Yahoo!ニュース

大谷翔平にビジネスマネージャーはいないのか?いたとしても…

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
長年お金を管理してきたビジネスマネージャーを訴訟したジョニー・デップ(写真:REX/アフロ)

 大谷翔平と水原一平をめぐる問題が、アメリカでも大騒ぎになっている。

 大谷選手は水谷氏の借金の肩代わりをしたのか、したのであれば違法賭博でできた借金だと知っていたのか知らなかったのか。あるいは、大谷選手サイドの声明にあるように、彼は「大規模な盗難」の被害者なのか。真相はまだわからないが、西海岸時間24日(日)の「Los Angeles Times」スポーツ欄にも、「450万ドルが消えていても気づかないほどお金があるって良いね」、「大谷翔平の弁護士でも、エージェントでもなく、通訳が500万ドル近いお金を本人に知られることなく吸い上げていたと、私たちに信じろというのか?」など、読者からさまざまなコメントが寄せられている。

 そんな中に混じって時々聞こえてくるのが、大谷選手は個人的なお金を管理するビジネスマネージャーをつけていなかったのかという疑問だ。

 ドジャースとの10年7億ドルの契約金のほとんどは引退後に支払われることになっているとしても、大谷選手は昨年、広告出演料だけでMLB史上最高記録の6,500万ドル(およそ98億円)を稼いだとされる。それだけのお金が継続的に入ってくるアメリカの大物セレブなら、お金に興味がある、ないにかかわらず、プロに管理してもらうものだろう。ちゃんと仕事をするビジネスマネージャーがいたなら、450万ドルもの「大規模な盗難」が起きて気づかないことはないだろうし、「この目的のためにこれだけのお金を使いたいのだが、どうだろうか」と相談をして意見を聞くこともできたと思われる。

 その一方で、彼らの存在は、絶対ではない。それは誰よりもジョニー・デップが知っている。

 デップは、「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊」でトップスターになるより前ではあるが主演級の映画俳優として安定したキャリアを保っていた1999年、ロバート&ジョエル・マンデル兄弟のザ・マネジメント・グループ(TMG)と契約を締結。以後、TMGは、デップが稼ぐ巨額のギャラと、同様に巨額な彼の出費を管理し、税金を支払う任務をになってきた。

 だが、彼らを雇って15年以上経つある時、デップは、650万ドルあるはずの財産のほとんどがなくなっていると気づいたのだ。さらに、TMGは期限までに税金を納めることも怠っていたため、遅延ペナルティが560万ドルも発生していた。また、デップに報告することなく、TMGは、デップの姉やアシスタントに過剰な支払いをしたり、自分たちの目的のためにデップのお金を投資して損益を出したりしていたようなのである。

 デップは彼らをクビにし、ただちに新たなビジネスマネージャー、エド・ホワイトと契約。この状態から抜け出すための計画をホワイトに立ててもらう一方、デップは、TMGに対して2,500万ドルの損害賠償を求める民事訴訟を起こした。それを受けてTMGは、こんな状況に陥ったのは贅沢なライフスタイルを続けたせいであり、自分たちが何度忠告しようと聞き入れなかったと、デップを逆訴訟。税金を期限までに払えなかったのもデップがお金を使いすぎて残高がなかったからだと主張する彼らは、ワインやプライベートジェット、不動産、ガードマンなどにデップがどれほど信じられない金額を使っているかを、詳細にわたって訴状に記載した。

 この訴訟は、最終的に示談で解決。合意内容は明らかにされていないが、デップに有利な結果だったとされている。

ニコラス・ケイジもビジネスマネージャーを訴訟し、逆訴訟された
ニコラス・ケイジもビジネスマネージャーを訴訟し、逆訴訟された写真:REX/アフロ

 デップの古い友人であるニコラス・ケイジも、似たような体験をした。彼もまた、ある時、実はお金がすっからかんになっている上、未払いの税金があることを知り、長年のビジネスマネージャー、サミュエル・レヴィンを解雇した上で訴訟している。レヴィンは、ケイジは身の丈以上の贅沢な生活をし、ヨットや高額なアートなど自分が反対した物も聞く耳を持たずに購入したと、逆訴訟。支払いができず、銀行からも訴訟されたケイジは、不動産をはじめ多くの物を手放し、10年以上ひたすら映画に出演して、最近、多額の借金の返済を終えた。

 結局のところ、ビジネスマネージャーも、プロとはいえ他人だ。ほかのどんな職業とも同じで、本当に信頼できるのかどうかは人による。それに、たとえ優れた人物であり、良いアドバイスをくれたとしても、お金を使うのはお金を稼ぐ本人なので、聞きたくない話に耳を塞いで散財するのは止められない。

 当たり前の話だが、本人がしっかりしている必要があるということ。忙しくても任せっきりにしているのはリスクだし、アドバイスをもらうためにせっかくプロを雇ったのであれば、意見を聞くべきだろう。それにしても、そんな大金を稼ぐ暮らしが想像もつかない我々庶民にすれば、羨ましい悩みである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事