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引退を発表した16歳のアリサ・リウ 周りも照らす明るさを氷上に残して

沢田聡子ライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

アリサ・リウがリンクで放つ輝きは、2階席にも届いた。

スターズ・オン・アイス2022東京公演(国立代々木競技場 第一体育館)、9日13時の回を観客として観る。北京五輪7位、世界選手権銅メダルという成績を残し、実り多いシーズンを終えたリウが滑ったのは、韓国のガールズグループITZYのナンバー“LOCO”だった。趣味はダンスだというリウが、ダンサブルな曲に乗って楽しげに生き生きとリンクを駆けまわる。リウの持ち味である健康的な輝きで、会場全体が明るくなったように感じられた。

リウはこの“LOCO”を北京五輪のエキシビションでも滑っているが、振り付けを手がけたのはアメリカチームの仲間であるアイスダンサー、ジャン=リュック・ベイカーだという。アメリカのメディアによれば、エキシビションへの出演を予期していなかったリウは準備ができておらず、ベイカーが振り付けを担当した。またヘアやメイクはアメリカチームのアイスダンサーであるマディソン・ハベルとマディソン・チョックが手伝い、衣装はスペインのアイスダンサー、オリヴィア・スマートがリズムダンスで使ったものを借りたと伝えられている。優しい先輩たちが困っているリウの世話を焼いている光景が目に浮かぶようで、周囲から愛される彼女の人柄がうかがえるエピソードだ。

公演の翌朝、リウがインスタグラムで現役引退を表明したことを知り、驚いた。リウはジュニア時代、女子スケーターとして初めてトリプルアクセルと4回転を一つのプログラムの中で成功させている。13歳から全米選手権を連覇したリウは、ジャンプに優れたスケーターとして世界にその名を知られるようになり、将来を嘱望されていた。しかしその後は体の成長に伴いジャンプに苦しむ時期を経験し、ようやくトリプルアクセルをプログラムに入れるところまで復調して得た今季の結果だった。

高難度ジャンプを跳ばなくなった時期も含め、リウはいつも笑顔で滑っていた印象がある。女子シングルについては、ジャンプが跳びやすい体型である10代前半にピークを迎える場合も多い。しかしリウは辛い時期を乗り越え、北京五輪にはトリプルアクセルを携えて出場した。そしてその約一か月後に世界選手権で獲得した銅メダルは、諦めずフィギュアスケートに取り組み続けたリウにとり、かけがえのないものだったのではないだろうか。

世界のトップクラスに名を連ねたリウを、これからも競技会で見続けられると思っていた。それが叶わないのはとても残念だが、女子スケーター特有の困難を乗り越えて北京五輪シーズンに大きな成果を得たリウは、達成感を持って競技生活を終えることができるのだろう。観る者をも幸せにするあの笑顔のまま、第二の人生に向かってほしい。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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