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アルゼンチンのTV番組「家に閉じこもっているタイプの女性」の背景にアンネ・フランクの写真登場で炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
YouTubeスクリーンショットより

ナチス親衛隊アイヒマンが逃亡していたアルゼンチン

第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アンネ・フランクはユダヤ人だったために、ナチスの標的となり迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたが、密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。アンネが隠れ家生活で思いを綴った日記を戦後、ホロコーストから生き延びた父オットー・フランクが「アンネの日記」として出版し、現在でも世界中で多くの人に読まれている。アンネ・フランクはホロコーストを象徴するような人物で、欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われることが多く、小学生の必読書にもなっている。

そして2021年7月にアルゼンチンのタレントがコンテストで歌を競う「ショーマッチ」というテレビ番組で、歌手が歌っている伝統的な女性像を破壊して、女性も外に積極的に出ていこうというテーマの楽曲で、「私は家の中に閉じこもっているタイプの女性ではない」という歌詞があり、その歌詞ともにバックに様々な女性の写真が出て来たが、その写真の中にアンネ・フランクの写真も写っていた。

このテレビ番組が放送されてから「アンネ・フランクを出すのは失礼だ。アンネ・フランクは自分の意思で閉じこもっていたのではない。自由がなく出られなかったんだ」といった声が多く、ネットではとても炎上していた。

ユダヤ団体「アンネ・フランクは好きで閉じこもっていたのではありません」

アルゼンチンはナチスの親衛隊中佐のアドルフ・アイヒマンが、戦後に身分を隠して逃亡していた国。アイヒマンは1960年にイスラエルの諜報機関モサドによってイスラエルに連行され、裁判にかけられて処刑された。だが現在でも多くのナチスドイツの高官らが逃亡しているといわれて、今でも70年以上前のユダヤ人大量殺害に加担していたナチス党員を捜索するナチハンターによる追跡が徹底的に行われている。そのため反ユダヤ主義やホロコーストの問題には非常に敏感である。

アルゼンチンでは2009年にアンネ・フランクの教育機関が設立され、ホロコースト教育の学習教材を提供したり、アンネ・フランクの生活を伝えるなど、学校の社会科見学などでも多くの学生が訪れている。

アルゼンチンのユダヤ団体も今回の事件を受けて番組プロデューサーに非難声明を出していた。「アンネ・フランクを、家に閉じこもっている代表のような印象で写真を掲載していましたが、アンネ・フランクは好きで閉じこもっていたのではありません。外に出たらナチスドイツから殺害されることから、命を守るために、恐怖の想いで息をひそめて隠れていました。この歌の歌詞にあるような女性像とは全く違います。ユダヤ人が600人殺害されたホロコーストを矮小化することは許されません」とコメントしていた。

番組側もネットでの大炎上とユダヤ団体からの指摘をうけて即座に謝罪していた。「今回のアンネ・フランクの写真をバックに映したのは完全に間違いでした。大変申し訳ございません。決してホロコーストを矮小化したりや、ユダヤ人に敵意があることは決してありません。個人的にもアムステルダムのアンネの家は4回も訪れています。息子もユダヤ系の学校に通っており、ユダヤ人の想いはよく理解しています」と謝罪していた。

▼番組でアンネ・フランクの画像が出てきたことを伝える現地でのニュース

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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