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米国ハドソン研究所、戦争とAI技術のパネル開催「米国は中国やロシアとのAI技術の軍拡競争にも勝てる」

佐藤仁学術研究員・著述家
アフガニスタンでの米国軍(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月に米国のシンクタンクのハドソン研究所で、戦争と戦場におけるAI(人工知能)についてのパネルディスカッションがオンラインで開催された。あらゆるものがインターネットに接続されるようになり、多くのデータやが収集されて、ビッグデータとして蓄積され、それらを元に機械学習を行ってAI技術が発達し、軍事分野でも多く活用されてきている。またAI技術の軍事分野での活用はアメリカだけでなく、中国やロシア、イスラエルなどでも積極的に行われている。

 タフツ大学フレッチャーズスクールの安全保障プログラムのダイレクターのリチャード・シュルツ氏は米国の仮想敵国の1つであるロシアを念頭において「プーチン大統領も軍事分野におけるAI技術を重視している。私たち米国軍もAIを重視せざるを得ない」と語り、さらに「あらゆる情報やデータが巨大すぎて玉石混交だ。どの情報やデータが重要で、必要であるかをフィルターして取捨選択していくことが重要になる。アメリカ特殊作戦軍(Special Operations Command)では心理戦争やターゲット設定に向けて既にAI技術を活用している」とコメント。

 シュルツ氏はまた「アメリカ特殊作戦軍の空挺部隊に、攻撃の計画から実行の段階において、AI技術を積極的に活用してもらいたいと考えている。AI技術が空挺部隊にとっても親和性があることを体験してほしい」とコメント。また「米国は中国やロシアとのAI技術を活用した新たな軍拡競争においても勝つことができる」と語っていた。

 アメリカ特殊作戦軍のリチャード・クラーク将軍は「2001年から2018年の間にアフガニスタンでの米国軍が活動していた時間のうち70%は標的に向けて砲撃していた。だが、現在ではAI技術の発展によって、瞬時に精確に標的を定めることできるようになり、効率的なオペレーションができるようになった」と語っていた。また「AI技術の導入によって、どれだけ人間の兵力やコストが削減できるかが重要になる。AI技術を活用しないという選択肢はない」とコメント。

ハドソン研究所のブライアン・クラーク氏は「アフガニスタンでのアメリカ特殊作戦軍の活動は2004年に始まり、2008年にピークを迎えていた。AI技術の発展によって消耗戦から情報が戦い方を決める『意志決定の戦い方』になった。いつから、こでも何を標的にして攻撃をするのか、攻撃をしないのかを決定するための能力が向上して、戦場において軍人がいかに効率的に判断して、オペレーションできるかが重要になった。戦場においてAI技術は既にロジスティックや行動判断において強力な手段となっている」と米国防総省のAI活用プログラム「Project Maven」を例に出しながら語っていた。

 AI技術の発展によって、軍事分野でもAI技術の活用が進められている。AIを搭載したロボットの方が人間よりも4D業務(Dirty:汚い、Dull:退屈、Dangerous:危険な、Difficult:大変な)は向いている。だが一方で、人間の判断を介さないでAIを搭載した自律型殺傷兵器が標的を攻撃してくることもある。国際NGOや一部の国が、人間の判断を介さないで標的を攻撃してくる自律型殺傷兵器が非倫理的であるという理由から開発と使用の禁止を呼びかけている。実戦ではまだ自律型殺傷兵器は活用されていないが、AI技術の発展と兵器への活用によって、自律型殺傷兵器が登場してくるのも近いかもしれない。

 

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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