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イスラエルのホロコースト博物館 ユダヤ人のステレオタイプによる偏見と差別にアニメ動画で啓発

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。イスラエルにあるホロコースト博物館のヤド・ヴァシェムでは、ホロコースト時代の歴史を伝えるために、様々な当時の品物を展示したり、オンラインでも公開している。また世界中に向けてホロコースト教育の教材をオンラインでも提供している。

そのヤド・ヴァシェムでは、2021年8月に、ユダヤ人や反ユダヤ主義に対する先入観、思い込み、固定概念といったステレオタイプを打破するためのアニメーション動画「STEREOTYPES」を公開した。

日本では馴染みがないが、欧米や中東諸国では現在でも反ユダヤ主義が根強い。「ホロコーストはなかった」といったホロコースト否定論も多い。またユダヤ人に対するステレオタイプとして、ユダヤ人は世界を牛耳っているといった根拠なき陰謀論も多い。このような、ユダヤ人のステレオタイプを打破するためにヤド・ヴァシェムではアニメ動画を作成。

欧州では歴史的にも長いユダヤ人に対するステレオタイプや偏見の積み重ねによって、ナチスドイツが支配した欧州において、そこに住んでいるユダヤ人を差別、迫害したりすることを容易にする環境を整えていた。当時、テレビもなかったし、インターネットもなかったので、実際のユダヤ人を知らないという人がほとんどだった。特にドイツでは、ユダヤ人は当時のドイツの全人口の1%未満だったため、地方ではユダヤ人を見たことがない人もたくさんいた。当時の多くの人にとって、ユダヤ人とは「想像上の集団」だった。知り合いにユダヤ人はいないし、周りでユダヤ人を見たこともないけど、ユダヤ人に対する偏見とステレオタイプ、思い込みだけで、ユダヤ人を判断していた。

特に宗教や食生活などの文化が違うユダヤ人は特異な存在という偏見がたくさんあった。例えば「(宗教上の理由で、キリスト教徒が大好きな)豚肉を食べないユダヤ人はおかしい」といった思い込みや小さな習慣の違いから、ユダヤ人に対する偏見となり差別につながっていった。また一部の金持ちや博識あるユダヤ人を例にあげて、ユダヤ人が世界を牛耳っているなどといった陰謀論も簡単に流布していった。このように歴史的にも長く反ユダヤの風潮や偏見、ステレオタイプが欧州にはあったため、ナチスドイツが支配してからもユダヤ人差別や迫害をスムーズに進めることができ、最終的には欧州の600万人のユダヤ人殺害となってしまった。

動画の中で、ユダヤ人や反ユダヤ主義への偏見だけでなく、民族、宗教、性別、肌の色などでのステレオタイプにも触れて、ステレオタイプが否定的な方向にいくと、偏見となり、差別、さらに暴力にもつながることを訴えていた。また子供たちのステレオタイプによる偏見は、親からの影響と多くのソーシャルメディアからの影響も大きいと述べている。SNSでは反ユダヤ主義やホロコースト否定論、ユダヤの陰謀論などが多く投稿されており、あっという間に拡散されている。そしてヤド・ヴァシェムでは教育と法律によるステレオタイプの打破を訴えていた。

▼ヤド・ヴァシェムが制作した動画「STEREOTYPES」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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