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芸能人も<労働組合>をつくった方がよい

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

芸能人と事務所の関係のニュース

 芸能界のタレント・芸人に対する「事務所」の圧力の話題が尽きません。

 先日開かれた宮迫さんや田村亮さんの記者会見も大きな反響を呼び、見ていた人の心を打ちました。

 さらに、それを受けて吉本興業の岡本社長の記者会見では、社長による迷言の連発もあって、見る人の心を別の角度から打ちました。

 吉本興業だけでなく、ジャニーズ事務所の移籍した元SMAPのメンバー出演に関する圧力疑惑も報じられていました

 ちょっと遡ると、NHKの朝ドラ「あまちゃん」で活躍された能年玲奈さんに対する旧所属事務所の圧力なども話題となったことがありました。

 そう、いずれも共通するのは芸能人側の立場の弱さです。

ある芸人の方のお話

 ちょっと昔の話になりますが、「ブラック企業」というキーワードが世間を駆け巡っている真っ最中だったとき、私はあるテレビ番組に出演したことがありました。

 そのとき、あるお笑い芸人の方と一緒に出たのですが、その人自身も、「うちの業界もブラックですからね。私も、一体この番組に出て、ギャラをいくらもらってるのか分からないですもん」とおっしゃっていたのが印象的でした。

 当時も今も、その方は芸人として確固たる地位を築いていたので、その立場でもそういうもんなのか、と驚いたのを覚えています。

現状維持でいいのか?

 こういう現状をどう思うでしょうか。

 夢を追うのだから仕方がないのでしょうか?

 みんな通った道だから自分も後輩も同じ道を通るべきなのでしょうか?

 今回の宮迫さんや田村亮さんの問題は、反社組織の宴会にギャラありで出演した、という問題がきっかけではありました。

 しかし、その後、いきなり契約解除を突き付けられたり、引退を迫られたり、時には連帯責任だから全員クビにするという脅しの言葉をぶつけられたり、このようなやられ放題は、明らかにバランスを欠いていると言えるでしょう。

 その根幹には、芸人側にある、事務所に逆らえない、逆らったら仕事を干される、言うことを聞くしかない、という力関係があることは、言うに及びません。

一般の労使関係も同じ

 実は、こうした関係は、芸能人と事務所だけでなく、一般的な労働者と使用者の関係でも同じ構造があります。

 労働者は使用者の指揮命令の下で働き、これに対し使用者は労働者に給料を払う、この当たり前の関係は、労働者がその給料で生計を維持している現実においては、使用者に圧倒的な強い立場を与えるのです。

 そうなると使用者は労働者を使い放題、捨て放題、ハラスメントし放題となってしまうのです。

 そこで、法ではこの立場の強弱の圧倒的な差を埋めるために、労働者に団結する権利を認め、団体の力によって、使用者と対等な立場を実現しようとしました。

 それが労働組合です。

 いくら立場が強いとはいえ、使用者も労働者なくして営業活動はできません。

 ですので、労働者ができるだけ多く集まれば集まるほど、労働者側の立場が上がり、使用者と対等に話ができるようになっていく、というわけです。

芸能事務所も同じ

 このことは芸能事務所も同じことがいえます。

 いくら逆らう所属芸能人を干したり、圧力をかけたり、いじめたりしても、芸能人が誰もいない芸能事務所は売上はゼロです。

 松本人志さんがテレビ番組で「芸人ファースト」と述べたのは、芸人のいない吉本興業が成り立たないことを理解しているからです。

 しかし、芸人1人でぶつかっていっても、事務所が強い立場を利用すれば、つぶすことは容易です。

 そこで、芸能人側が職業団体を作り、事務所と対等にやりあえる場を作る必要があると思います。

 その際、労働組合という形にするのが、最も法の保護があるので、一番いいと思います。

芸能人は労働者?

 ただ、芸能人は労働者なの?という疑問があるでしょう。

 細かい解説は省きますが、最高裁判例を前提に考えれば、事務所に専属的に所属する芸能人は、ほぼ例外なく、労働組合を作れる労働者であると言っていいと思います。

 似たような例としては、プロ野球には日本プロ野球選手会、サッカー選手には日本プロサッカー選手会があります。いずれも労働組合です。

 芸能関係では、日本俳優連合、日本音楽家ユニオンがあります。日本俳優連合は協同組合ですが、日本音楽家ユニオンは労働組合です。

 このようにジャンルはいろいろですが、同じ職業人が横断的につながりをもって対等に交渉していくということは、その職業の地位向上のためには有益なことなのです。

芸能人側の団体が必要

 今回の吉本興業の件は、芸人の親分であるダウンタウンの松本さんが、「アニキ」である会長と社長と直談判をして、結果、宮迫さんらへの処分が撤回されることになり、一件落着(?)となるのかもしれませんが、事の本質はそれで終わらないでしょう。

 最終的には、タレント、アイドル、俳優、芸人、その他もろもろの演者側の団体を事務所横断的なものとしてつくり、事務所と対等に交渉できる土台が必要となるでしょう。

 他業種ですが、その先例は、先に示したとおり、既にあるわけです。

 また、アメリカにはSAG-AFTRAという長い歴史を持つ演者側の労働組合もあります。

 今回の件をきっかけに力のある芸人がこうした団体の立ち上げの音頭をとって、職業人としての芸人の誇りをつぶされないシステムをつくっていくことが必要ではないでしょうか。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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