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Googleマップ アウシュビッツで150以上の反ユダヤ主義のコメントを数年間放置 検知機能を強化へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「すぐにダイエットしたいなら最適の場所」は9年間削除されず

Googleが提供しているGoogleマップでは観光地やレストランなどの場所に利用者のコメントを掲載して、その場所を紹介したり感想を伝えることができる。

Googleマップで表示されているアウシュビッツ絶滅収容所で153件の反ユダヤ主義に関するコメントが投稿されて、削除されずに放置されていたことが英国メディアGuardianの調査で明らかになった。そのうち96件が匿名でのコメントだった。コメントは「ハイル ヒトラー」「親衛隊(SS)を解散してしまったことは残念だ」といったナチスを称賛するものや「ガス室のシャワーは最高の体験」などといったアウシュビッツを愚弄するコメントなどだった。また「Anne Frankly I’m glad I came」といったアンネ・フランクと「Frankly(率直に言って)」を掛け合わせた造語によるコメントは4年間も放置されていた。「すぐにダイエットしたいなら(アウシュビッツは)最適の場所」というコメントは9年間放置されたままで、Googleは不適切なコメントとして削除していなかった。

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らが社会科見学で訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は52万人程度だった。

「コメントを検知する機能を強化していきます」

Googleのスポークスマンは英国メディアのGuardianの取材に対して「すぐに削除して、今後このような悪用をされないように対処します。Googleではこのような攻撃的なコメントやフェイクレビュー(嘘のレビュー)は禁止しています。これからこのようなコメントを検知する機能を強化していきます」とコメントしていた。

アウシュビッツ博物館のスポークスマンは「アウシュビッツ絶滅収容所では多くの人が殺害されました。このような投稿は非常に悲しいですし、反ユダヤ主義に関するコメントが削除されていなかったことも残念です」とコメントしていた。

ホロコースト教育トラストのカレン・ポロック氏は「このようなコメントは異常です。Googleはすぐに削除して、ヘイトスピーチが全世界にネット上で拡散されないように責任ある対応をとるべきです。そしてこのような嘘と民族憎悪に関するコメントに対するポリシーの見直しと改善を行うべきです」と怒りを露わにしていた。

見つけるのが難しいSNSでのヘイト

現在でも欧米や中東諸国では反ユダヤ主義が根強く「ホロコーストなどなかった」といったホロコースト否定論も多い。ナチス礼賛や反ユダヤ主義、ホロコースト否定論など民族憎悪やヘイトスピーチに関する投稿はFacebookやTwitterなどのSNSによく投稿されるが、そのような投稿は禁止されており、投稿しても削除される。

だが明らかに反ユダヤ主義やホロコースト否定だとわかるものはすぐに検知して即座に削除することも可能だが、仲間内でしかわからない隠語やコメント、また「ハイルヒトラー」なら綴りを1文字だけ変えたりしての投稿も多く、検知するのも難しい。そのようなコメントは利用者からの申告があるまで削除されないことがほとんどだ。

今回9年間も削除されずに放置されていた「すぐにダイエットしたいなら(アウシュビッツは)最適の場所」(“Good place to go if you want to lose weight fast”)の文には1つも反ユダヤ主義のワードは入っていない。歴史を学んだ人間ならアウシュビッツを紹介するコメントで、この文章が不適切なことはすぐにわかる。だがアウシュビッツの歴史上のコンテクストがわからなければ、この英文1行だけでは、これが不適切なコメントだと機械には判別できない。このような投稿がSNSにはたくさん見られる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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