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ハリー王子のドキュメンタリー、Netflixのライバル会社で配信される。1億ドルの契約はどうなった?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ハリー王子についてのドキュメンタリーが突然アメリカのHuluで配信に(写真:REX/アフロ)

 ハリー王子とメーガン妃がNetflixと結んだ1億ドルの契約は、来年いっぱいまで。しかし、王室批判をネタにしたドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」以後ヒットはない。Netflixも、メーガン妃も、「アイデアはいくつもある」とコメントをしているが、具体的な作品は発表されないままだ。

 そんな中、何の予告もなく、突然、ハリー王子についてのドキュメンタリーがライバル会社で配信開始され、世間を騒然とさせた。タイトルは、「Prince Harry’s Mission: Life, Family and Invictus Games」。配信するのは、ディズニー傘下のHulu。「Daily Mail」が報じるところによれば、Netflixは寝耳に水だったようだ。

 だが、実際に見てみると、Huluのために撮りおろしされた作品ではなく、つい最近、やはりディズニー傘下であるメジャーネットワークABCの番組「Good Morning America」が放映した映像に、もう少し要素を付け加えただけのものだった。次の開催まで1年に迫ったインビクタス・ゲームを盛り上げるイベントのためにカナダを訪れたハリー王子とメーガン妃を取材したもので、主旨は、ハリー王子がこのイベントにかける情熱と、この試合の意義を伝えること。そんな中でも、ハリー王子は短いインタビューでチャールズ国王を訪問したことなどについても語っており、放映当時、ちょっとした批判を受けたりもしている(インタビュアーに聞かれたから答えたのだろうし、詳しいことは何も語らなかったものの、国王自身も、英国王室も、ご病気については何も言っていないため、またもや家族のネタで話題を集めようとしたと受け止める向きも少なくなかった)。

 この制作チームは最初から、後に系列のHuluで配信するつもりだったということだろう。これは、ドキュメンタリーというほどのものではなく、報道番組の延長のような感じ。それに、ハリー王子、メーガン妃はプロデューサーではなく、取材対象だ。だから、Netflixに伝えなくてもいいと、ハリー王子は思ったのかもしれない。それでも、Netflixとの契約の中に、ライバルと仕事をすることについて、何かしらの項目があったのではないか。そこを守らなければ、Netflixを怒らせるのではないか。

 そのことについて、ソーシャルメディアには、意見や疑問が飛び交っている。「Netflixは夫妻を訴訟するべきだ」という強い声もあれば、「そもそも、Netflixとの契約は事実上死んでいるのかも」という憶測も見られる。実際、この5年契約が終了した後、更新するつもりはNetflix側にも夫妻の側にもないと、最近報じられたところでもあるのだ。

 Netflixの気持ちはわからなくもない。彼らは、これ以後ヒットを出してくれそうもないこの夫妻のプロダクション会社アーチウェル・プロダクションズの経営コストを負担してあげているらしいのである。それに、1億ドルというのは複数作品が作られるのを想定してのこと。実際に現在までに夫妻に支払われたのは2,000万ドル程度とのことだ。

 一方、ハリー王子とメーガン妃は、先日、王室ブランドを前面に押し出すべく、ウェブサイトのアドレスをSussex.comに変更し、活動内容やプロフィールを細かく記載したのだが、不思議にもそこにNetflixの名前は出てこない。契約は「死んだ」とまではいかないにしろ、勢いを失っていて、未来に希望が見えない状態とは言えるのではないか。今回の行動が“裏切り”にあたるかどうかは定かではないにしても、「棺桶に釘が打たれた」と、これでNetflixもついに彼らを切る決断をするのではないかと憶測するコメントも見受けられる。

来年のインビクタス・ゲームの開催地カナダを訪れたハリー王子とメーガン妃
来年のインビクタス・ゲームの開催地カナダを訪れたハリー王子とメーガン妃写真:REX/アフロ

 メーガン妃は、昨年春、ハリウッドの大手タレントエージェンシー、ウィリアム・モリス・エンデヴァー(WME)と契約。同社は、映画やテレビの制作、ブランドとのコラボレーションなどについてお手伝いをしていくと発表していた。しかし、何も華やかなニュースは出てこないばかりか、それからまもなく、メーガン妃は、それ以前に契約していたSpotifyから切られるという屈辱を受けることに。今月に入って、メーガン妃はレモネーダ・メディアという別のポッドキャストの会社と新たに契約を結び、「新しいポッドキャストの企画も進んでいます。皆さんにお伝えするのが待ちきれません」との声明を出したが、具体的な内容も、契約の金額もわかっていない。

 新たなチャンス、パートナーを得られたことはもちろん良いこと。しかし、実際に何かを作り、成功させなければ、お金にはならない。それはSpotifyとの体験で実感させられたはず。レモネーダでも、Netflixでも同じことだ。このHuluのドキュメンタリーは取材されるだけで良いので楽だっただろうが、作り手としての彼らの力はまだ試されている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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