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「SHOGUN 将軍」2週目も配信ランキング首位。第2シーズンの可能性は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「SHOGUN 将軍」で主演とプロデューサーを務める真田広之(筆者撮影)

 真田広之主演の超大作ドラマ「SHOGUN 将軍」が、衰えない勢いを見せつけている。

 第1話と第2話を同時配信した2月27日からの1週間に、ディズニー・ジェネラル・エンタテインメント・コンテントの歴史で最高のデビュー記録となる視聴数をはじき出してみせたこのミニシリーズは、3月4日から10日の週もアメリカで首位をキープした。「SHOGUN 将軍」は、アメリカで、ディズニー傘下のHuluが配信する。会員数で最大のNetflixを破り、ほかの配信会社の作品が2週連続でトップに君臨するのは非常に珍しいことだ。

 ここまでの大成功となると、ハリウッドでは、早々と第2シーズンにゴーサインが出るのが普通。しかし、この作品のショーランナーを務めるジャスティン・マークスと脚本家のレイチェル・コンドウは、この先を続けることに積極的な意欲を示していない。

「The Hollywood Reporter」が掲載したロングインタビューで、マークスは、原作本の終わり方をとても気に入っており、このミニシリーズもその通りに終わらせたことに満足していると語った。また、この作品は、普通のテレビあるいは配信ドラマと比較にならない時間と労力が費やされたことから、「体が無理だと言っている。今また子供を作れと言われて『無理!』と言うのと同じ」とも、彼はいう。

 その一方では、「工場をひとつ作ったのに、車を10台生産して閉鎖してしまったようなもの」と、ちょっと残念さを滲ませてもいる。このシリーズの製作中、夫マークスとの間にふたりも赤ちゃんを産んだコンドウも、子育てにたとえて「哺乳瓶の消毒でもなんでも良いのだけれど、何かがやっとうまくできるようになったと思ったら、(赤ちゃんが育ってしまって)もうその必要がないと気づく、そんな感じ」と、今の心境を述べた。このシリーズのためには900ページもある分厚いマニュアルが作成されたそうで、「誰か友達が日本の時代劇を作ることになったら、あげようと思う。あれがあったら、11ヶ月くらい時間が節約できるだろう」とも、マークスは語っている。

ジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウ
ジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウ写真:REX/アフロ

 だが、製作したFXはどうだろうか。そもそもハリウッドはシリーズ物が大好き。この作品の場合は、マークスが言うように製作面で次への土壌が整っているのだし、彼らがあっさり諦めるわけはないように思える。最終回の終わり方は確かに非常にかっこいいので、あの余韻を大事にするにしても、違う手があるはずだ。

 たとえば、プレクゥエル。Rottentomatoes.comなどで一般視聴者の感想には、あの時代の日本におけるポルトガル人の存在について「知らなかった」「興味深い」などというコメントを見かける。「SHOGUN 将軍」第1話に至るまでの状況を語れば、面白いのではないか。

 続編にするならば、「ジョーカー」を参考にするのはどうだろう。あれもまた、解釈の分かれる結末が魅力だ。公開前から、トッド・フィリップス監督は、これは単発の作品で、シリーズにするつもりはないと語っていた。だが、スタジオとしては、全世界で10億ドルも売り上げた大ヒット映画をそのままにしておくのはあまりに惜しい。そこでフィリップス監督は、続編を、1作目と全然違うミュージカルにするアイデアを思いついたのだ。今年10月公開予定のその映画「Joker: Folie a Deux」がどんな作品になっているのか、今はまだわからないが、実に賢い。「SHOGUN 将軍」も、続編にまったく違う形でアプローチする方法は、あるかもしれない。

エミー賞への期待もかかる

 ただし、大成功を受けて次を作る上で、スタジオ側にはある種の覚悟もいる。観客が限られるR指定であり、当たるかどうかもわからなかった「ジョーカー」の予算が、スーパーヒーロー映画としてはかなり低い5,500万ドルだったのと違い、「Joker: Folie a Deux」の予算はなんと2億ドル。主演のホアキン・フェニックスのギャラだけでも2,000万ドルだという。「SHOGUN 将軍」も、続編なり、プレクェルなりが作られることになれば、真田広之のギャラはおそらく大幅にアップするだろう。そもそも、「SHOGUN 将軍」のヒットにはプロデューサーも兼任した彼が大きく貢献しているのだし、次を作るにしても彼の存在は不可欠。当然、報酬はそれにふさわしいものであるべきだ。

 いずれにせよ、このように部外者が勝手に思いをめぐらせるまでもなく、FXの社内では、すでにいろいろな会話が飛び交っているに違いない。だが、それ以前にやるべきこともある。9月に控えるエミー賞だ。ノミネーション発表は7月と、すぐそこ。キャンペーンの準備にも、今から力が入っていることだろう。とりあえずは、このミニシリーズのジャーニーを、しっかりと見届けたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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