イスラエルのスタートアップ、米国でホロコースト生存者のためのSNSを提供
イスラエルのスタートアップのUniper Careは米国ロサンゼルスに在住しているホロコースト生存者のためのソーシャルメディア(SNS)を2019年1月に立ち上げた。第2次大戦時にナチス・ドイツによるユダヤ人迫害で約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害された、いわゆるホロコースト。戦後70年以上が経ち、ホロコーストを経験した生存者たちの数も年々減少している。また高齢化も進み、体力も衰え、記憶も曖昧になってきている。
ホロコースト経験者でも、出身地や戦後の生活した国によって、抱えている問題や体験した経験は大きく異なる。それでもホロコーストという20世紀でも最大級の悲惨な出来事を経験した人たちにのみで共有できるコミュニティが存在している。収容所という地獄を体験した生存者には、戦後、周囲との生活に馴染めなかったり、理解されなかったり、精神的に耐えきれずに自殺する者も多かった。
ホロコースト生存者のSNSのパイロットプログラムは2017年後半から開始され、テストされてきた。同社ではホロコースト生存者たちが相互に繋がり、家族や医者らとコミュニケーションできるSNSを立ち上げた。またテレビに繋ぐことによって、ゲームやチャットをしたり、健康を維持するためにエクササイズやフィットネスのインストラクターの指導を受けることもできる。
チェコスロバキアのMunkacs出身で現在はカリフォルニアに住んでいる女性は「Munkacsはユダヤ人にとって、とても素敵な街でした。現地の人たちとともにユダヤ人は平和に生活していました。最初にロシアが侵入してきて、次いでハンガリーがやってきました。それからドイツでした。私が強制収容所に入れられた時は14歳でした。姉妹2人とアウシュビッツに入れられました。戦後、イスラエルに行こうと思いましたが、できずにアメリカに来ました。SNSによって、多くのことができるようになりましたし、バレエを観たり、音楽や歴史の講義を聞いたりと様々なプログラムを提供してくれています」とコメント。
同社の共同創業者でCOOのAvi Price氏は「ホロコースト生存者たちが現代の社会で理解されないで、孤立し寂しい想いをしているということを知ったことがアイディアの始まりでした。イスラエルのハイファ大学とMITラボによると、SNSを利用すると孤独や憂鬱が軽減されるそうです。どのようにしてホロコースト生存者が社会に溶け込んでいき、良い生活ができるのか?を考えました。ホロコースト生存者の平均年齢は80歳以上で、コンピュータを持っていない人もFacebookをやっていない人も多いです」と語っている。Avi Price氏の祖父も第2次大戦が勃発する前にオーストリアから移民してきた。
アメリカ人にとって、ヨーロッパで起きたホロコーストは現実味がないものであり、ホロコーストの事実をフィクションのようにとらえてしまう傾向が強かった。アメリカでは戦時中には、ユダヤ人の受け入れを拒否していた経緯もあり、反ユダヤ主義は現在でも残っている。そのためホロコースト生存者の経験も理解されにくかった。いずれホロコースト生存者もゼロになってしまい、このSNSの利用者もいなくなる日がくる。ホロコースト生存者にとって、それぞれがホロコースト時代に体験してきたことや思い出は異なるが、当時のヨーロッパで同じ体験を経験してきた人たちと繋がり、思いを共有できる最後のチャンスだ。