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円熟味を増す世界王者・宇野昌磨、三つの新プログラムを携えて今季に臨む

沢田聡子ライター
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

世界選手権優勝という最高の結果で昨季を終えた宇野昌磨は、オフも精力的にアイスショーに出演してきた。その中で、今季のショート・フリー、エキシビションと、三つの新しいプログラムを披露している。

ショートは、コーチでもあるステファン・ランビエール氏が振り付けた『Gravity』。アメリカのギタリスト、ジョン・メイヤーによる渋い曲で、大人っぽい雰囲気を漂わせるプログラムだ。

ランビエール氏は昨季のフリー『ボレロ』の振付も担当しており、4回転5本を跳ぶ高難度プログラムの最後に濃密なステップを組み込んでいる。宇野はその期待に応えて体力の限界に挑み続け、シーズン最後の世界選手権でようやく表現面でも納得できる『ボレロ』を滑り切った。世界選手権の金メダルは、その挑戦の結果だといえる。

昨季の世界選手権で金メダリストとして記者会見に臨んだ宇野は、『ボレロ』について「これだけ大変なプログラム、もちろんステファンコーチがそれだけ期待して下さっているからかなと思いますし」と言及し、言葉を継いだ。

「また今後どのプログラムやるにしても、このプログラムよりは楽だなって思えると思います」

それに対し、司会者に発言を促されたランビエール氏は「ショーマ、さらにステップアップするから楽になることはない」と言い切っている。

「さらにハードワークを重ねるからこそいい選手になって、その先にはまた新たなチャレンジが待っているんですよ、と伝えたいと思います」

その言葉通り、今季の『Gravity』で、ランビエール氏は宇野にさらなる前進を求め、成熟したスケートを期待しているように思われる。

また昨季の世界選手権では、ショート『オーボエ協奏曲』を「傑作」と絶賛する海外メディアからの声もあった。『オーボエ協奏曲』を振り付けた宮本賢二氏は、今季も宇野のフリー『G線上のアリア』を手がけている。

そして『G線上のアリア』にも、既に名作の予感が漂う。ランビエール氏に師事して以来さらに磨きのかかった宇野のスケーティングが、荘厳な曲と相まって強い印象を残すプログラムだ。世界王者となっても自然体を貫く宇野だが、やはり氷上では風格を身に着けたように思われる。静かな旋律で始まり後半から高まっていく曲調と宇野の重厚なスケートが、崇高な世界を氷上に創り出す。

またエキシビションナンバー『Padam,Padam』は、宇野が幼い頃から2018-19シーズンまで師事していた樋口美穂子氏が振付を手がけている。シャンソンの名曲に乗って深い味わいを感じさせてくれるこのプログラムを観て個人的に想起したのは、やはり樋口氏が振り付けた2016-17シーズンのフリーだ。このプログラムの後半では、イタリアの女性歌手ミルバが歌う『ロコへのバラード』に乗って熱い滑りを見せていた。そしてこの『Padam,Padam』でも、宇野は女性ボーカルと絶妙にマッチするスケートを披露している。宇野の魅力を知り尽くした樋口氏ならではの選曲が、心憎いプログラムだ。

宇野は、この『Padam,Padam』について「プログラムとしては、初めはショート寄りだったのですが、やはりショーで披露する曲ならアイスショーに寄せたものにして、先日(樋口氏に)振り付けし直してもらった」と語っている。また「競技にすぐ使えるようなプログラムになっているので、今後の出来次第では候補の一つとして取り組んでいきたい」とし、来季以降競技会で滑る可能性もあることを示唆している。

三つのプログラムでみせた宇野の滑りに共通するのは、余裕だといえる。昨季の世界選手権・ショート後の記者会見では、『オーボエ協奏曲』について、海外メディアから「今まで次のエレメンツに急いでいるようだったが、今日は時間を支配しているように見えた」という指摘があった。それを受け、宇野は「自分をいつもより良く見せようとせず、いつも通りを見せようとした結果生まれた、余裕のある演技だった」と分析している。

昨季を通して高難度のジャンプ構成に挑戦し、また振付師の意図した通りに表現しようと努めた結果世界の頂点に立った宇野は、自信から生まれる余裕を持って今季のプログラムを滑っているようにみえる。三つのプログラムに磨きをかけるシーズンの幕開けが、楽しみでならない。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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