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米国の郡の長官 コロナ政策をホロコーストに例えて炎上「ユダヤ人も徐々に差別され最後は絶滅収容所」

佐藤仁学術研究員・著述家
(アウシュビッツ博物館提供)

「ユダヤ人も徐々に差別されていき、最後は絶滅収容所で殺害」

米国オレゴン州クラカマス郡の長官のマーク・シャル氏が新型コロナウィルスによるワクチン接種の政策について、ホロコースト時代のナチスドイツの政策に例えて炎上していた。

シャル氏は自身のFacebookで「人々は自分達が何もしていないを不思議に思います。私たちは逃げることもしませんでした。私たちは隠れることもしませんでした。物事はすぐには変化しません。徐々に少しずつ変わっていくんです。そのようにして毎回いろいろなユダヤ人を差別するような法律や制限が出来ていきました。そして気がついたら、差別と迫害は頂点に達していたのです。私たちは黄色い星を着用させられてから、初めて殺害されるのではないかという心配しないといけないかもしれません。現代のコロナ政策と似ていませんか?」と書かれているホロコースト時代のハンガリーの黄色い星を着用させられたユダヤ人夫婦の写真の投稿を共有した。

シャル氏がFacebookで共有しているように、ユダヤ人は突然、黄色い星を着用させられて差別されて、ゲットーに収容されて収容所に送られたわけではない。最初はユダヤ人は学校への通学禁止、公的な職場からの追放、映画館やデパートの立ち入り禁止、公園やプールの立ち入り禁止、自転車やラジオの所有禁止など日常生活の小さなことを制限され、新たな法律を制定されて、差別されていった。それがどんどんエスカレートしていき、頂点に達したのが絶滅収容所でのガス室などでの大量虐殺である。つまり、ユダヤ人のホロコーストでの大量虐殺は突然やってきたのではなく、日々の日常生活の小さな差別の積み重ねからだった。シャル氏はこのような当時のユダヤ人と現在の新型コロナウィルスの政策を比較して、ワクチン接種の義務化やマスク着用の義務化、ワクチンパスポート提示の義務化を批判していた。

欧米ではワクチン接種を希望している人も多いが、政府からワクチン接種を強制されることに反対している人も多い。欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたり、ワクチン接種を強要されたりといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」、「政府による強制的なロックダウンやマスク着用、ワクチン接種の強要=ナチスドイツの全体主義」というイメージを持つ人が多い。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用、ワクチン接種の義務化をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。

ホロコーストに例えられやすいコロナ政策

ワクチン接種やコロナ対策の政策をホロコーストと比較すると、必ずネットが炎上するし、ユダヤ団体がこのように反対するコメントをして、テレビやニュースなどで報じられる。そのため、ワクチン接種に反対する人たちは、炎上して目立つことを目的に、わざわざ黄色い星を着用して、デモの写真をSNSに掲載したり、メディアに出ることによって、自分達の主張をアピールしている人も多い。

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。黄色のダビデの星はナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には人々の目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。

特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に載せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

「過去の悪夢を思い出させるような投稿でとても残念」

これに対してオレゴン州クラカマス郡では「私たちの群には、このような人種差別やユダヤ人とホロコーストに対する偏見はいっさいありません。これはシャル氏個人が勝手に投稿しているもので、私たち群の意見を代表しているものではありません。私たちは人種差別や反ユダヤ主義には徹底的に反対しています」とコメントを発表している。

群の議長のトーティ・スミス氏は「クラカマス郡の住民と職員には偏見やユダヤ人差別もありません。ユダヤ人コミュニティの皆さんには、過去の悪夢を思い出させるような投稿でとても残念です。私たちは常にユダヤ人の皆さんの味方です。この群はとても平和です」と語っていた。

シャル氏のFacebookより
シャル氏のFacebookより

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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