ブラック企業を脱却できるか?~「『すき家』の労働環境改善に関する第三者委員会」の調査報告書を読んで
はじめに
ゼンショーホールディングス(以下「ゼンショー」)に宛てた「『すき家』の労働環境改善に関する第三者委員会」の調査報告書(平成26年7月31日付)を読んだ感想としては、まず、形式だけの調査ではなく、それなりに実態に踏み込んだ調査であるとの第一印象を受けた。
本来であれば、企業が労働基準法を守っていないことは恥ずべきところであるが、労基法を守っていないことを赤裸々に記載しているところに第三者委員会の本気度は認めることができ、これを公表したゼンショーにも、その態度自体は、それなりに肯定的評価をすることはできる。
なお、批判的検討としては、次の記事が参考になる。
労働基準法違反の蔓延
報告内容についてであるが、目を覆うばかりの労基法違反が蔓延していることが明らかになった。
列記すると、
- 正社員にもクルー(アルバイト)にも発生している慢性的な長時間労働
- 常態化する36協定違反
- 15分単位で労働時間を切り捨てるという杜撰さ、それに伴う構造的なサービス残業
- 労時売上を強調するあまりに発生する恒常的・意図的なサービス残業
- 休憩時間がろくに取れない問題
- 休憩時間だとしながら休憩させていない問題
- 年少者の深夜労働
など、労基法などあってないかの如くのあり様である。
これに対し、労基署から多くの是正勧告がなされていたことも明らかにされており、ゼンショー側も労基法違反となっていることを把握し、何らの改善を行わなかったことが浮き彫りになっている。
このようなやり方で、ゼンショーが日本有数の大企業になったとすれば、その罪は途方もなく深いというべきである。これでは、法律を守る方が馬鹿を見るという、最悪の循環を生み出しかねない。いや、既に最悪の循環を生み出していたからこそ、「ブラック企業」問題が社会問題になったといえよう。
従業員の悲痛な叫び
具体的な従業員からの声は悲痛なものが多い。既に報道されているものも多数あるので、詳細は原典にあたってほしいので言及しないが、いかにゼンショーが、従業員の時間、払われるべき賃金、本来あるはずのプライベート、そして健康・・・これらを吸い取って、自らを太らせる養分にしてきたかが分かる。
ゼンショーはこれまでに多方面から「ブラック企業」と指摘されてきたが、その指摘の正しさが裏付けられたものといえるだろう。
本報告書は、『蟹工船』、『女工哀史』など、過酷な労働環境を描いたものがかつてもあったが、それに匹敵する過酷な労働環境を記載する文献として貴重なものだと言える。
ブラック企業を脱却できるか要注目
ゼンショーがこのような報告書を公表するに至った経緯は、現代の「逃散」とも言われた店舗閉鎖がきっかけである。このような事態を招くまで、多くの労働者、労働組合、市民からブラック企業であるとの批判を受けてきた。公表させたのは、これらの批判が実ったものといえる。
今後は、ゼンショーが労基法違反を是正できるかという点に、多くの市民の注目が集まるものと思われる。この報告書の内容を忘れることなく、国民的な監視が必要である。
なお、労基法は働くルールの最低基準である。これを守れていないことが、そもそも大問題なのである。これを守るということは至極当然なのであるから、これを成し遂げたとしてもゼンショーがいい企業になるのではなく、普通の企業になろうとしているに過ぎないということも、また忘れるべきではない。