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数字から推察された2強対決の落とし穴。アーモンドアイとサートゥルナーリアの決定的な差とは

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
天皇賞(秋)を快勝したアーモンドアイ。写真提供=青山一俊

2強、それぞれの臨戦過程

 27日、東京競馬場で行われた天皇賞(秋)(G1、芝2000メートル)をアーモンドアイ(牝4歳、美浦・国枝栄厩舎)が圧勝した。

 レース前はアーモンドアイと新星サートゥルナーリア(牡3歳、栗東・角居勝彦厩舎)が2強と目されたが、終わってみれば昨年の年度代表馬の1強と言える結果となった。

 アーモンドアイは昨年、桜花賞(G1)、オークス(G1)、秋華賞(G1)の牝馬三冠をコンプリート。史上5頭目の牝馬三冠馬となると、返す刀でジャパンC(G1)も優勝。海外からの遠征馬を含む古馬の一線級を相手に2400メートルを2分20秒6という驚異的なレコードタイムで完勝。それも先行してこの時計をマークしたのだから他馬は手の打ちようがなかった。

 更に今年に入ってからは海をわたり国境を越えた。ドバイへ遠征するとドバイターフ(G1)をまたしても楽勝。改めて世界に彼女の強さを知らしめた。

今年のドバイターフを優勝。改めて世界にその強さを披露したアーモンドアイ
今年のドバイターフを優勝。改めて世界にその強さを披露したアーモンドアイ

 しかし、その後に出走した安田記念(G1)は久しぶりの1600メートル戦の上、スタートで大きな不利を受けた事もあり、追い込み届かず3着。脚を余す形で負けてなお強しと思わせたものの、新馬戦以来となる敗戦を喫してしまった。

 今回の天皇賞はその安田記念以来約5ヶ月ぶりの競馬。他馬に付け入る隙があるとすれば、そのあたりかと思われた。

 一方、サートゥルナーリアは2歳だった昨年、ホープフルS(G1)を3戦3勝で制覇。今春は皐月賞(G1)を勝ち2つ目のG1勝ち。日本ダービー(G1)こそ4着に敗れたが、この秋初戦となった神戸新聞杯(G2)は2着のヴェロックスに3馬身の差をつけて勝利。ゴール前はほぼ持ったままで着差以上の圧勝をしてみせた。これで通算成績を6戦5勝とした同馬は3歳同士の菊花賞(G1)ではなく、距離適性を重視してこの天皇賞に挑んで来た。

 先述した通りそれぞれの調教師は国枝と角居という日本を代表する伯楽という事も後押しし、2強対決の色は濃さを増していった。

 また、2頭の主戦騎手はいずれもクリストフ・ルメールだったが、この一戦で彼はアーモンドアイに騎乗。空位となったサートゥルナーリアの鞍上にはフランスの名手クリストフ・スミヨンが指名され、この大一番を迎えた。

今年の皐月賞でG1・2勝目をマークしたサートゥルナーリア
今年の皐月賞でG1・2勝目をマークしたサートゥルナーリア

結果は女王の圧勝

 レースは2番枠から好スタートを決めたアーモンドアイに対し10番枠のサートゥルナーリアは決して早いとは言えない発馬。スミヨンは少しうながしながらアーモンドアイの前を取りに行ったが、この時、少し掛かり気味になってしまった。

 一方のアーモンドアイは無理する事なく下げたが、内枠という事もあり、包まれるような態勢になってしまった。4コーナーでも前にはズラリと壁のある状態。手応えは悪く見せず、ルメールがどうやって馬群を捌くのかが焦点になると思われた。しかし、結果的にそう思えたのも一瞬の事。次の刹那、最内を突くとアーモンドアイは瞬時に反応。狭いインを割り、あっという間に先頭に立つと一気に後続を引き離す。サートゥルナーリアの鞍上でスミヨンが「最後はスタミナがなくなってしまった」と伸びを欠いたのとは対照的に、さすがという脚を披露。逃げたアエロリットをかわしてダノンプレミアム(牡4歳、栗東・中内田充正厩舎)が2着に上がった時、既にその3馬身前でゆうゆうとゴール板前を駆け抜けて見せた。

2着に3馬身差をつけ圧勝したアーモンドアイ。写真提供=青山一俊
2着に3馬身差をつけ圧勝したアーモンドアイ。写真提供=青山一俊

2強の大きな違いとは……

 サートゥルナーリアは結局6着に敗れた。2強の一角と目された馬としては残念な成績に終わったわけだが、正直、個人的には考えられない結果では無かった。決して結果論で言っているのではなく、スポーツ新聞に掲載している私の予想欄でもまだまだアーモンドアイとは力差があると記したのだが、これは単なる勘や当てずっぽうではなく、数字的な裏付けがチラチラと顔をのぞかせていたのだ。

アーモンドアイとサートゥルナーリアはあくまでも現時点では力差があると判断した平松の予想記事
アーモンドアイとサートゥルナーリアはあくまでも現時点では力差があると判断した平松の予想記事

 サートゥルナーリアは皐月賞を勝ったもののその時は2着のヴェロックスや3着のダノンキングリーとはアタマ、ハナ差と差のない辛勝。ダービーでも先述した通り4着に敗れるのだが、この2つのレースと彼がポテンシャルの高さを見せた神戸新聞杯やホープフルSとでは数字的に大きな差異が見て取れた。

 皐月賞とダービーの前半5ハロン通過ラップはそれぞれ59秒1、57秒8だったのに対し、神戸新聞杯とホープフルSは63秒4と62秒5。ダービーは序盤から10秒台や11秒台のラップが半マイルにわたって続いたのに対し、ホープフルSの前半は12〜13秒台ばかり。神戸新聞杯に至っては13秒台が半マイルも続く明らかに遅い流れ。つまりサートゥルナーリアは現状、底力の求められる速い流れではなく、瞬発力が要求される遅い流れでこそ高い能力を発揮出来るタイプだと思われた。勿論、弱い馬ではないから軽視は出来ないが、現状予想される流れ通りになれば苦戦してもおかしくないと思えたわけだ。

 一方のアーモンドアイは先にも記したようにとんでもないレコードを記録したジャパンCも先行しての押し切り。分かりやすく言えば速い流れであってもそのままのスピードを最後まで持続して走り切れる底力があったのだ。

 東京の2000メートルのG1となれば、まず遅い流れになる事は考えられない。こう考えると答えは自ずと見えてくる。今回に関してはアーモンドアイの方にかなり分があると考えられた。

 果たして結果は予想通り。前半5ハロン59秒0というラップは2000メートルのG1としては決して速い流れではなかったものの、1ハロン過ぎから実に9ハロンにわたって11秒台を刻む息の入らない流れは、緩い流れを得意とするサートゥルナーリアには厳しく、若き挑戦者は馬群に沈む事となった。

 こうして今年の天皇賞(秋)は女王がその威厳を見せつける格好となった。しかし、サートゥルナーリアとてまだ3歳の身であり、この一戦の敗退によりクラシックホースとしての未来が閉ざされたわけでは決して無い。また2着のダノンプレミアムとてそれは同様で、彼等は決して弱い馬というわけではない。自分の形になった時には今回とはまた違うパフォーマンスを見せられる能力を有しているのは疑いようがないのだ。次世代を担う彼等が女王の胸を借りた事でひと皮むけて今後さらなる活躍をしてくれる事を願いたい。

厩舎での女王アーモンドアイ。サートゥルナーリアやダノンプレミアムが今後、彼女に迫り更なる名勝負を見せてくれる事を願いたい
厩舎での女王アーモンドアイ。サートゥルナーリアやダノンプレミアムが今後、彼女に迫り更なる名勝負を見せてくれる事を願いたい

(文中敬称略、写真提供=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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