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アウシュビッツ絶滅収容所解放76周年追悼式典、今年は初のオンライン開催へ:テーマは子供たちの運命

佐藤仁学術研究員・著述家
2020年のアウシュビッツ絶滅収容所の追悼式典(写真:ロイター/アフロ)

 第2次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯を殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴の1つでもあるポーランドにあるアウシュビッツ絶滅収容所では約110万人が殺害された。

 アウシュビッツ絶滅収容所は1945年1月27日に旧ソ連軍に解放されたが、毎年1月27日にはポーランドの収容所跡地で追悼式典が行われ、ホロコースト生存者や各国首脳らが参列して、ホロコーストの犠牲者を追悼している。だが、今年は新型コロナウィルス感染拡大のために、アウシュビッツ絶滅収容所跡地での開催はできなくなってしまったので、初めてオンラインで開催することが決定した。

 アウシュビッツ絶滅収容所は現在でも世界中からの観光客や欧米、イスラエルの学生らが社会科見学で訪問しており、2019年には過去最高の230万人以上がアウシュビッツ絶滅収容所を訪問していたが、2020年は世界規模でのパンデミックの影響で、アウシュビッツ絶滅収容所博物館も一時閉鎖しており、昨年の訪問者数は52万人程度だった。

 今回、新型コロナウィルス感染拡大にともなって、初めてオンラインで開催するアウシュビッツ絶滅収容所の追悼式典となる。毎年ホロコースト生存者や家族らがポーランドのクラクフ近郊にあるアウシュビッツ絶滅収容所まで来て参列している。だが、ホロコースト生存者らも高齢化が進み、極寒の1月末のポーランドまで足を運んで、追悼式典に参列するのは体力的にも厳しくなってきている。ホロコースト生存者は欧州だけでなくアメリカやイスラエルにも多くいるが、長時間のフライトがきつくポーランドに来ることができなくなってしまった人も多い。そのため、今回は新型コロナウィルスのパンデミックの影響で初めてオンライン開催となったが、ポーランドまで来ることができない世界中の多くのホロコースト生存者らも参加することが期待されている。またアウシュビッツ絶滅収容所の追悼式典はYouTube、Facebook、Twitterでもオンラインで生配信される。(今までも現地での追悼記念式典の様子はYouTubeで後日アップされていた)

 そして今年(2021年)1月27日の解放76年目にあたるアウシュビッツ絶滅収容所の追悼式典のテーマは「アウシュビッツの子供たちの運命」である。ナチスの収容所政策は「労働を通じた絶滅」であったため、労働に適していない子供や老人は収容所に到着後にガス室で殺害され、選別されて労働に従事させられた人たちも飢えや病気などで多くが死んでいき、働けなくなると殺された。つまり、多くの子供たちは労働に適していなかったので、アウシュビッツに到着直後に選別されて、ガス室で殺害された。また欧州中から移送されてくる時に、貨車に大人数で閉じ込められて、立ちっぱなしで食事も水もトイレもなく何日間も乗せさせられていたために、アウシュビッツ絶滅収容所到着前に貨車の中で死んでしまった子供もいた。現在のホロコースト生存者は高齢化が進んでいるが、ホロコーストを体験した時はみんな子供だった。当時、大人だった世代はもうほとんど残っていない。だから「子供たちの運命」という今年のテーマは現在のホロコースト生存者たちそのものでもある。

 アウシュビッツ絶滅収容所博物館のディレクターのピーター・チウィンスキー氏によると、アウシュビッツでは20万人以上の子供が殺害された。アウシュビッツ絶滅収容所全体で110万人が殺害されたので、約5人に1人が子供だった。同博物館によると、約23万2,000人の子供や若者がアウシュビッツ絶滅収容所に移送されてきて、そのうち21万6,000人がユダヤ人、11,000人がロマ、3,000人がポーランド人、1,000人がベラルーシ人やロシア人、ウクライナ人などだった。アウシュビッツに移送されてきた約23万人の子供たちのうち選別で生き残れて、登録された子供は約23,000人。そして解放された時に生き残っていたのは約700人程度だった。

▼2020年に開催されたアウシュビッツ絶滅収容所の75周年追悼式典

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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