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スウェーデンの歓喜から1年。進化を続ける藤田菜七子騎手

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
丁度1年前、スウェーデンでのイベントで見事に優勝しカップを受け取る藤田菜七子騎手

海外イベント優勝から丁度1年

 丁度1年前、私はスウェーデンで忙しくパソコンのキーボードを叩いていた。

 現地6月30日にブローパーク競馬場でウィメンジョッキーズワールドカップ2019が行われ、日本から招待された藤田菜七子騎手(美浦・根本康広厩舎)が総合優勝したのだ。その瞬間、新聞社など報道関係のいくつかの社から急きょ連絡が入り、ニュース記事やインタビュー、写真の電送に追われ、慌ただしくなったのだ。

スウェーデンでの藤田。この翌日、見事に優勝を決める
スウェーデンでの藤田。この翌日、見事に優勝を決める

 好天に恵まれた当日は地元スウェーデンの騎手の他、藤田など世界中から10人の女性騎手が集まり、各人5レースに騎乗し覇を競った。その結果、藤田は2勝、2着1回の好成績を収め、総合得点でトップ。見事に優勝を決めたのだ。JRAで唯一の女性ジョッキーは当時、言っていた。

 「日本で沢山の馬に乗せていただいた経験や、これまでにも世界中の招待レースで乗せていただいた経験があった事が、今回の優勝につながったと思います。そういった多くの経験をさせてくださった関係者の皆さんに感謝しかありません」

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 思えばデビューしてすぐにイギリスへ招待されていた。今週末、ディアドラやエネイブルが出走を予定しているエクリプスS(G1)の舞台となるサンダウンパーク競馬場での招待レースだった。騎乗予定だった馬が放馬したため海外初騎乗は幻に終わったが、代わりにアブダビに招待された。その後、マカオには日本の至宝・武豊と共に招かれた。更にこのスウェーデン遠征の2年前にもかの地で乗っていた。

デビュー年からアブダビで騎乗するなど、経験を積んで来た
デビュー年からアブダビで騎乗するなど、経験を積んで来た

 一旦帰国後はこのスウェーデンでの活躍が認められてイギリスの騎手招待レースであるシャーガーカップにも初選出された。国内での騎乗数も徐々に増え、それに比例して勝ち鞍も右肩上がり。10月には東京盃(Jpn2)を、12月にはカペラS(G3)を共にコパノキッキングに騎乗して優勝。地方での重賞制覇に続き、JRA所属の女性騎手としては史上初となる平地重賞優勝という偉業を達成してみせた。更に今年の4月にはJRA通算100勝も達成。デビュー5年目となる今年はその活躍にますます拍車がかかっている感がある。北欧の優勝劇から1年が経ち、更に経験を積み、客観的に見て明らかに上手になっていると言えるだろう。

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本来なら今年も招待される予定だった

 そんな彼女は本来なら今年もまたスウェーデンで乗れる予定だった。実はこれは昨年から決定していた。優勝した時点で、副賞として「来年(2020年)はディフェンディングチャンピオンとして参加」すると決まっていたのだ。しかし、折からの新型コロナウィルス騒動で、今年はこのイベント自体が空中分解してしまった。果たして来年、再びディフェンディングチャンピオンの座を用意してくれるのかどうかはまだ分からない事もあり、これには藤田も「残念です」と肩を落とした。

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 ただし、これからまた1年が経てば若い藤田自身は更に成長を見せるであろう事は疑いようがなく、この点は私からもスウェーデンサイドに、更にこれまた今年は中止が決定したシャーガーCのアスコットサイドにもプッシュしようと考えている。

 ちなみに昨年のウィメンジョッキーズワールドカップ2019終了後には、主催者の音頭で皆が泊っているホテルで夕食会が催された。勿論ジョッキーも全員、参加したそのディナーの後は敷地内のスパ施設に移動。皆で水着を着用して一緒にお風呂に入ったり、池に飛び込んだりして楽しんだ。藤田は水着に着替える事はなかったが、他のジョッキーや日本から応援に駆け付けた我々と一緒に笑顔でこの時間を過ごしたものだ。

スウェーデンの打ち上げを行ったホテル内の敷地
スウェーデンの打ち上げを行ったホテル内の敷地

 来年の今頃はまたそんな光景が繰り広げられる事を信じたい。日本も無観客競馬が続いているが、少しでも早くこの騒動が収束して欲しいと願う気持ちは、ジョッキーもファンも変わらない。先出のように今週末には日本馬ディアドラがイギリスで走る予定をしているが、進化を続ける日本の女性ジョッキーがまた世界で活躍する姿を1日も早く見てみたいと願うばかりである。

総合優勝を決め、写真とカップを受け取った藤田。世界中で彼女のこの笑顔が見られる日が戻って来る事を願おう
総合優勝を決め、写真とカップを受け取った藤田。世界中で彼女のこの笑顔が見られる日が戻って来る事を願おう

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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