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武豊が語る朝日杯FS(GⅠ)勝ち馬ドウデュースの能力とこれから

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
朝日杯FS(GⅠ)を制したドウデュースと武豊騎手

鞍上自ら朝日杯FSを進言

 馬群が直線へ向くと、観客席がざわめき出した。

 「ユタカだ!」

 「武さん来い!」

 外からドウデュースが伸びて、前を掃除する。その背中には武豊。ゴールの瞬間、大きな拍手が阪神競馬場を包み込んだ。

 「勿論、分かりました。ダービーかと思うくらい大きな拍手でしたね」

 馬上から数々の景色を見てきた男をしても盛り上がった様には驚いたと述懐する。

朝日杯FSのパドックでのドウデュースと武豊騎手
朝日杯FSのパドックでのドウデュースと武豊騎手

 9月、小倉競馬場の芝1800メートルで新馬勝ちを収めたドウデュース。10月には同じ1800メートルで行われた東京競馬場のアイビーS(準重賞)を連勝。2戦2勝でGⅠに駒を進めた。

 当日の単勝は7.8倍の3番人気。1番人気のセリフォスが2.4倍で2番人気のジオグリフが3.2倍だから、少し差をつけられる形での評価だった事が分かる。

 そのような評価に甘んじたのは小倉デビューなどいくつかの理由があるだろうが、勝ち方にそう派手さがなかった事も大きな要因だったのではないだろうか。初戦、2戦目共に2着につけた差は僅かにクビ。しかし、日本一のジョッキーは「やれる」という手応えを感じていたと言う。

 「確かに派手ではないけど、横ブレしない推進力があって気性も素直で良い馬なんです」

 これは結果的にGⅠ馬になったから言ったセリフというわけではない。アイビーSを勝った時点で「東京の1800の準重賞を前で競馬をして楽に押し切れる2歳馬はそういないでしょう」と鞍上は語っていたのだ。

アイビーSを勝った際のドウデュース。この時点で鞍上は高い評価をしていた
アイビーSを勝った際のドウデュース。この時点で鞍上は高い評価をしていた

JRA平地GⅠ完全制覇に王手

 それらを考慮した上で、自ら朝日杯フューチュリティS(GⅠ)への参戦を進言したと続ける。

 「GⅠでも充分に走れる馬だと思ったし、ホープフルS(GⅠ、中山競馬場、芝2000メートル)と天秤にかけた時、阪神のマイルの方がより紛れが少ない。強い馬が力を発揮出来る舞台だと思ったし、スピードがあるので1600に短縮されるのがマイナスになるとは思えなかった。だから朝日杯に行ってほしいと伝えました」

 結果、その判断が的を射ていたわけだが、レース前にはクリストフ・ルメールとの間に、次のようなやり取りがあったと語る。ちなみにルメールが騎乗するのは先出のジオグリフ。前走の札幌2歳S(GⅢ)は鞍上が後ろを振り返りながらの大楽勝。ドウデュースと同じ2戦2勝だったが、こちらは高い評価を得て、先述した通り2番人気に支持されていた。

 「クリストフが『ユタカさんはあと朝日杯とホープフルSの2つを勝てばGⅠ完全制覇ですよね』と言った後『ボクはあと4つです』と続けて言いました。キャリアを考えたら凄い事だし、もたもたしていたら先を越されちゃうと思いました」

 それで気合いが入ったから勝てたというほど競馬は甘くないが、結果的に発奮材料になったのだとしたら、ルメールは敵に塩を送る形になってしまったのかもしれない。

朝日杯FS(GⅠ)のゴール前で抜け出すドウデュース
朝日杯FS(GⅠ)のゴール前で抜け出すドウデュース

新たなるGⅠホースの今後

 こうしてJRA平地GⅠコンプリートに王手をかけた天才騎手だが、タッグを組んだドウデュースの馬主がキーファーズである事は広く知られている。代表は松島正昭氏。「日本のナンバー1ジョッキーに凱旋門賞(GⅠ)を勝ってほしい」という夢を具現化するため馬主免許を取得。この秋の凱旋門賞では同氏が共同オーナーであるブルームで、武豊と共に大目標の達成に挑んだ。結果は残念ながら11着に敗れたが、大一番の後、パリ市内のレストランで催された残念会の席で、武豊は言った。

 「勝つのは簡単ではないけど、まずは挑戦しない限り勝つ可能性が全く無くなっちゃうわけですからね。これからも世界中で声をかけてもらえるようにまだまだ頑張ります」

 新たなるGⅠ馬ドウデュースが海の向こうへ挑戦し、その鞍上で武豊が躍動する。来年、そんなシーンが見られるかもしれない。期待しよう。

キーファーズの勝負服で海外競馬に挑戦した際の武豊。ドウデュースとのコンビでもこのようなシーンが見られるかもしれない
キーファーズの勝負服で海外競馬に挑戦した際の武豊。ドウデュースとのコンビでもこのようなシーンが見られるかもしれない

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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