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職場の変なルール~遅刻すると罰金はあり?なし?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:Paylessimages/イメージマート)

 みなさんの職場に罰金制度はありますか?

 先日、私は「発言小町」というサイトからコメントを求められたので、コメントをしました。

 それが下記記事です。

アルバイトで遅刻して罰金を請求されたら、払わなきゃいけないの?

 この記事ではアルバイトしていたら罰金を払わせられた、という投稿者の体験について、書かれたものです。

 私もコメントを求められたので、少しコメントしたのですが、けっこう大事な問題だと思ったことから、少し、詳し目に解説したいと思います。

その罰金制度、なに?

 たまに職場内に「遅刻したら〇〇円」とか「当日欠勤は△△円」など、独自の罰金制度を設けている場合があります。

 基本的にいうと、こういう罰金制度はほとんどが違法です。

 まず、罰金というのは、その労働者に罰を与える目的でお金を払わせることです。労働の世界では、こういうものを「懲戒」と呼んでいます。

 懲戒とは、労働者が職場の秩序を乱したときに使用者が科す制裁です。

「じゃあ、遅刻は職場の秩序乱してるから、罰金制度、OKじゃん!」

と思うかもしれませんが、そう簡単にはいきません。

賠償予定は禁止されている

 まず、労働基準法16条には次の定めがあります。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。(労働基準法16条)

 ここでいう「労働契約の不履行」には遅刻や欠勤も含まれます。

 そうすると、そもそも「遅刻したら罰金〇〇円」というのはストレートにこの条文に抵触します。

 ただ、実際に払わせるのではなく、減給する場合は、懲戒処分としての性格であれば、有効となる可能性がわずかながら残されています。

 しかし、それでもわずかながらです。以下、見ていきましょう。

懲戒には根拠が必要

 まず、懲戒処分については、労働契約法という法律で、次のように定められています。

使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。(労働契約法15条)

 少し難しいですが、第一に「使用者が労働者を懲戒することができる場合」でないといけません。

 これは、どういうことを言っているかというと、「〇〇の場合は、□□という懲戒をすることがある」ということを、あらかじめ就業規則などで定めて周知しておく必要があるということです。

 こういう契約上の根拠がなければ「懲戒をすることができる場合」に当たらないのです。

 したがって、まず暗黙のルールとか、独自の職場ルールとかは、懲戒処分の根拠にはならないことになります。

 また、「罰金制度」について職場に貼り紙をしてある、というのもたまに聞きますが、これも厳密には就業規則とは言えないため、根拠とはならないでしょう。

内容が「合理的」であることが必要

 では、就業規則に定めておけば何でもOKなのでしょうか?

 就業規則に定めたことが、会社と労働者との契約内容になるためには、その就業規則の定めが「合理的」である必要があります。

 合理的と言われても「なにそれ?」と思うかもしれませんが、要するにあまりにめちゃくちゃな定めは、いくら就業規則で決めても意味がない、ということです。

 たとえば、「社長のセクハラはある程度は許される」みたいなことを就業規則に書いても効力がないということと同じです。

 したがって、懲戒についても内容が合理的でないと効力がありません。

 たとえば、「遅刻を1回でもした者は理由の如何を問わずに懲戒解雇」と書いても効力はないでしょう。

遅刻で罰金はどうなの?

 じゃあ、本題の「遅刻したら『罰金』」はどうなの? という疑問が生じます。

 そこで、考えてみると、まず、遅刻した場合に、遅刻した分の給料を払わないことは問題ありません。

 これはノーワークノーペイという原則です。

 したがって、時給1200円の労働者が、1時間遅刻した場合に、1時間分働いていないという理由で1200円の給料を払わないということは、問題ありません。

 では、この給料が発生しない以上にお金をとること(=給料から罰金をとること、つまり減給すること)ができるでしょうか?

 基本的には「できない」と言っていいでしょう。

 先ほど引用した労働契約法には、懲戒を科すには「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情」を見なければならないとあります。

 単純な1回の遅刻で、遅刻分の給料の支払いがない、ということを超えて、労働者から金銭をとるというのは、過度に重い処分となり、許されません。

遅刻を繰り返したら?

 とはいえ、何回も連絡もせずに遅刻を繰り返すような場合は、職場の秩序が乱れているともいえます。

 この場合でも、一般的には「罰金」ではなく、注意や警告からスタートするのではないでしょうか。

 先ほど引用した労働契約法には懲戒が有効になるためには、「社会通念上相当」であることも求められています。

 これは、要するに世間一般の基準から外れていないこと、という意味です。

 そうすると、仮に遅刻を繰り返していたとしても、いきなり「罰金」は重すぎるとされる可能性があります。

 注意・警告をしても、なお連絡をしない遅刻が繰り返され、業務に支障がでるようであれば、より重い懲戒があり得るということになります。

 その場合にようやく「罰金」のような懲戒ができる可能性が出てきますが、その場合でも、最初は「戒告」や「訓戒」などの注意系の懲戒が先になるでしょう。

 それでもなお繰り返されるようであれば、ようやく「減給」が許される可能性が出てきます。

 このように「遅刻に罰金(減給)」というのは、簡単にはできることではないのです。

「罰金」の額にも制限がある

 さらに、「罰金」といっても、いくらとられるのか? ということも気になるところと思います。

 この点、減給について、その限界が労働基準法に定められていますので、「罰金」の金額についても同様に考えることになります。

就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。(労働契約法91条)

 なんか、難しいですが、要するに

  1. 1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えちゃダメ
  2. 総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはダメ

というルールです。

 わかりやすくいうと、たとえば月給30万円の労働者で、1日の平均賃金が1万円であると仮定します(正確には若干違うのですが、説明のためにこうします)。月給制度なので「一賃金支払期」は1カ月となります。

 そうすると、1回の減給は5000円を超えてはいけないということになり、仮に数回あっても給料から引けるのは3万円が限度ということになります。

 この法律を守る前提で考えると、遅刻1回1万円というルールが仮に就業規則に定められて、合理的だと仮定しても、1万円引いてもいい人は日給換算で2万円の給料がなければなりません。

 アルバイトで1日8時間労働をしているとすれば、時給2500円は必要ですし、もし4時間のアルバイトであれば時給5000円である必要があります。

 また、月の給料の総額としても10万円以上でないと無理ということになります。

まとめ

 このように「遅刻で罰金」という制度を合法的に運用するのはかなりハードルが高いことがわかります。

 まとめると、以下をクリアしないといけません。

1)懲戒処分としての「減給」といえるものであること

2)就業規則や労働契約書で定めること

3)まず注意・警告を先に行うこと

4)懲戒はいきなり「罰金」ではなく戒告や訓戒などの軽いものを先にすること

5)金額にも賃金額との関係で限度があること

 これだけのハードルですから、職場に罰金制度があったとしてら、まず違法でないかと疑ってみるのがいいと思います。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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