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非正規格差・最高裁判決の解説~退職金・賞与の格差は合理的で扶養手当の格差は不合理なの?<中>

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
最高裁判所。人権の最後の砦か、それとも人権を阻む壁なのか。(写真:cap10hk/イメージマート)

前回記事「非正規格差・最高裁判決の解説~退職金・賞与の格差は合理的で扶養手当の格差は不合理なの?<上>」からの続き

10月13日に出された二つの判決

賞与が争点となった大阪医科大学事件

 10月13日、13時30分、最高裁において、大阪医科大学事件の判決がありました。

 同事件は、大阪高裁では賞与の不支給は不合理な相違であるとして、一定の支払いを命じていました。

 しかし、最高裁はこの判断を覆して、賞与の不支給は不合理ではない、としたのです。

場合によっては賞与についても不合理な相違となることもある

 もっとも、最高裁は、賞与=非正規には払わなくてもOKとは言っていません

 一般論のところでは、次のように述べています。

労働契約法20条は,有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。

出典:最高裁ホームページ

 このように、最高裁は「両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得る」と言っているのです。

ケースによって相違が不合理か否かを判断する

 最高裁は、続けてこうも言います。

もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

出典:同前

 結局、最高裁は、ケースバイケースで考えるよ、といっています。

引用されなかったハマキョウレックス事件・長澤運輸事件

 ここで不思議なのは、なぜか前例となるハマキョウレックス事件長澤運輸事件を引用していないことです。

 通常、最高裁判決では、既にある最高裁の判断を踏襲する場合は、その元となる最高裁判例を引用しますが、ここではしませんでした。ということは、最高裁は賞与については、これまでの判断とは異なる類型と考えた可能性があります。

長期雇用のインセンティブ論が立ちはだかる

 そして、最高裁はかなり詳細に事実を評価していきます。

 一つ一つ紹介すると長くなりすぎるのですが、結局、最高裁は、正職員に賞与を払うのは「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる」と結論づけます。

 この「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」がいわゆる長期雇用のインセンティブ論なのです。

 この最高裁判決では、長期雇用のインセンティブ論を正面から肯定した上で、1審原告の労働者と正職員の間には職務の内容や配置の変更に一定の相違があったことや、正職員登用試験があったことなど、諸々の事情を考慮事項として挙げます。

 他方、賞与が業績などに左右されない一律支給であった実態から賞与に労務の対価の後払い的性格や功労報奨としての性格があること、正職員に準ずる契約職員には正職員の賞与の80%が支給されていることなどについては、これらを斟酌(しんしゃく)したとしても、賞与の不支給は不合理であるとはいえないとしました。

労働契約法20条の趣旨に反しているのではないか?

 しかし、私の見解ではありますが、この事例であれば、賞与を「0」とすることは不合理であると思います。

 特に、労働契約法20条は、正社員と全く同じにすることを求めているのではなく、均衡=バランスを求めている条文です。

 これは、ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件で最高裁が確認しているのです。

 しかし、あえてハマキョウレックス事件や長澤運輸事件を引用しないで、こうした判断をしたことには、何か意味があるのかもしれません。

 いずれにしても、最高裁が考慮事項とした事実を前提にしても、「0円」でも不合理ではないという結論は、労働契約法20条の制定過程や趣旨から外れた解釈であると言わざるを得ません。

 にもかかわらず、最高裁は賞与が「0円」であっても合理的だとしたのです。

どのくらい影響がある判決か?

 この判決は他の職場にどういう影響を与えるでしょうか。

 今後、判決の結論だけが独り歩きする可能性はあるでしょう。

 しかし、それは誤りであると言わねばなりません。

 この判決の一般論では、賞与も不合理と認められるものに当たる場合はあり得るとされています。

 これこそが、本判決で注目するべきところであり、これを引き出したのは、1審原告と弁護団の成果だといえるでしょう。

 本判決は、最高裁にしてはかなり詳細な事実検討を経て結論に至っています。

 このことからすると、この判決はあくまでもこの事例におけるこの最高裁第三小法廷の判断であって、およそ賞与は契約社員やアルバイトには支給しないでもよいということではありません。

 賞与については、各職場、各事業所において、労使がそれぞれ話し合って、非正規労働者への賞与をどうするかを制度設計していくことが大事になるでしょう。

 そして、こうした訴訟は引き続き起きていくことが予想されます。

退職金が争点となったメトロコマース事件

 大阪医科大学事件の判決があった日と同じ日、午後3時に、もう1つの重要な判決が出されました。

 それは、退職金の支給などを求めたメトロコマース事件です。

 この事件は、駅の売店で働く有期雇用の社員が、正社員と同じような仕事であるのに、退職金などの相違があることは不合理であるとして、訴えを起こした事件です。

 東京高裁は、1審原告の主張の一部を認めていました。特に、退職金について25%を認めていたのが大きな注目を集めたところでした。

 ところが、最高裁は、この退職金部分について東京高裁の判決を破棄し、退職金は不支給でも不合理ではないと結論づけました。

場合によっては退職金についても不合理な相違となることもある

 もっとも、ここでも最高裁は、退職金=非正規には払わなくてもOKとは言っていません。

 一般論のところでは、次のように述べています。

労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ,有期契約労働者の公正な処遇を図るため,その労働条件につき,期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり,両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても,それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。

出典:最高裁ホームページ

 全く大阪医科大学事件と同じ言い回しで退職金についても、不合理になる場合があるよ、と言っています。

ケースによって相違が不合理化を判断する

 そして、同じく、続けて次のように述べます。

もっとも,その判断に当たっては,他の労働条件の相違と同様に,当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより,当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

出典:同前

 やはり、ここでもハマキョウレックス事件や長澤運輸事件を引用せずに、似たようなことを述べます。また、大阪医科大学事件も引用していません。

 となると、最高裁は、退職金は、ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件などの従前の判断や、大阪医科大学事件の賞与とは違う類型の労働条件であると考えている可能性があります。

やはり立ちはだかる長期雇用のインセンティブ論

 そして、ここでもかなり詳細に事実の評価に踏み込み、退職金の性格については次のように述べるのです。

 

第1審被告における退職金の支給要件や支給内容等に照らせば,上記退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

出典:同前

 ここでも「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」が出てきて、これを最高裁は受け入れます。

 非正規労働者の前に、立ちはだかる長期雇用のインセンティブ論です。

 しかし、退職金の性格は一律ではありません。実際、上記の最高裁判決でも複合的な性格を有すると指摘されています。

 となれば、やはり非正規労働者に対しても支払われるべき性格(労務の対価の後払い的性格や功労報奨としての性格)も含んでいるというべきで、この事例で全く「0円」とすることが、本当に労働契約法20条の解釈として正しいのかは、強い疑問があります。

 最高裁判決では、この退職金の性格に続けて、かなり詳細な事実の評価を行い、結論として、次のように述べて退職金を1審原告に不支給としても不合理ではないとしてしまいました。

第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて,売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務内容等を考慮すれば,契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ,定年が65歳と定められるなど,必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず,第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても,両者との間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは,不合理とまで評価することができるものとはいえない

出典:同前

 上で太字にした斟酌(しんしゃく)された事実を見ると、労働契約法20条がありながら0円はひどい・・と思ってしまうのですが、最高裁は長期雇用のインセンティブ論に乗っかって、退職金不支給を合理的としました。

この判決の影響力は?

 この判決は、どういう影響があるでしょうか。

 賞与の事件と同じように、結論が独り歩きする可能性は大いにあるでしょう。

 しかし、やはり最高裁は、一般論では、退職金を非正規労働者に支給しないと不合理になることもあり得るとしているのですから、この点が大事だと思います。これを引き出した1審原告と弁護団の成果は大きなものがあります。

 本件は詳細な事実評価の結果、退職金を不支給としても合理的であるとしたわけですが、あくまでも本事例における最高裁第三小法廷の判断です。すべての職場で同様の結論となるとは限りません。

 なお、本判決には反対意見もあるので、労働者側は負けたとしても、惜敗だったといえるでしょう。

 労働者側にとっては悔しい2つの最高裁判決でした。

 そして、2日後の10月15日、やはり労働契約法20条の解釈を争う3つの最高裁判決が出ることになります。

(下に続く)

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弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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