丁度10年ぶりのJRA・GⅠ制覇を目指す、調教師と騎手の感謝の物語
祖父が牧場を経営
丁度10年前の5月5日、NHKマイルC(GⅠ)を制したのがマイネルホウオウ。騎乗したのは柴田大知騎手だった。
当時、単勝は3430円。18頭立ての10番人気というダークホースだったが、見事に勝利。上がって来て、一人の男に声をかけられた。
「『おめでとう』と言われたら、涙が止まらなくなりました」
声をかけたのは同馬を管理する畠山吉宏調教師だった。
1962年9月生まれで現在60歳の畠山。静岡県生まれだが、母方の祖父・金指吉昭が青森で青森牧場を営んでいたため「幼少時から牧場や競馬場へ行っていた」(畠山)。
金指は生産者としてオンスロートやトーヨーアサヒ、オーナーブリーダーとしては馬名に“カネ”のつく活躍馬を世に出していた。
「カネヒムロが勝ったオークス(71年)の口取り写真に私が写っています」
と、畠山。当時まだ8歳だったが、既に競馬が何であるかを認識していたと言う。
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)を卒業し、装蹄師会長期講習を受けた後、競馬学校に入学。美浦トレセン入りしたのは86年。
「トレセン入りした時から目指していた」という調教師には、8度目の受験で合格。2000年に開業した。
「海外で研修した時に体験した集団調教等を取り入れたかったけど、実際には馬房数やスタッフの問題もあって、なかなかうまくいきませんでした」
それでも04年にはマイネルデユプレが共同通信杯(GⅢ)を勝ち、重賞初制覇。05年にはシンボリグランでCBC賞(GⅡ)優勝。同じ頃、グラッブユアハートでは交流重賞を5勝もした。
ついに制したGⅠ
しかし、GⅠにはなかなか手が届かないまま干支がひと回り以上。そんな13年、ついにGⅠ初制覇を達成したのが冒頭で記したマイネルホウオウによるNHKマイルCだった。改めて柴田の弁。
「僕が乗り鞍もなくて苦しい時に、ずっと乗せ続けてくださったのが畠山調教師でした。いわば恩人といえる人で、そんな人の初GⅠ制覇に携われて、少しでも恩返しが出来たかと思うと、涙が溢れました」
そう感謝の意を表する柴田だが、畠山に言わせると、次のようになる。
「大知君は毎朝、欠かさずに調教を手伝ってくれていました。感謝しなくちゃいけないのはこちらの方です」
海の向こうでも同じ騎手で
そんな指揮官は19年にウインブライトで香港のクイーンエリザベス二世C(GⅠ)と香港C(GⅠ)をいずれも制覇。その際も現地の記者から「なぜ武豊騎手やC・ルメール騎手でなくて松岡(正海)騎手なんですか?」と聞かれ「ウインブライトにずっと乗ってもらっているからです」と答えていた。
「ウインブライトのお母さんのサマーエタニティを岡田繁幸社長(故人)からやらせていただいていました。その繋がりもあって、その子供であるウインファビラスもやらせていただきました」
ウインファビラスは、デビュー戦や阪神ジュベナイルF(GⅠ)で2着したのを始め、ほとんどのレースで松岡が騎乗した。
「ウインブライトはウインファビラスと父も同じステイゴールド。つまり、全弟ですからね。松岡君に乗ってもらうのは当然だと考えていました」
こうしてデビューからほとんどのレースで鞍上を任せた。たとえ海の向こうでもその姿勢を変える事はなかったのである。
目指せ10年ぶりのJRA・GⅠ制覇
さて、そんな畠山が今年のNHKマイルCにはミシシッピテソーロを送り込む。手綱を取るのはマイネルホウオウ同様、柴田大知だ。勝てば共にJRAの平地GⅠという意味ではマイネルホウオウ以来となる。10年ぶりにまたタッグでアッと言わせるか?! 大仕事を期待したい。
(文中敬称略、写真提供=平松さとし)