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デアリングタクトの3冠に黄信号?! 大橋巨泉氏的「馬名」で秋華賞を占った結果は?

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
デアリングタクトの母の母デアリングハート。馬名を後世に伝える素晴らしい命名だ

無敗の3冠馬を目指す馬の名が持つ意味は?

 今週末、秋華賞(G1)が行われる。一昨年のアーモンドアイ以来となる牝馬3冠馬を史上初の無敗で目指すデアリングタクト(栗東・杉山晴紀厩舎)に注目が集まるが、今回は少し違う見解でこの大一番を占ってみよう。

一昨年はアーモンドアイが見事に牝馬3冠を達成したのが今週、行われる秋華賞
一昨年はアーモンドアイが見事に牝馬3冠を達成したのが今週、行われる秋華賞

 デアリングタクトの名を直訳すると「大胆な戦法」となるが、これは同馬の母がデアリングバード(勇敢な鳥)でありその更に母がデアリングハート(勇敢な心)という流れから命名されている。ちなみにデアリングハートの母デアリングダンジグの父はDanzig。これは現在のポーランドに存在した自由都市であり、その父がノーザンダンサーなので、北方を連想して命名されたのだろう。また、母はImpetuous Galで、そのまた母がImpetuous Lady(衝動的な女性)なので、母系も連想された名である事が分かる。

 つまりデアリングタクトは母系から代々受け継がれた由緒正しい名前なわけだが、父のエピファネイアとも絶妙に関連付けている点がお洒落だ。エピファネイアとは“公現祭”の事で、これはブリタニカ国際大百科事典に「復活祭、(中略)神が世に現れたことを記念する日で、1月6日」と記されている。1月6日は12月25日のクリスマスから12日目で、エピファネイアの母がシーザリオ(シャークスピアの喜劇「十二夜」の登場人物)である事からの連想だ。シェークスピアが劇作家で、数々の戯曲を世に送り出したことは誰もが知るところ。デアリングタクトは先述した通り「大胆な戦法」という意味ではあるが、“タクト”がドイツ語で「オーケストラ等を指揮する際に振るモノ」としても使用されることを考慮すると、この父系からの連想である事も分かる。ちなみにシーザリオとデアリングハートは同期で、2005年の桜花賞では一緒に出走をしている。

デアリングタクトの母の母デアリングハートは、デアリングタクトの父の母シーザリオ(写真)と同期だ
デアリングタクトの母の母デアリングハートは、デアリングタクトの父の母シーザリオ(写真)と同期だ

馬名は記号にあらず

 手元に「競馬解体新書」という本がある。1989年が初版のこの本は、ジャズやアメリカンフットボールなど、多岐にわたって造詣が深かった故・大橋巨泉氏の著作。氏は競馬の世界にも精通しており、オールドファンには競馬評論家としての顔も有名だ。現在は当たり前になっているグレード制の導入や距離別路線の整備などを、早くから呼びかけて来た人物の1人でもある彼が、この著書の中で「馬名は記号にあらず」という項を記している。その項の全文を書き移すわけにはいかないので端折るが、おおまかに次のように書かれている。

 「古今の名馬産家や馬主が苦心を重ねて考えた名前の馬たちが、父や母の名を後世に伝えてきた。オーバーに表現すれば馬名が三百年の歴史を連綿とつづって来た」

 例として先出のノーザンダンサー(北の踊り子)の例を挙げている。これも概要を記すと次のようになる。

 「同馬の父はNearctic(北極近く)であり、その父Nearcoからの語呂合わせで命名された。また、北の踊り子の仔にはニジンスキー(ソ連の高名なバレエの名手)、そしてその子供にグリーンダンサー(未熟な踊り子)という名がつけられ、更にその子供にノーアテンション(誰も見てくれない)がいる。これらの名は巧みに母方のニュアンスも込められており、例えばグリーンダンサーの母はグリーンヴァレーであり、ノーアテンションの母はノーノーアネットだ」

 こんな例を挙げた後、氏は次のような想いを記して嘆く。

 「ところがこうやって物語を受け継がれて来た血統馬が、日本に来るとほとんどはその歴史や文化とは何の関わりもない牧場名やオーナーの名の一部をつけられてしまう」

 要するに冠名を嫌っていたのである。私は巨泉氏ほどその命名法を批判する気はないが、氏が続く項で記していた「血統的混乱は必ず来る」という意見には頷かざるをえない。加齢により記憶力が低下しているという個人的な情けなさもあるのだが、父も母も兄姉も皆、同じ冠を配された馬となると、予想する上でも混乱してしまう。あくまでも個人的な見解ではあるが、そういう意味では冠名はあまり歓迎したくないのだ。

馬名からみた秋華賞

 さて、そんな観点から、成績を全く無視して、個人的な馬名の好みだけを元に秋華賞出走馬に着順をつけてみた。ちなみに10年前にこのレースを制し牝馬3冠を達成したアパパネは“ハワイに生息する赤い鳥”。父のキングカメハメハ(ハワイの初代国王であるカメハメハ大王)からの連想というスマートな名だったが、果たして今年の出走馬にそれに優る名はあるか。記していこう。

2010年に牝馬3冠を制したアパパネもまたセンスのあるネーミングをされた馬だった
2010年に牝馬3冠を制したアパパネもまたセンスのあるネーミングをされた馬だった

 まず8着はアブレイズ。“炎上”の意。“光と月の女神”の意味である母エディンや“陽炎”を意味する兄カリマからの連想だろう。

 7着ソフトフルート。“イチゴなどの果実”を意味する園芸用語で、母ストロベリーフェアからの連想。ストロベリーズやフラガリアといったイチゴ繋がりの名の姉もいる。

 6着サンクテュエール。“聖域”の意味。全兄ヴェルテアシャフトはドイツ語で“世界制覇”、半兄のシェドゥーヴルはフランス語で“傑作”をそれぞれ意味する。これらからの連想だろう。

 5着クラヴァシュドール。意味は“金の鞭”。姉はショウナンダズルで、このダズルという英語は“まばゆい”“目がくらむ”などの意味がある。

 4着は先出のデアリングタクト。無敗の3冠馬へまっしぐらの彼女だが、申し訳ない事に、個人的な勝手な見解の馬名秋華賞ではここまで。

フラワーC勝ちのアブレイズ。母や兄の名から連想された馬名だ
フラワーC勝ちのアブレイズ。母や兄の名から連想された馬名だ

 さて、ここからは馬券圏内(?)である。

 まず3着はミスニューヨークとした。彼女は母がマンハッタンミートでその父があのマンハッタンカフェ。血統予想をする上でも親切な馬名である。

 ちなみにマンハッタンミートの母はダノンエトランゼルで、このエトランゼルというフランス語は“外国人”とか“異邦人”といった意味。外国人がマンハッタンのカフェで“出会う”からマンハッタンミートか?!と深読みしたが、河内洋厩舎で走ったこの馬の資料を見直すと、マンハッタン“Meet”ではなく“Mito”。これはイタリア語の“神話”の事だった。これが“Meet”であればミスニューヨークの“ミス”も“お嬢様”と“会いたい(寂しい)”のダブルミーニングになるかと思われただけに少々残念。

 続いて2着はダンツエリーゼ。冠名である(苦笑)。当然、今回の見地では上位争いはし辛いわけだが、それでも2着になるには当然、理由がある。この馬の母はワスレナグサ。“忘れな草”だ。その花言葉は“私を忘れないで”。そこでダンツエリーゼの“エリーゼ”である。この女性名を聞いてベートーヴェンが作曲した“エリーゼのために”を連想された方も多いのではないだろうか。誰でも1度は聞いた事があるだろう“エリーゼのために”だが、日の目を見たのはベートーヴェンの死後である事をご存知だろうか。そして、当時「エリーゼが誰か?」も話題になったそうで、最終的にはベートーヴェンが愛したテレーゼ・マルファッティが有力説で落ち着いたらしい。つまり、この曲自体が「忘れ去られそうな」状況から発見された事に加え、作曲した際のベートーヴェンの気持ちも「私を忘れないで」だったのかもしれず、だとするとワスレナグサの仔にエリーゼという命名は絶妙だと思えたのだ。また、贈った先が愛した相手という点を考慮すると、ダンツエリーゼの父がキズナというのも、何となく偶然ではなく思えてしまうのだった。

ダンツエリーゼは母系だけでなく父のキズナからの連想でもあったのか?
ダンツエリーゼは母系だけでなく父のキズナからの連想でもあったのか?

 さて、馬名に於いて秋華賞を制したのはミヤマザクラにした。先述のアパパネの馬主でもある金子真人氏(名義は金子真人ホールディングス)には素晴らしい命名でたびたび感服させられるが、この馬の名も実に奥が深い。同馬の兄姉は全て同オーナーが所有していたが、牝馬にはウインターコスモス(冬のコスモス)やスノーグース(白バラの品種)といった花の名が付けられた。そして牡馬はマウントロブソン(ロッキー山脈の最高峰)、ポポカテペトル(メキシコ富士)、シエラネバダ(カリフォルニアの大山脈)など山系で命名された。それらの妹に“深山桜”と命名するだけでもセンス抜群だが、この深山桜の生育環境を知ってまた驚かされた。調べてみると生息環境には石灰岩地帯も含まれているとの事。ミヤマザクラの1歳上の兄ボスジラはカザフスタンの“石灰で出来た白亜の大地”であり、金子オーナーがこのあたりも考慮して命名したとなると、まだまだ隠された意味を内包しているのでは?と考えさせられる。ちなみに深山桜の花は白色で、ミヤマザクラは芦毛馬である事も記しておこう。巨泉氏が生きていれば、金子オーナーを“競馬文化の継承者の1人”として褒め称えたのではないだろうか。

馬名から占う秋華賞で個人的に優勝とさせていただいたミヤマザクラ。馬の向かってすぐ左が命名センスの光る金子オーナー夫妻だ
馬名から占う秋華賞で個人的に優勝とさせていただいたミヤマザクラ。馬の向かってすぐ左が命名センスの光る金子オーナー夫妻だ

 当方の勝手な解釈で秋華賞出走馬の馬名をチェックしたが、実際は別の意味合いで命名された馬もいるかもしれないし、当方の知識不足によりピックアップ出来なかった馬もいるだろう。ただ今回は純粋に馬名を楽しんでいただければ、という遊び心で書かせていただいたので、関係者の皆様はどうか気を悪くなさらないでいただきたい。実際の結果は全く異なって来ると思え、私自身、馬券はウインマイティーから狙ってみたいと考えている。最後に改めて馬名から占った秋華賞の上位着順を記しておこう。

 1着ミヤマザクラ

 2着ダンツエリーゼ

 3着ミスニューヨーク

 4着デアリングタクト

 5着クラヴァシュドール

 6着サンクテュエール

 7着ソフトフルート

 8着アブレイズ

馬名も素晴らしいデアリングタクトの結果はいかに?(写真;アフロ/日刊スポーツ)
馬名も素晴らしいデアリングタクトの結果はいかに?(写真;アフロ/日刊スポーツ)

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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