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「焼き」をとことん追求。開業20年でフルリニューアルした「自由が丘ロール屋」の魅力を徹底解剖!

笹木理恵フードライター
「モンサンクレール」をはじめ11ブランドを展開する辻口博啓氏 ※筆者撮影

東京・自由が丘のパティスリー「モンサンクレール」をはじめ、ショコラ専門店「ル ショコラ ドゥ アッシュ」、和スイーツ専門店「和楽紅屋」など、コンセプトの異なる11ブランドを展開する辻口博啓氏。「自由が丘ロール屋」は、そんな辻口氏が「モンサンクレール」に次ぐ第2のブランドとして2002年に立ち上げたロールケーキ専門店だ。

18歳の夢を叶えた「ロールケーキ専門店」

リニューアル前の「自由が丘ロール屋」  ※画像提供/アーシュ・ツジグチ
リニューアル前の「自由が丘ロール屋」  ※画像提供/アーシュ・ツジグチ

なぜ2号店をロールケーキの専門店にしたのか。原点は、辻口氏の修業時代に遡る。「私は若い頃から独立心が強く、18歳の頃に考えたのが『リヤカーでロールケーキを売る』というアイデアでした。しかし、資金面ですぐに実現するのは難しく、まずは技術をしっかりと身につけてから独立しようと考えを改め、コンクールなどにも積極的に挑戦して実績を作り、モンサンクレールをオープンすることができました」と辻口氏。「『自由が丘ロール屋』は、もとはモンサンクレールの倉庫として借りた場所でしたが、立地もいいし、ここで何かやりたいと考えたときに、昔思い描いたロールケーキの構想が浮かんだのです」。

奇しくも、「堂島ロール」で一世を風靡したモンシェールの創業が2003年11月。2009年にはローソンから「プレミアムロールケーキ」が発売され、ロールケーキは息の長いトレンドスイーツとして今日まで愛されている。ブームに先駆けて専門店を立ち上げた辻口氏には、時代を読む力があるのだろう。その後も、ショコラ専門店やコンフィチュール専門店など、スイーツのトレンドを作るような業態を次々と生み出している。

モダンな空間で、ロールケーキと焼き菓子を売る

売り場は木や石など自然な素材の美しさを活かし、無機質な中にも生命を感じさせるようなデザインにリノベーション ※筆者撮影
売り場は木や石など自然な素材の美しさを活かし、無機質な中にも生命を感じさせるようなデザインにリノベーション ※筆者撮影

今回のリニューアルの背景について辻口氏は、店を長く続ける中で「世の中に様々なロールケーキが誕生し、より個性が出しにくくなっていた」ことが一因だと説明する。「ロールケーキでどんな表現ができるかを改めて追求して、素材や製法をいちから見直してたどり着いたのが『焼き』へのこだわり。理想の味を実現するために厨房機器も一新しました」。

気密性の高いオーブンで焼く新・ロールケーキ

「自由が丘ロール」(11cm税込1,800円、17cm税込2,800円)と、「自由が丘ロール ショコラ」(11cm税込1,950円、17cm税込2,950円) ※画像提供/アーシュ・ツジグチ
「自由が丘ロール」(11cm税込1,800円、17cm税込2,800円)と、「自由が丘ロール ショコラ」(11cm税込1,950円、17cm税込2,950円) ※画像提供/アーシュ・ツジグチ

ロールケーキは、定番のプレーンとショコラのほか、計4種類ほどを販売。プレーンの生地には北海道産小麦を100%を使うほか、甘みが強く味わいのしっかりとした「那須御養卵」の卵黄など選び抜いた素材を使用。リニューアル前と比較すると生地が分厚く、存在感を増しているのがわかる。「以前は共立て法で仕込み、コンベクションオーブンを使って焼いていましたが、別立て法で作るシフォン生地に変更しました」と説明するのは、今回のリニューアルを辻口氏とともに進めてきたスーシェフの高野 哲氏。ふっくらとしながらも口どけがよい生地を作るため、気密性の高いカステラ用のオーブンを新たに導入。つくりたての鮮度にこだわり、毎日「焼きたて・巻き立て」で提供するのもこだわりだ。

クリームと巻き方も見直し、生地との最適なバランスを追求

ロールケーキは定番のプレーンとショコラのほか、季節のフルーツを使った商品も ※筆者撮影
ロールケーキは定番のプレーンとショコラのほか、季節のフルーツを使った商品も ※筆者撮影

 また、クリームの中身と巻き方も、大きく変更を加えた点だ。以前は「の」の字に巻いていたのをひと巻きにし、よりクリームの存在感を味わえるように。以前は生地の内側にクレーム・パティシエールを塗ってから生クリームを巻いていたが、ロールケーキのセンターにクレーム・パティシエール、その周りをホイップクリームが包み込むような巻き方にした。それに伴い、クレーム・パティシエールには強力粉を加えて保形性を高め、生クリームは3種類をブレンドし、たっぷり食べても飽きの来ない軽やかな味わいに仕立てている。

クラシックな焼き菓子は、素材と製法、「焼きたて」で差別化

ヴィジタンディーヌは5種類、パウンドケーキは3種類を販売  ※筆者撮影
ヴィジタンディーヌは5種類、パウンドケーキは3種類を販売  ※筆者撮影

「焼き」にこだわる新生「自由が丘ロール屋」では、焼き菓子もカヌレ以外はすべて新商品をラインナップ。フランス・ロレーヌ地方の郷土菓子で、フィナンシェの原型とも言われる「ヴィジタンディーヌ」や、北海道産発酵バターを使用したマドレーヌ、香り高いマルコナ種のアーモンドプードルを使ったガレットなどを揃え、毎朝焼きたてを提供する。季節のパウンドケーキも、焼きたてを1カットから購入できるようにした。「オーブンを変えたことで、パウンドケーキなどもしっとり、ジューシーに焼き上がるようになりました。中心までしっかりと火が入りながらもみずみずしさを保っている焼き菓子のおいしさをぜひ味わってもらいたいです」(辻口氏)。

上質感のあるギフトも充実

8種類が入ったクッキー缶「リュクスサブレアソート」(税込3,200円) ※画像提供/アーシュ・ツジグチ
8種類が入ったクッキー缶「リュクスサブレアソート」(税込3,200円) ※画像提供/アーシュ・ツジグチ

 店頭ではできたての焼き菓子のほか、日持ちする焼き菓子の詰合せやクッキー缶なども販売。ギフトを強化すべく包材にもこだわり、アソートのボックスは型からオリジナルで作るなどして上質感のある商品を揃えている。

生産性を高めながら、素材にこだわったお菓子を作り続ける

今後は、数量限定やオンライン限定などの商品も開発予定 ※画像提供/アーシュ・ツジグチ
今後は、数量限定やオンライン限定などの商品も開発予定 ※画像提供/アーシュ・ツジグチ

 

 リニューアル後の変化について辻口氏は、「これまでは季節ごとに約10種類ほど揃えていたロールケーキを半数以下に減らしたことで一つひとつの商品により集中できるようになり、品質のよい状態で届けられるようになりました」と説明する。商品を絞り込むことで商品管理の負担も軽減され、スタッフの働きやすい環境づくりにもつながっているという。「今後も素材や生産者に寄り添い、『焼き』にこだわったお菓子を突き詰めていきます」と辻口氏。進化し続ける「自由が丘ロール屋」のこれからにも注目だ。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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