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菓子業界のミライ⑤「ヴァローナ」フランスのショコラブランドが、生産者やシェフとともに歩んだ100年

笹木理恵フードライター
100周年記念商品の「コムントゥ」※筆者撮影

プロが愛用するフランスのショコラ「ヴァローナ」

ブランド名は、創業の地に縁のある「vallée(ローヌ渓谷)」と「Le Rhone(ローヌ川)」に由来する ※画像提供/ヴァローナ ジャポン
ブランド名は、創業の地に縁のある「vallée(ローヌ渓谷)」と「Le Rhone(ローヌ川)」に由来する ※画像提供/ヴァローナ ジャポン

世界中のトップシェフに愛用されるショコラブランド「ヴァローナ」が、今年100周年を迎えた。製菓業界に携わる人やスイーツファンにとってはもはや説明の必要もないほど知名度のあるブランドだが、一方で創業以来プロ向けの製菓用チョコレートを生業にしてきた経緯から、一般消費者への認知度はまだそこまで高くないという現状もある。そこで本記事では、世界的にもチョコレートを取り巻く環境が変わりつつある中で、ヴァローナが歩んできた100年の歩みを改めて振り返るとともに、これからの100年に向けた取り組みについて紹介する。

ヴァローナの歴史は、1922年、フランス南東部のタン・レルミタージュにて、菓子職人のアルベリック・ギロネ氏が「ショコラトリー・デュ・ヴィヴァレ」を創立したことに始まる。その後、1947年に「ヴァローナ(Valrhona)」が正式なブランドの名前として確立。1950年に、プロフェッショナル向けクーベルチュール(製菓用チョコレート)の製造を開始した。

日本でも40年以上に渡り、シェフの信頼を獲得

日本市場への参入は、1979年。フランスで修業した日本人シェフが本格的なフランス菓子を伝えるべく、現地で愛用されていたヴァローナのショコラを使用するなどして、徐々に浸透していったという。その後、日本はアジアにおける重要な拠点として位置づけられ、2007年には、フランスに次ぐ2校目となるショコラの専門技術校「エコール・ヴァローナ 東京」を設立。現在まで、アジア各国から年間1,500人以上のパティシエ、ショコラティエを迎え入れている。

ヴァローナのブランド力は、①最高のショコラへのこだわり、②サステナビリティ(CSR活動)、③プロフェッショナルへのサポート、という3つの柱に寄って支えられている。以下、順に紹介しよう。

シェフのインスピレーションを刺激する、個性的なショコラ

ショコラの新しい表現を可能にした「フルーツ・クーベルチュール」シリーズ ※筆者撮影
ショコラの新しい表現を可能にした「フルーツ・クーベルチュール」シリーズ ※筆者撮影

ヴァローナでは創業以来、原料のカカオにこだわり、世界各地の生産者とパートナーシップを結びカカオの仕入れから生産までを一貫して手掛けている。農学者など専門知識を持ったメンバーからなるカカオ供給チーム、200人を超える官能検査官たちも、ヴァローナの味を支える大事な要員だ。

そして、シェフたちに支持されている大きな理由のひとつに、創作意欲を刺激するような、個性的で他にはない製品が多いことが挙げられる。代表例を挙げると、ハイカカオでありながら深い味わいを表現したカカオ分70%の「グアナラ」(1986年発売)、フルーティーな酸味が特徴的な「マンジャリ」(1990年発売)、ホワイトチョコレートを作る工程でアクシデントから誕生したブロンド・チョレコート「ドゥルセ」(2012年)など。さらに、素材の自然な色合いや香りを活かした「フルーツ・クーベルチュール」(2017年~)、カカオを二重発酵させるという新技術によって生まれた「ドゥーブル・フェルマンタシオン」(2015年~、)ヴァローナ初のヴィーガン・ショコラ「アマティカ」(2021年)など、高い技術と長年のノウハウを活かして開発した革新的な製品で、ショコラの新しい世界を切り拓いている。

共に創る、持続可能なショコラの未来

世界中の現地スタッフと二人三脚でカカオ栽培を行う ※画像提供/ヴァローナ・ジャポン
世界中の現地スタッフと二人三脚でカカオ栽培を行う ※画像提供/ヴァローナ・ジャポン

ヴァローナでは、生産国や生産者と長期にわたるパートナーシップを築いており、2021年度の実績では、世界14ヵ国とパートナーシップを締結し、うち12ヵ国(17,215の生産者)からカカオ豆を購入。トレーサビリティは生産者レベルで100%実現している。

また2015年からは、「TOGETHER, GOOD BECOMES BETTER - 共に創ろう、より良い未来を」をミッションに掲げ、CSR活動を具体化するための「Live Long(リヴ・ロング)」プログラムを設立。カカオ原産国での技術指導や、子どもへの教育支援、自然体系の保護など様々な活動に取り組むほか、社内でも従業員の職場環境の向上や、工場からのCO2排出量の削減に尽力してきた。その功績が評価され、2020年1月には、環境・社会に配慮した事業活動を行う企業に与えられる「B コーポレーション(Certified B Corporation)」認証を取得している。ヴァローナのこれからの100年は、「最高のショコラを作るだけでなく、生産者、従業員、シェフ、お客さまなど全てのパートナーとともに、サステナブルな事業モデルを創造する」ことを目指していくという。

知識や技術を共有し、製菓業界の新しい価値を創造

2年に一度開催される「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」 ※画像提供/ヴァローナ・ジャポン
2年に一度開催される「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」 ※画像提供/ヴァローナ・ジャポン

こうしたショコラに対するこだわりを追求する一方、ユーザーであるシェフへの支援にも力を入れてきた。その一例が、世界最高峰のパティシエ・コンクールとして知られる、「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」。近年、日本チームの活躍が国内でも知られるようになってきたが、ヴァローナは1989年よりオフィシャル創設パートナーとして参画し、世界のパティシエの挑戦を支援している。さらに、次世代のシェフを育成し、製菓業界の発展に貢献する機関として、「エコール・ヴァローナ」を1989年に創立。現在は、タン・レルミタージュ、東京、パリ・ベルサイユ、ニューヨーク州・ブルックリンの4校を開設している。

100年の感謝を伝え、未来へ向けて幅広く発信する記念イヤー

ヴァローナの「マンジャリ」と「ニアンボ」を使った特別デザートと、カカオパルプの濃縮果汁を使ったドリンク ※筆者撮影
ヴァローナの「マンジャリ」と「ニアンボ」を使った特別デザートと、カカオパルプの濃縮果汁を使ったドリンク ※筆者撮影

普段はプロフェッショナル向けの商品をメインに展開しているヴァローナだが、今年は100周年を記念して、「未来への提案含めヴァローナを広く知ってもらう」年と位置付け、一般消費者に向けたプロモーションも展開している。去る9月25、26日には、招待制のイベントを開催。ヴァローナのカカオへのこだわりや、サステナブルな取り組み、チョコレートができるまでの過程を紹介するほか、ショコラのテイスティングも実施。会場となったセルリアンタワー東急ホテルでは、100周年記念のスペシャルデザートもふるまわれた。

100年分の思いを込めて開発された限定商品「コムントゥ」 ※筆者撮影
100年分の思いを込めて開発された限定商品「コムントゥ」 ※筆者撮影

また同日発表されたのが、100周年を記念した限定商品「コムントゥ」。カカオ生産者やサプライヤー、お客さま、ヴァローナ社員など、次の100年を共に創る100名が開発プロセスに参加して作り上げたカカオ分80%のブラック・ チョコレートで、2022年9月から1年間の「コムントゥ」の利益全額がカカオ生産者に還元される。

今回のイベントを開催した経緯について、ヴァローナ ジャポン中村さんは次のように説明する。「現代は、ビーン・トゥ・バーなどいろんなチョコレートの選択肢があり、またフランスで修業する若いパティシエが減っているとも聞きます。そうした中で、ヴァローナの製品を今後もシェフの方々に使っていただくために何が必要かと考えたときに、素材であるショコラの価値をお客さまに知っていただいていたほうが、シェフのクリエーションの価値も上がるのではと考えました。また最近はコロナ禍で、自宅でお菓子づくりをする人も増えています。チョコレートそのものを食べる行為も含めて、家での時間にもショコラを楽しんでほしいと考えています」。

消費者のマインドも、企業の「社会的責任」を重視する方向に

フランスで営業車として稼働していた「ヴァローナ・カー」が、100周年を記念して現代版として復刻 ※筆者撮影
フランスで営業車として稼働していた「ヴァローナ・カー」が、100周年を記念して現代版として復刻 ※筆者撮影

近年は、消費者が商品を選ぶ際に、ただおいしいだけでなく、社会的責任が果たされている企業に投資する傾向が強まっている。だが、個人の菓子店ではサステナビリティをどのように表現すればいいかわからない、というケースも少なくない。そこでヴァローナでは、サステナブルな活動を行なうための実践的なアドバイスを解説した「ヴァローナ スイート・ガストロノミー ガイドライン」を2021年9月に作成。公式ウェブサイトで公開している。

ヴァローナでは今後も、単なる周年イベントとしてではなく、未来に向けた提案として様々な活動を予定しているという。製菓業界におけるサステナビリティについても、業界をリードする形で発信していく意向だ。

※「菓子業界のミライ」シリーズでは、今後も新しい取り組みで、製菓業界の未来を切り拓こうとする企業やパティスリー、シェフなどを取材していきます。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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