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米国のホロコースト博物館、ホロコースト経験者の体験インタビューをオンラインで公開

佐藤仁学術研究員・著述家
(セントルイス・ホロコースト博物館提供)

1980年からホロコースト経験者の音声を収集、カセットテープで録音

 第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺した、いわゆるホロコーストだが、欧米やイスラエルではホロコーストの苦難の歴史と悲惨な体験を次世代に語り継いでいこうと、各地に博物館や記念館がある。

 米国のセントルイスにあるホロコースト博物館では、1980年から長年にわたって、セントルイス近郊に住んでいたホロコーストの生存者に当時の経験を語ってもらい、その音声をカセットテープに録音していた。セントルイス博物館にはホロコースト経験者の貴重な144本のインタビューがある。だがカセットテープで記録していたため、音声としては保存されていたが、聞きたい人がいつでも聞ける状況ではなかった。ホロコースト研究者や歴史学者などが必要に応じて研究や調査で用いる時に、その都度、博物館に問合せをして貸し出しを行っていた。そのため、せっかく保管されていたホロコースト経験者たち(その多くが既に亡くなっている)の肉声を聞く機会もほとんどなかった。

セントルイスのホロコースト博物館(同提供)
セントルイスのホロコースト博物館(同提供)

「彼らの経験談は多くの人々の心を動かすものだ」

 この度、セントルイスのホロコースト博物館では、ホロコースト経験者の語った音声を全てネットに公開。ホロコースト経験者の音声を「オンラインアーカイブ」として世界中に向けて発信。世界中の誰もがオンラインでアクセスして無料で聞くことができるようになった。オンラインでは、ホロコースト経験者の出身地や国籍、名前などで検索することも可能。

 セントルイスのユダヤ人コミュニティ・アーキビストのDiane Everman氏は「これらのホロコースト経験者の肉声は、ただの統計ではない。歴史の教科書や講義でもない。これらは、まさに彼ら自身がホロコーストをリアルに経験した時の思い出であり、その体験を語った物語で、多くの人々の心を動かすものだ」と語っている。

まだ大量にあるアナログで保存されている史料

 ホロコーストの生存者が語った当時の貴重な経験の肉声がオンラインで全世界に公開されたインパクトは大きい。今までは歴史学者や研究者以外に、ほとんど誰も聞くことができなかった彼らの肉声を世界中の誰でもがスマホでアクセスして聞くことができるようになった。

 欧米やイスラエルでは現在でも学校でホロコースト教育が行われているが、そのような教材としても利用することができる。このような紙やカセットテープ、当時の写真といったアナログな形式で保存されているホロコーストの史料は、まだ多く存在している。それらは本当に限られた人しか見たり聞いたりすることができない。世界中のホロコースト博物館では、それらをデジタル化で保存し、世界中に公開していこうとしている。

▼セントルイスのホロコースト博物館の紹介動画

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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