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「トップガン」出演俳優がパラマウントを提訴。ただでさえ大変な時に…

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
パラマウントに対する訴訟を起こしたバリー・タブ(左)(写真:REX/アフロ)

 ここのところ、いろいろな問題に直面しているパラマウント・ピクチャーズに、新たな頭痛の種が出てきた。2022年の大ヒット映画「トップガン マーヴェリック」をめぐって、1986年の「トップガン」に出演した俳優から訴訟を起こされたのだ。

 原告は、オリジナルでウルフマン役を演じたバリー・タブ(61)。彼は、パラマウント・ピクチャーズが許可を取ることなく自分の写真を使用したとして、差し止めと賠償を要求している。彼が問題視するのは、昔の写真を見たハングマン(グレン・パウエル)とコヨーテ(グレッグ・ターザン・デイヴィス)が、ルースター(マイルズ・テラー)はグース(アンソニー・エドワーズ)の息子なのだと気づくシーン。スクリーンに映し出されるその写真には、若い頃のマーヴェリック(トム・クルーズ)、グース、アイスマン(ヴァル・キルマー)、ウルフマンが並んでいる。

 タブは、1986年の映画に出演した時のパラマウント・ピクチャーズとの契約に、続編の可能性についてはまるで触れられていなかったと指摘。続編ができることになり、当時の写真をストーリー上、重要なシーンに使うとわかってからも、自分に許可を求めることをしなかったと、タブは訴える。求める賠償の額は数字で明記されていないものの、映画の世界興収が15億ドルにも及ぶため、相当な額を想定しているものと思われる。同じ写真の中にいるキルマーは、続編にも出演。エドワーズが写真の使用について許可を与えたのかどうかは、不明。タブは、この10年、映画やテレビに出演していない。

 パラマウント・ピクチャーズは、つい最近、「ロミオとジュリエット」(1968)の主演俳優オリヴィア・ハッセーとレナード・ホワイティングから、2度目の訴訟を起こされたばかり。今回の訴訟で、彼らは、昨年発売されたデジタル復刻版で、当時未成年だった自分たちのヌードがより鮮明に見えるとし、シーンの削除を求めている。被告にはクライテリオン・コレクションも名を連ねる。その前の訴訟は、そもそもヌードにさせられたことについて起こされたものだったが、こちらは裁判所によって棄却された。

パラマウントを買収する話が複数浮上

 こういった外からの問題以前に、彼らには今、お家の中でももっと深刻なことが起きている。彼らの買収を望む人たちが複数現れたのだ。

 ひとつは、パラマウント・ピクチャーズと製作契約を結んでいるプロダクション会社スカイダンス・メディア。同社は「トップガン マーヴェリック」や最近の「ミッション:インポッシブル」も製作した。スカイダンスの創業者デビッド・エリソンは、オラクルの創業者でビリオネアのラリー・エリソンの息子だ。そこへ今度はアレン・メディアのバイロン・アレンが300億ドルでパラマウント・グローバルを買収したいとオファー。さらに、ワーナーブラザース・ディスカバリーも、パラマウント・グローバルとの合併について話をしたことが明らかになった。パラマウント・グローバルには、パラマウント・ピクチャーズ、メジャーネットワークのCBS、配信会社パラマウント・プラス、ケーブルチャンネルのショータイム、コメディ・セントラル、MTV、ニケロデオンなどが含まれる。

 その中の誰かが実際に買収するのかどうかは不明なまま。そんな中、パラマウント・グローバルは、800人をレイオフすると社員に通達している。人員削減は、グループ内のすべての会社に及ぶという。

 CBSはスーパーボウルを中継して史上最高の視聴率を獲得、パラマウント・ピクチャーズは「ボブ・マーリー:ONE LOVE」をヒットさせ、このグループには今月、良いニュースが続いたところ。今年はさらに、「クワイエット・プレイスDAY1」、ライアン・レイノルズ主演の「IF」、「グラディエーター2」、アニメーション映画「Transformers One」など期待作が控える。また「トップガン」3作目の企画も浮上しているようだ。この歴史あるスタジオがこれからもきっとヒット作を生み出していく可能性は、十分。そんな彼らは、今目の前にある課題をどう解決していくのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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