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有馬記念の枠順抽せん会にみた悲喜こもごも。絶好枠と思われる枠順を引き当てたあのジョッキーの本音は?!

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
12月21日、都内で行われた第62回有馬記念の枠順抽せん会。

第62回有馬記念は今年も公開枠順抽せん会

 12月21日、東京の品川プリンスホテル。

招待されたファンも見守る中、有馬記念の公開枠順抽せん会が行われた。

 キタサンブラックに騎乗する武豊騎手ら、出走馬の調教師や騎手、オーナーらがほぼ全員出席して行われたこのイベントはテレビでも中継されたのでご覧になられた方も多いだろう。しかし、中には中継をみられなかった人もいるかと思うので、改めてここに記し、笑顔をみせたジョッキーや、唇を噛んだ調教師ら運不運に翻弄された関係者の悲喜こもごもをお伝えしよう。

 今年の枠順抽せんの方法は次の通り。

まずは特別ゲストの柳楽優弥氏と高畑充希氏がランダムにカプセルを引く。カプセルを開けると馬名が書かれた紙が入っており、そこで指名された馬の関係者が改めて別のポッドに入っているカプセルを引く。そちらのカプセルには数字の書かれた紙が入っており、その数字がそのまま枠順になる。凱旋門賞などでもみられる至ってシンプルな方法だ。

まずはゲストの高畑充希氏(左)と柳楽優弥氏が馬名の入ったカプセルを引くところから抽せんは始まった。
まずはゲストの高畑充希氏(左)と柳楽優弥氏が馬名の入ったカプセルを引くところから抽せんは始まった。

キタサンブラックは武豊が引き、絶好枠を引き当てる

 いの一番に指名を受けたのはサウンズオブアース。壇上に上がった藤岡健調教師とクリスチャン・デムーロ騎手。真っ先に指名されたことを問われたクリスチャン・デムーロは「先でも後でも関係ない」と言い、会場の笑いを誘ったが、クジを引くと実際に自らの言葉を体現してしまうことになる。

 「1~5までの内枠が希望」と言ったクリスチャンの意に反し、出てきた数字は大外を意味する16番。先に指名されたからといって良いわけではなかった結果には苦笑するしかなかった。

 次に呼ばれたのはシャケトラ。角居勝彦調教師と福永祐一騎手が登壇。

 「昨日、角居厩舎の忘年会があり、スタッフ皆に内枠を引いてと言われた」と語る福永がクジを引く。結果は7番。角居は「よしよし、グッド」と笑みをみせた。

 3番目がヤマカツエース。池添兼雄調教師、池添謙一騎手の親子が壇上へ。

 「内が欲しい」と言った池添謙一が引き当てた枠は最内1番。これには思わず父親がガッツポーズ。息子は自ら「勝負強い!!」と言い、4着だった昨年以上の順位が狙えると気色ばんだ。

 次に指名されたのはミッキークイーン。池江泰寿調教師と浜中俊騎手が壇上に上がり、クジは浜中が引いた。ポッドに残る13個のカプセルを混ざることもなく1番上にあるカプセルを無造作に引く。その瞬間、顔をしかめたのが池江だ。池江は何らかの直感があったようで「そこだけはやめてくれと思った」と後に語る。

 結果はその勘がズバリ的中。「2、4、6番が希望」という浜中の思いとは真逆の13番となってしまった。

 池江は気を取り直し「13は僕のラッキーナンバー」と言いつつも、苦笑いは消えなかった。

「そこはやめてくれと思った」と語る池江泰寿師(左)と苦笑する浜中俊騎手。
「そこはやめてくれと思った」と語る池江泰寿師(左)と苦笑する浜中俊騎手。

 その次の指名を受けたのはスワーヴリチャード。庄野靖志調教師とミルコ・デムーロ騎手が登壇する。

 「僕はクジ運が悪いから……」とミルコが言い、庄野がクジを引く。結果は14番。

 「できれば内が良かったけど、乗りやすい馬なのでどこでも大丈夫」とミルコ。

スワーヴリチャードのミルコ・デムーロ騎手(右)と庄野靖志調教師。
スワーヴリチャードのミルコ・デムーロ騎手(右)と庄野靖志調教師。

 そして6番目に出てきたのがファン投票1位のキタサンブラック。清水久詞調教師と武豊騎手が壇上に上がるとカメラのシャッター音もひと際多く、響き渡った。

 「(北島三郎)オーナーの指名で」と武豊が引くと、なんと絶好の2番枠。これには会場からも一段と大きな拍手が沸く。最初、満足そうな表情をみせた武豊だが、あまりに大きな拍手が起きたせいか、少しためらいがちに口を開いた。

 「これは結果ではありませんから」

 それでも絶好枠を引いたことにはやはり不満は無さそうで、次のように続けた。

 「1番欲しかった枠です。出遅れもある馬だから注意が必要だけど、ラストランなので最高の結果にしたいですね!!」

絶好の2番枠を引き当てて思わず笑みのこぼれる武豊騎手。しかし、本音は……。
絶好の2番枠を引き当てて思わず笑みのこぼれる武豊騎手。しかし、本音は……。

シュヴァルグラン、ヒュー・ボウマンの本音は

 7、8番目は“サトノ”軍団。サトノクロニクルとサトノクラウンが指名された。

 サトノクロニクルの戸崎圭太騎手は6番枠を引き「良かったです。勢いのある馬なのでそれを引き出したい」と言い、12番を引いた堀宣行調教師(サトノクラウン)は「現時点ではわからないけど、終わってみれば良い枠だったと言える結果になって欲しい」と語った。

 折り返しの1番目、全体の9頭目での指名となったのはトーセンビクトリー。シャケトラに続いて角居が登壇。騎手の田辺裕信も一緒に上がったが、どちらがクジを引くかは互いに譲り合った結果、角居に。ポッドに手を入れる角居の後ろで田辺は両手のてのひらを角居に向けて“気”を送るポーズ。その成果もあったのか(?)5番枠を引き当て、2人は握手をかわした。

 10、11番の指名はレインボーラインとルージュバック。前者は浅見秀一調教師と岩田康誠騎手、後者は大竹正博調教師と北村宏司騎手が登壇。

 8番という結果に岩田は「2枠が欲しかったけど、ここなら真ん中だから良い」。

 11番となった北村は「これから毎日悩みます」と言った。

 続いて指名されたのがジャパンCの覇者シュヴァルグラン。友道康夫調教師とヒュー・ボウマン騎手が上がる。

10番という結果にボウマンは強がることなく「3か4が良かったのに……」とまだ残されていた内枠に本音を漏らした。しかし、その後はきっぱりと次のように続けた。

 「状態は良いようなので僕は自分の仕事をするだけです!」

10番枠となったシュヴァルグランのボウマン騎手は「3か4が欲しかった」と語った。
10番枠となったシュヴァルグランのボウマン騎手は「3か4が欲しかった」と語った。

本当に良い枠が決まるのは……

 13番目の指名を受けたのはサクラアンプルール。金成貴史調教師と蛯名正義騎手が登壇。

 蛯名騎手は3年前のオーシャンブルーから始まって一昨年、昨年のマリアライトまでナント3年連続で大外16番枠。

 「今年はもう16は埋まっているので」とクジを引く前に言ったが、まだ15番は残っている。変な空気に包まれる中、引いた枠は9番。

 「ずいぶん内になりました」と言う蛯名の言葉に開場は笑いに包まれた。

 3、4、15番が残った状況で、まず指名されたのはカレンミロティック。平田修調教師と川田将雅騎手が登壇。迷うことなく川田が引いた結果は15番。会場からは「あ~ぁ」と残念がる声が聞かれた。

 残された枠は3と4。指名されたクイーンズリングの吉村圭司調教師とクリストフ・ルメール騎手が先に壇上へ。最後まで指名されなかったブレスジャーニーの佐々木晶三調教師と三浦皇成騎手も一緒に登壇し、ルメールがクジを引く。残ったカプセルを三浦が取り、2人同時に開くと、クイーンズリングが3番、ブレスジャーニーが4番に決まった。

 「キタサンブラックの隣なのでがっちりマークします」とルメールが言えば、「一発狙います!!」と三浦皇成。かくして有馬記念の全枠順が決定した。

最後は枠順にそって騎手が並んだ。写真は1番から3番の池添謙一騎手、武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手。
最後は枠順にそって騎手が並んだ。写真は1番から3番の池添謙一騎手、武豊騎手、クリストフ・ルメール騎手。

 第62回有馬記念は12月24日、午後3時25分、中山競馬場でスタートが切られる。枠順決定に一喜一憂した陣営だが、本当の勝者はクリスマスイヴに決まる。その時、本当に”絶好の枠”が決まるのかもしれない。

全出走馬の枠順が決定。果たして”絶好枠”はどこなのか……。今はまだ誰にも分からない。
全出走馬の枠順が決定。果たして”絶好枠”はどこなのか……。今はまだ誰にも分からない。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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