追い出しを極限まで我慢出来た理由とは？

　今週末、京都競馬場で秋華賞（ＧⅠ）が行われる。

　２００４年にこのレースを制したのが、スイープトウショウだ。

　「春は無冠に終わってしまったので、秋こそは！という気持ちで臨みました」

　手綱を取った池添謙一は、当時を思い起こし、そう語った。

　レースでは後方に控えた。直線を向くまで我慢してから追い出すと、パートナーの末脚が弾けた。早目に抜け出した桜花賞馬のダンスインザムードを並ぶもなくかわし、先頭でゴールに飛び込んだ。

　「前哨戦のローズＳでは早目に動いた分、負けてしまいました。だから我慢する事を心掛けて乗りました」

　それにしても４コーナーでまだ後方３番手あたりというのは良く我慢出来たな？と思い、問うと、さすがの騎乗を見せた彼は１頭の名馬の名前を挙げ、話を続けた。

　「デュランダルとの経験が大きかったです。彼に我慢する事の大切さを教わったからこそ、ここもギリギリまで我慢出来たし、勝つ事が出来ました」

プレッシャーの理由

　ちなみにその時点でそのデュランダルと制したマイルチャンピオンシップ（ＧⅠ）など、既に３つのＧⅠ勝ちをマークしていた池添だが、師匠である鶴留明雄調教師の管理馬での大仕事はこれが初めてだった。

　「乗せ続けてくれるプレッシャーのある中、やっと結果を残せて本当に嬉しかったです」

　実際、その重圧は半端ではなかっただろう。スイープトウショウは元々、鶴留の馬ではなかった。前任者が定年で引退し、転厩して来た馬だった。それに伴って、鞍上も池添に替わった。その初戦のチューリップ賞（ＧⅢ）こそ勝ったものの、桜花賞（ＧⅠ）とオークス（ＧⅠ）はそれぞれ５、２着。池添は人知れず、悩んだ事だろう。

　しかし、そこはさすが、後にオルフェーヴルを駆って３冠制覇を成し遂げるジョッキーである。先述した通り、秋には見事に雪辱し、秋華賞を制した。

　そして、その後も同馬とのコンビで翌05年の宝塚記念（ＧⅠ）ではハーツクライやゼンノロブロイ、タップダンスシチーといった当時の牡馬の一流どころを一網打尽にして優勝。更にエリザベス女王杯（ＧⅠ）も勝利するのだった。

　「最後は馬場入りを拒むなど難しい面を出すようになってしまいましたけど、そういう事も含め、色々な経験をさせてくれた思い入れの深い１頭です」

　先週はドンフランキーで東京盃（ＪｐｎⅡ）を勝ち、プラダリアでは京都大賞典（ＧⅡ）を制した池添。今週の秋華賞ではマラキナイア（栗東・吉岡辰弥厩舎）の騎乗を予定している。リバティアイランド（栗東・中内田充正厩舎）の３冠制覇が注目される一戦だが、数々の修羅場を潜り抜け、ブリーダーズＣでの騎乗も決まった池添謙一が、あっさりと白旗をあげるわけはない。どんな騎乗を見せてくれるのか、注目したい。

（文中敬称略、写真撮影＝平松さとし）