Yahoo!ニュース

心理カウンセラーになって1925年の『ヒトラーを癒せ』オンラインゲーム「不謹慎だ」と大炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
(Steam提供)

「ハイル・ヒトラー」でなく「ヒール・ヒトラー」

2021年7月にオンラインゲーム「ヒトラーを癒せ(原題:Heal Hitler)」がリリースされた。STEAMで配信されている。プレイする人が心理カウンセラーになって1925年のヒトラーの心を治療するというロールプレイゲーム。

このヒトラーを主人公にしたゲームが「不謹慎だ」「攻撃的なゲームだ」「ホロコーストで殺害されたユダヤ人に失礼だ」とネットでも炎上している。ヒトラーは1923年に「ミュンヘン一揆」を起こしたが失敗して、獄中で執筆していた「我が闘争」が初めて出版されたのが1925年。その1925年当時のヒトラーの心を癒そうというゲーム。

歴史に「もし」は禁物だが、もし1925年頃のヒトラーの心を癒していたら、1933年にナチスが政権をとっていなかったし、ユダヤ人大量虐殺、第二次世界大戦がなかったかもしれない。ゲームでは「皆さんと同じように、ヒトラーも人間でした。ヒトラーの人間性を否定して、彼をモンスターと呼ぶのは、あなた自身を傷つけることにもなります」と説明している。

またタイトルが「Heal Htler(ヒール・ヒトラー)」で、当時ナチスドイツがヒトラーを礼賛していた「Hail Hitler(「ヒトラー万歳」のハイル ・ヒトラー)」と発音が似ていることも炎上の要因になっている。

このゲームはチェコのジョン・アジス氏が開発したが、彼自身は「私はナチス擁護者ではありません」と語っている。

今でもセンシティブなナチスドイツ

600万人以上のユダヤ人やロマ、政治犯を殺害したナチスドイツだが、ドイツなど欧州の諸国ではハーケンクロイツ(カギ十字)などナチスドイツや総統のヒトラーを想起させるものを掲げたりすることはナチス禁止法で禁止されている。公共の場でナチス式の敬礼も禁止されている。

また日本人にとってはあまり馴染みがないかもしれないが、欧米や中東諸国では現在でも反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人はSNS上でもヘイトスピ―チや民族憎悪の対象になりやすく、ヒトラーやナチスドイツを想起させるものだけでなく、ホロコーストを想起させるような商品に対しても非常にセンシティブである。過去に何回もそのような商品が販売されて、世界中で抗議の声が上がりネットで炎上したことがある。

2016年10月には日本のアイドル欅坂46がナチス風の衣装を着てコンサートを行った際には、「2度とホロコーストの悲劇を繰り返さない」という強い信念を持って全世界の反ユダヤ主義やナチスに関わる動向を監視しているサイモン・ウィーゼンタール・センターがプロデューサー秋元康氏とソニー・ミュージックに対して強い怒りを露わにし、謝罪を要求していた。同センターは2021年の東京五輪開会式の関係者が過去にホロコーストを揶揄していたことにも怒りを表明していた。外務省も外務大臣談話として「極めて不適切であり、受け入れられるものではありません。深くお詫びする」と即座に謝罪文英語版)を全世界に向けて発表して、関係者も即解任されていた。

▼ゲーム「Heal Hitler」紹介動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事