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アーモンドアイの凱旋門賞挑戦断念とシャケトラの死亡。全く別の2つのニュースから見えたものは……

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
ドバイターフを勝ったアーモンドアイだが今年の凱旋門賞には出走しない事になった

飛び込んできた2つのニュース

 丁度1週間前の4月17日、続けざまに入った2つのニュースに耳を疑った。

 1つはシャケトラが星になったという悲報。そしてもう1つはアーモンドアイが凱旋門賞に登録しないという記事だ。

 出どころも全く違う2つのニュースだが、私には“あの馬”とも繋がった1つの物語のように感じられた。

アメリカJCCを制した時のシャケトラ。この後、阪神大賞典も制し天皇賞でも有力と思われたが……
アメリカJCCを制した時のシャケトラ。この後、阪神大賞典も制し天皇賞でも有力と思われたが……

 シャケトラの調教師は角居勝彦。更に遡ること2週間、4月1日に死亡したウオッカは、現役時代、彼の管理下で活躍。牝馬による日本ダービー制覇を成し遂げた。また、シーザリオによるアメリカンオークス優勝、デルタブルースとポップロックによるメルボルンCのワンツーフィニッシュなど国内外での活躍には枚挙に暇がない。

 中でも海外の大仕事として今なお語り継がれているのがドバイワールドC制覇だ。2011年にヴィクトワールピサを送り込んで達成したその偉業は東日本大震災に打ちひしがれる日本列島に勇気を与えてくれた。

 そんな角居をしてもまだ勝てていないのが、ヨーロッパの最高峰と言われる凱旋門賞(G1、フランス・パリロンシャン競馬場、芝2400メートル)だ。

 先出のヴィクトワールピサでは10年に7着、ドバイワールドCを制した後の11年にもかの地へ飛んだが脚元を痛めたため、出走せずに帰国の途についた。高い輸送費をかけてまで現地入りしながら、レースに使う事なく帰国したのだから相当の重症かと思いきや、ジャパンCには出走(凱旋門賞は10月でジャパンCは11月)。意外と軽い症状だった事が判明した。つまり角居は金銭的にどうといったいわゆる人間の都合ではなく、馬自身の状態がどうか?というあくまでも馬を基軸にした行動をとったのであった。

 当然、その姿勢は現在も変わっていない。そんな角居をしても、時に避けられないサラブレッドの宿命がある。今回のシャケトラの件はそう思わせる事象であったのだ。

2010年、凱旋門賞に挑んだヴィクトワールピサは7着に敗れた
2010年、凱旋門賞に挑んだヴィクトワールピサは7着に敗れた

改めてアーモンドアイの凱旋門賞挑戦取りやめを考える

 そこで改めて今回のアーモンドアイの凱旋門賞挑戦の取りやめを考えよう。

 18年には牝馬三冠を圧倒的な強さで制し、返す刀でジャパンCも驚異的なレコードタイムをマークして優勝。JRAの年度代表馬となると、今春のドバイではドバイターフを制覇。初の海外遠征も難無く突破して世界デビューを白星で飾った。

 秋には凱旋門賞という話は同馬の周辺で早くから聞かれており「この馬の能力を持ってすれば日本ホースマンの悲願がついに達成されるだろう」と多くの人が来るべきその日に思いを馳せていた。

 それだけに今回の遠征をしないという報せにはがっくりと肩を落とす人が多かった。中にはみすみす勝てるチャンスを棒に振ったとまで言う関係者の姿も見られた。

 ではなぜ陣営はフランス遠征を取りやめたのか。その理由をオーナーである有限会社シルクレーシングの米本昌史代表取締役が発表しているので、文面を一部抜粋して記させていただく。

 (前略)多くの専門家の方々がおっしゃっていただいている通り、コンディションが整えば凱旋門賞で素晴らしいパフォーマンスを見せてくれることとは思います。しかし、ドバイ遠征における新たな環境への対応・レース後の様子・長距離輸送での体調の変化などを精査した結果、凱旋門賞への挑戦はこれまでの本馬の経験上、コース・距離・斤量、そして初めての環境と全てがタフな条件となることから、環境適応力・レースそのものの本馬への負荷・レース後のケア環境・長距離輸送などの条件を鑑みますと、「ベストのレース選択ではない」、との結論に至りました。(以下略)

ドバイターフを完勝したように思えたアーモンドアイだが果たして……
ドバイターフを完勝したように思えたアーモンドアイだが果たして……

 ドバイのレースぶりは完勝に見えたが、この文面を読む限り、実際には思った以上の負担を彼女は強いられていたという事か。文面にあるような様子や体調の変化というのは取材出来る敷地内に張り巡らせたアンテナでは捕らえる事が出来なかった。レース後に多少フラつく場面はあったがこの馬の場合それはいつもの事。秋華賞などの時と比べればむしろずっと軽い症状で、海外遠征が影響していたようには思えなかった。それだけにベンチ裏での見た目なのか、それとも科学的根拠に基づく数値の裏付けがあるものなのかはっきりしないので、多少のもやもやした感が残る。

 しかしながら負けていたなら兎も角、勝っているだけにもし数値的な裏付けがあるのだとしたら、それを陣営側がわざわざ発表するのも不可解で、故に一般のファンの方々からしたら納得し難いというその感覚は尚更強いことだろう。

 さて、そこで思い出していただきたいのが先述したヴィクトワールピサだ。同馬はドバイを制したがその秋にはトリコロールの頂を断念して帰国した。今回のアーモンドアイはその断念が更に早まっただけで、理由としてはドバイワールドCの覇者同様、あくまでも馬本位に考えた結果だと思いたい。代わって角居厩舎で同じノーザンファーム生産の牡馬サートゥルナーリアにフランス遠征の話が出ている事から穿った捉え方をする向きもあるようだが、ここは単純にこちらの岸とあちらの岸で干潮と満潮のタイミングが重なっただけと考えよう。角居に残された凱旋門賞挑戦のチャンスは今年を含めてもあと2回しかない。新たなる若き挑戦者を同僚だったシャケトラも応援してくれる事と思いたい。

サートゥルナーリアにはアーモンドアイの分も凱旋門賞で頑張ってもらいたい
サートゥルナーリアにはアーモンドアイの分も凱旋門賞で頑張ってもらいたい

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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