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台風の日に従業員にピザを配達させることによる企業リスク

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
宅配ピザの大手企業の1つ(写真:ロイター/アフロ)

 西日本を中心に大きな爪痕を残した台風21号(チェービー)、西に向かった逆走台風12号(ジョンダリ)、名前が話題になったヤギ(14号)と、2018年も台風が猛威を振るいました。

 さて、今回の台風21号では、ツイッターなどのSNSに激しい風雨の様子が投稿されており、話題になりました。

 その中でもピザの配達をしている宅配ピザ屋の従業員の様子が複数投稿されていました。

【台風21号】猛烈な風の中配達しようとしたドミノピザの配達員。しかし、バイクもピザも人も飛ばされてしまった動画が物議!

 私は、これを見て、この会社はなんという危ないことをさせるんだろうかと、驚きました。

従業員が怪我したら労災

 まず、当然ですが、配達の従業員が事故にあい、怪我したり、亡くなったりすれば労災になります。

 業務中の事故ですから、これは当然ですね。

会社は損害賠償責任も負う

 さらに、このような台風の日に配達をさせたということで、もし労働者が怪我したり、亡くなったりすれば、それに対して会社は労災とは別に損害賠償義務を負います。

 慰謝料や休業損害のうちで労災保険ではまかなわれない部分などが対象になります。

 労災の場合は、会社に過失がなくとも認められるのですが、損害賠償が認められるには会社に過失が必要となります。

 過失の内容は、会社が、その労働者が安全に仕事をできる環境を整えられなかったことに対するものとなります。

 典型的な例としては、工事現場でヘルメットをかぶらせなかったとか、工場の機械の操作方法をしっかり指導しなかったとかが当たります。

 

 では、台風の日にバイクでピザを配達に行かせた場合は会社に過失があるのでしょうか?

 これは当然、過失ありとなるでしょう。

 台風の日の方が普段の日よりも事故が起きるかもしれないという見通しがあってしかるべきだからです。

 この見通しがあるのに行かせる、もしくはこの見通しができなかった、ということ自体が過失となりえます。

 よって、今回の台風時のピザ配達は、もし従業員が怪我したり、亡くなったりすれば、損害賠償しなければいけなくなる状況だったといえます。

 では、損害賠償額がいくらかというと、もし亡くなったら慰謝料だけで2000万円を軽く超えます。

 また、その人が得られたであろう生涯収入の一部なども賠償しなければなりません。これもかなり高額になります。

 金額にすると、トータル1億円を超えることも珍しくありません。

 金額の問題だけでなく、おそらくニュースにもなるでしょう。

 その時、企業イメージやブランドイメージがガタ落ちになると思われます。

 せっかく高価なお金を出して様々なメディアにCMを展開しても、ぜんぶ台無しです。

 

 こうしたことを、果たして会社は考えたのでしょうか?

 たしかに、雨天時などは宅配の注文は増えると言います。企業としてはビジネスチャンスかもしれません。

 しかし、その時に得られる儲けと、上記のリスクとを天秤にかければ、賢明な企業であれば答えはおのずと明らかでしょう。

注文する側の責任は?

 この件で、私は何件かメディアから取材を受けました。

 その際、注文する側(お客さん)に法的責任は?という質問が複数ありました。

 これについては、法的な責任が注文する側に発生することはないでしょう。

 しかし、台風の日にあえて宅配ピザを頼むというのは、あまりいい行為とは言えません。

 便利さの裏には、それを支えている労働者がいることを忘れないでほしいと思います。

 ほんの少し、想像力を働かせてくれればと思います。

事故が起きたら取り返しがつかない

 今回、動画に映っていた人が怪我をしたのかどうかはわかりません。

 しかし、もし労働者が怪我をしたり、死亡したりすれば、どんなにお金を払っても元には戻りません。

 いずれにしても今回配達へ行かせたピザの会社には、この騒動を教訓に、自然災害を軽く見て労働者の命を危険にさらすことのないようにしていただきたいものです。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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