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デジタル庁への期待:デジタル労働の環境整備

佐藤哲也株)アンド・ディ
(写真:PantherMedia/イメージマート)

先日デジタル庁が無事発足した。良い機会なのでデジタル政策として期待したいことについて今後いくつか整理していきたい。

最初のテーマとしてはデジタル労働を取り上げたい。デジタル労働、つまり電子機器を使ったプログラミングや多様なコンテンツ制作等をめぐる労働のことだ。今日国民経済における知的労働の重要性は言うまでもないが、現実の労働の現場では旧態依然とした労働基準法があるだけで国民の知的労働を促進させる政策や法律についてもっと考えられてもよいのではないかという思いがある。

デジタル化による雇用の構造変化を分析している日本総研の安井洋輔主任研究員のレポートによれば、産業連関表による分析ではICTサービスへの雇用構造のシフトが予測されておりデジタル労働の生産性向上は大きな国家的課題である。

まず前提として考えたいのはデジタル労働の特性として、その生産性が個人により大きく異なるということだ。また、特に生産性が発揮される時間や環境、業務内容が、好みにもより個人でも大きく異なることが挙げられる。これはプログラミングなどの高度な職務について当てはまる性質で、比較的均質な労働力の管理、特に経営サイドが労働者からの労働力搾取を防止することを主な目的としているように感じられる労働基準法では適切に管理しにくい部分である。

一応、私も経営者の端くれとしていわゆるホワイト企業に憧れており、会社では残業をなるべくしないように運用している。しかし例外的に若い社員から週末時間に余裕がありもっと仕事がしたいのでどうしたらよいかという相談を受けたことがある。一応現役のプログラマとしてその気持ちはわからないでもない。金曜日の夜に思いついた解決のアイディアを土日寝かせてしまうと細部を忘れてしまったりすることもある。仕事でそれが良いかどうかは別にして、何よりプログラミングを楽しんで書いている間はあまり他のことで頭を使いたくないという気持ちにもなる。そういった柔軟な働き方を実現するには裁量労働制を採用するのが望ましいが、現状それほど使い勝手が良いわけではないのは残念である。

また、デジタル労働者の不満の中でよくあるものとしては、利用するコンピュータの性能が低いために無駄な仕事が発生することが挙げられる。これは相当ストレスになる。特に高い生産性を実現しようという優秀なプログラマにとってそのような非効率を許容することは耐え難い苦痛であるが、セキュリティポリシーの遵守も含む会社の方針としては受け入れざるを得ない側面も出てくる。無論、会社の収益が厳しい状態で労働環境を改善できないのは経営的にはやむを得ないという考え方もある。ただし、労働者の安全で快適な環境を担保するという意味では、その環境の最低限の規準を示していくことも政策的に考えたい。

もっとも、このような現象は民間というよりもむしろ公務員の間でよく聞かれることはもっと知られてもよい。

以下はその一つの不満の例である。

もう一つ別の生産性向上の課題としては、労働者の学習機会について触れよう。デジタル産業領域ではその技術の革新速度が極めて早いことはよく知られている。それらの領域に労働者が適切にキャッチアップしていくためには、それらの技術に触れる時間的余裕の確保や学習機会の提供が必要である。特に新技術による効率的な方法論を学ぶことのメリットが大きいプログラマやITエンジニアの業界では、有志の勉強会やハッカソンと言われるコンテスト形式の競技会のようなものが開催される文化が形成されている。それらの勉強会が、コロナの影響でリモート対応しつつある中で、特定の技術領域へのオンラインでのアクセスは極めて容易になりつつある。経営者にとっても、自社の競争力の確保のためにも、労働者の学習機会を確保することが政策的にも求められていることはもっと理解されてよいだろう。

デジタル領域での労働固有の問題を解消し、デジタル労働に携わる人々が気持ちよく業務に当たれるような政策をデジタル庁には期待したい。

株)アンド・ディ

株)アンド・ディ(マーケティングリサーチ会社)代表。大学院卒業後シンクタンク勤務を経て大学教員に。主に政治・経済に関する意思決定支援システムなどを研究。日本初のVoting Assisted Applications(投票支援システム・いわゆるボートマッチ)を開発、他集合知による未来予測ツールなどを開発。現在はマーケティングリサーチにおけるAI応用システムの開発を行ってます。

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