ピリオドを終える。

同点で迎えた第3ピリオド、勝負を決めたのはバックスに今季加入した磯谷奏汰だった。3分33秒に勝ち越しゴールを決めると、10分13秒にはパワープレーで自身2ゴール目を挙げている。新戦力の活躍により、アイスバックスは大事な初戦で価値ある白星を手にした。

第3ピリオドはペナルティが増えて試合が荒れ気味になる中で、アイスバックスの守護神であるGK福藤豊は何度も好セーブを見せ、観客席ではその都度福藤コールが沸いていた。試合後、少し荒れ気味の試合で守るのが難しかったのではないかと問うと、福藤は「そうですね、第2ピリオドぐらいからちょっと向こうのペースになって、攻めて・守っての展開が多かったですが、でも我慢できたかな」と答えている。

「第2ピリオドを、2失点で抑えられたので。あれ以上失点しているとちょっと流れが取り戻せない展開になるし、2失点で抑えられたことは良かったかなと思います」

――観ている側としては面白い試合でしたが、守っている福藤さんにとっては「ここを守らないといけない」というポイントが多かったのでは

「そうですね、5対3(数的不利の状況)もありましたし、最後もエンプティ(逆転を狙うフリーブレイズがGKをベンチに戻し、スケーターを一人追加した状況)で(バックスのスケーターが)一人少ない状況があったので。どちらが勝ってもおかしくない内容だったと思いますけれども、決める人が決めて、しっかり守ることができて、うちらしい勝ち方だったのかなと思います」

――特にキルプレー(数的不利の状況)での福藤さんの守りがポイントになったと思いますが、振り返られてどうですか

「ホームでの開幕戦で負けられない試合だったので、試合を通して要所、要所での集中力は出せたのかなと思います。勝たなきゃいけなかったので。最後まで勝つチャンスを与えて、しっかり勝ったということは良かったんじゃないかなと思います」

――客席からも福藤コールがかかっていましたけれども、聞こえていましたか

「毎試合、聞こえています。ようやくこういうふうに声出しがOKになって、霧降らしい声援が戻ってきたので、やっている僕達は緊張感もありますけど、素晴らしい環境で出来ていると思います。(声援が)後押ししてくれるのは間違いないですし、その期待に応えられたら嬉しいです」

――チームとしても、新加入の選手が活躍したいい開幕戦でしたね

「(新加入の選手が)上手くフィットしてくれていますし、本当に苦しい時間帯に、磯谷を中心に点数を取らなきゃいけないラインがしっかり活躍してくれたので。これからああいった(得点源となる)ラインが相手に封じられたりする駆け引きが生まれてくるかもしれませんが、その中でも結果を出してくれると思っています。フォワード陣がしっかり活躍できるように、僕を中心に守りの選手達がしっかり守りたいなと思います」

日本人として唯一NHLでのプレー経験を持つ福藤は、選手会長も務めている。釧路を拠点とするチームの問題では既に選手会としての声明を出しているが、改めて聞いてみた。

――釧路の問題では、心を痛められているのではないかと思いますが

「そうですね、はい」

――今の時点で、福藤さんが言えることを伺いたいのですが

「僕は選手会長もやらせていただいているので、この問題についてはこのオフずっと、限られてはいたものの僕達なりにやれることはやってきました。でも結局結果は変えられなかったということは、すごく不本意です。いろいろな情報が飛び交う中で、何が事実で何が事実ではないのかは分からないですが、やはりどんな理由があるにしろ、プレーする場所が確保されていない選手達がいるということは揺らがない事実なので。そこに関してはやはり、今日グリッツとは非公式で試合していますが、僕達も少しでも早くワイルズと試合することが出来たらいいなとは思っています。そのためには、選手会として出来る限りの協力はしていきたいなと思います。早く、いい方向に向かってほしいなと」

福藤はさらに、熱を込めて付け加えた。

「選手達は釧路で試合したいと思っていますし、試合数が少なくなるのは僕達もすごく残念なことなので、本当に早く解決してほしいなと思っています」

2016年以来8年ぶりにディビジョンIグループAで戦う世界選手権を控え、2026年五輪への道も切り開くことを目指す大切なシーズンが始まった。トップリーグの環境は、代表の強化に直結する。日本アイスホッケー連盟が全日本選手権(12月)への北海道ワイルズの出場を認める方向で検討しているという、前向きなニュースも入ってきた。選手達が力を発揮できる環境が、少しでも早く整うことを願ってやまない。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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