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ホロコーストの正しい歴史を知ってもらうためにSNSで訴え「#ItStartedWithWords

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

進むホロコースト生存者の高齢化、歴史修正主義に対抗

第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。だが現在でも欧米やアラブ諸国では反ユダヤ主義が根強く「ホロコーストはなかった」「ユダヤ人はそんなに殺されていない」といったホロコースト否定論者が多く、そのようなホロコースト否定に関する投稿はネットやSNSにも多く、あっという間に拡散されている。特に若い人たちはSNSでのホロコースト否定の情報を鵜呑みにしてしまう傾向が強い。また欧米では新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンで夜間の外出自粛禁止や買い物時間の制限など自由な生活ができなくなってしまったことをホロコースト時代のユダヤ人に例えられることが多く、ホロコースト生存者らは「当時のユダヤ人が迫害、差別されていた時代と現代のロックダウンは全く違います。正しい歴史を学んでください」と訴えている。

戦後70年以上が経ち、ホロコーストの生存者らも高齢化が進んできている。ホロコーストの正しい歴史を若者に知ってもらうために「#ItStartedWithWords」のハッシュタグをつけてSNSでホロコーストの正しい歴史を伝えていこうとユダヤ団体のユダヤ人対独物的請求会議が呼びかけている。同団体では「#ItStartedWithWords」のプロジェクトを立ち上げて、ホロコースト生存者や多くの人にホロコーストの正しい歴史を伝えようとしている。

ホロコースト生存者は高齢化が進み、ホロコーストを体験した人たちは年々減少している。「ホロコーストは当時、実際にあった」と証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"の投稿や情報が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのため高齢のホロコースト生存者らは慣れないSNSを活用して世界中に訴えようとしている。

SNSには反ユダヤ主義の投稿が多数だが発覚は難しい

Facebookやツイッターなどはホロコースト否定や民族憎悪に関する投稿は禁止されており、投稿が発覚すると削除される。だが、反ユダヤ主義やホロコースト否定の投稿は機械的には発覚しにくいような隠語や仲間内でしかわからない言葉で書かれていることがほとんどで、発覚しにくく削除されないものも多い。

先日もGoogleマップのアウシュビッツ絶滅収容所のコメント欄に「すぐにダイエットしたいなら(アウシュビッツは)最適の場所」(“Good place to go if you want to lose weight fast”)」という書き込みをGoogleが数年以上削除しないで放置していたことが明らかになった。だが、この文章には反ユダヤ主義に関する英単語は一文字も入っていないため、機械的に検知して削除することは難しい。アウシュビッツ絶滅収容所の悲惨な歴史を知っている人でないと、このコメントが文脈上、アウシュビッツ絶滅収容所には不適切であることはわからない。Googleマップのアウシュビッツですら数年にわたって放置されていた。個人の書き込みを発覚して削除されることは容易ではない。

▼ユダヤ団体のユダヤ人対独物的請求会議の呼びかけ

▼アンネ・フランク博物館も呼応している。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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