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AIはアイデアを発想できるのか。アプリ開発で考えてみた有効性と限界

佐藤哲也株)アンド・ディ
アイデア生成サービス アイディエータ

ChatGPTのような生成系AIが生み出されたことで、従来人間に固有の能力とされた「創造性」を持つコンピュータが登場する予感が高まっている。

課題解決や新商品のアイデアを求めてる人は多い。コンビニの限られた棚を奪い合い・ヒット商品を生み出すための新商品開発を仕事にしている担当者はその一人だ。マーケティング分野では、新商品の開発担当者を支援するためのアイデア発想法も多くワークショップやアンケート調査など様々なものが試されている。

今回、最新のAIであるGPTモデルを利用して、新商品の開発担当者をどこまで支援できるのか、コンピュータの創造性のあり方を検討するためのアイデア生成サービス「アイディエータ」を開発した(※)。その開発の背景を含めてGPTモデルが実現できるコンピュータと創造性の事情について整理してみよう。

(※アイディエータは筆者の経営する(株)アンド・ディにより提供されるサービスであり、現時点では無料ですが将来にわたり無料で利用できることを保証するものではありません。その点ご了承ください。)

AIによるアイデア・企画創出が流行

ChatGPTに代表されるAIを利用したサービスは続々とリリースされており、今回私が作ったような、アイデアや企画などをAIに作らせるという考え方自体は決して特殊なものではない。

例をあげると、株式会社インテグレータは新規事業のアイデア創出プラットフォームに「AI発想アシスタント(β)」という機能を追加したという。これは私達が開発した形式に近く、アイデアの必要とするシチュエーションを特定して具体的なアイデアを生成する機能のようだ。

また、日本テレビ系列での先日放送された人気番組「午前0時の森」では、ChatGPTモデルにより企画を考えてもらうというテーマを扱っている。(TVer番組の内容を紹介しているテキスト。

そのようにすでに多くの人がAIによる創造性を利用して新しい発想や企画などを作ろうとしており、もはや人類はコンピュータが創造性を持ちうることを受け入れているようにも感じる。

ただ、だからといってAIが完全に人間の思考を代替する・凌駕すると受け取るのも行き過ぎな気もする。そのあたりのAIの限界を考えてみたい。

AIがアイデアを作るための工夫

AIを利用したアイデア創出の概念図(サービス開発資料から)
AIを利用したアイデア創出の概念図(サービス開発資料から)

上の図は、我々の採用したアプローチの実際の開発時の資料である。このアプローチはマーケティングにおけるアイデア生成における一般的な考え方で、いわゆる5W1H1D的な要素分解を利用する。つまり、新商品アイデアを「誰の(Who)」「何の価値を(What)」「どう実現する(How)」「何か(Domain)」に分解するのである。その上で、アイデアを求める人が特定できる部分を指定した上で主に「どう実現する」か?についてAIに質問してみるというものだ。

実際の商品・サービスを開発している会社では、自社の事業ドメインからかけ離れた商品を検討することはない。また、新商品の検討過程ではマーケティングのターゲット属性はある程度固定されていることが一般的である。(逆にその部分が固まってない場合はアイデアを考える以前のリサーチ不足と言える。)

今回我々の作ったアプリケーションはそういった要素を固定した上でアイデアをAIに尋ねていく。GPTモデルは自然な文章で問い合わせができるが、この尋ねる質問文(プロンプト)の作り方がミソになる。

これを最近ではプロンプトエンジニアリングと呼ぶが、AIの種類や呼び出せる方法により癖があるため、適切な工夫をしていくことが最も重要な技術である。むしろ前述したようなアイデア創出フレームを考えたり実際のプロンプトの工夫を行う、その部分にこそ本来の人間の創造性が問われる。

初日の出は東から昇る
初日の出は東から昇る写真:イメージマート

GPTモデルの性質から考える長所と短所

質問先となるGPTモデルは莫大なテキストデータから前後の単語のつながりを学習してそれを知識として活用している。その仕組み上テキストデータ上で少ないつながりはあまり学習しない。このことはGPTモデルの限界を考える上で極めて重要なポイントである。テキストデータとして前後の単語のつながる確率が高い知識は、簡単に言えば一般的に常識とされる事柄である。例えば「太陽は東から昇る」といった事象である。しかし、インターネット上に知識の少ない特定の地域や個人に関する事柄、専門家によって見解の異なるような事象も正しく答えられないだろう。

しかし同時にそのGPTの持つ「常識」は一人の人間が一生の間に読める文章量を遥かに超えた文章から学んでいるところがさらに興味深い点だ。そういう意味では歴史上すべての個人の持つ知識を超えた集合的知識(集合知)をデータベースとして保持したのがGPTモデルである。

ここで問題になるのはむしろ人間の側である。普通の人間は自分が知らないことを過小評価したり、存在しないものとして扱う性質がある。(というより常に世界の裏側の事情を気にしながら生活することはできないので、目の前の現象に反応的に生きるようにできている感情的生物といったほうが正確だろう。)そういう点で特定の個人は良くも悪くも何らかのバイアス(偏り)を持っているが、GPTモデルを利用することでその偏りを気づかせ、自分が知らない世界へアクセスするための手がかりを教えてくれる。このあたりがGPTモデルが人々に驚きを持って迎えられた理由ではないかと思う。

マーケティングにおける新商品開発のような場面はまさにそれに当たる。ある程度のマス向けヒットを狙うのであればあまりにアイデアが特殊すぎても良くない。担当者個人のバイアスから逃れたより正しく一般的な視点の獲得が極めて大事になる。サービスの開発を通じて、このようなポイントがAIのアイデア生成における重要な論点になりそうな印象を受けた。

AIの生成する画像のパワー

また、今回我々の開発したアプリでは新しい商品アイデアを具体的にイメージできる画像を瞬時に生成するが、未知のアイデアの画像が瞬時にいくつも出てくることのパワーを強く感じた。イメージ画像があることにより具体的な新商品のありありとした印象を取得できるようになっているし、同僚などともイメージについて話が膨らみやすい。画像生成の依頼文(プロンプト)についてもその良し悪しで画像が大きく影響される。また今日画像に限らず音楽やその他の形式のコンテンツも文章から自在に生成されるAIが次々と登場していく。こういったマルチモーダル(注)なコンテンツの利用も人類がGPTモデルと付き合っていく中でノウハウとして学習すべき点だ。

(注:マルチモーダルとはコミュニケーションにおいて音声や画像などの様々な情報伝達手段を使うこと)

女子高生向けのアイスクリームのアイデアの画像
女子高生向けのアイスクリームのアイデアの画像

一方で、もちろんGPTから作り出されるアイデアには限界もある。何より「常識」に基づくものなので、人間本来の持つ独創的な創造性を獲得したとは言えない。前述したように人間としての自分の認知の偏りに気づく程度の機能であるとも感じている。ただそれでも人類の経験したことのない集合知に対するアクセス・コミュニケーションに革命的な変化が起きていることは間違いがない。

是非一度アイディエータを使ってみて感想などを教えてもらえるとありがたい。若干費用がかかるため、無料メールでの利用はお断りしているのは申し訳ないが、企業や団体・学校などに所属されている方であれば、現時点ではどなたでも無料で利用できる。

株)アンド・ディ

株)アンド・ディ(マーケティングリサーチ会社)代表。大学院卒業後シンクタンク勤務を経て大学教員に。主に政治・経済に関する意思決定支援システムなどを研究。日本初のVoting Assisted Applications(投票支援システム・いわゆるボートマッチ)を開発、他集合知による未来予測ツールなどを開発。現在はマーケティングリサーチにおけるAI応用システムの開発を行ってます。

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