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アレック・ボールドウィン誤射事件の武器係、前夜にドラッグを使用?部屋に実弾があった疑いも

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
誤射事件で死亡したハリナ・ハッチンスの追悼式(写真:ロイター/アフロ)

 アレック・ボールドウィン主演の映画「Rust」の撮影現場で死者とケガ人が出る事件が起きたのは、2021年10月。実際に銃を撃ったボールドウィンは、一度起訴を取り下げられ、最近再び起訴されるということがあったが、武器の責任者であるハンナ・グテレス=リードはずっと起訴されたままで、現地時間今月21日に刑事裁判が始まる。そんな中、彼女がロケ地でドラッグとアルコールを使用していたという事実を証拠として裁判に出してくることが許可された。

 検察によれば、グテレス=リードは、仕事中ではないものの、ロケ地でコカイン、マリファナ、アルコールを使用していたとのこと。ボールドウィンに手渡された小道具の銃に実弾を詰めた事件の日は、二日酔い状態だった疑いが持たれている。検察は、グテレス=リードが書いた、事件の前夜を含めて仕事をしていない時間にドラッグを使用したことを認めるテキストメッセージを証拠として押さえているとのことだ。

 また、グテレス=リードが宿泊していたホテルでマリファナを吸っている時、彼女の部屋に実弾があったとの証言もある。本来、撮影現場にあるはずのない、またあってはいけない実弾がなぜ紛れ込んだのかは、この事件の焦点のひとつでありつつ、まだ明らかになっていない。

 さらに検察は、事件が起きた数時間後、グテレス=リードがコカインの入った小さな袋を知人に隠してもらったとの証言も得ている。業界でブラックリストされることを恐れ、この証言をした人は身分を明かしていないという。

 グテレス=リードの弁護士は、「事件からこんなに時間が経ってからそんな証言が出てくるのか」と、知人と名乗る人物の証言の信ぴょう性に疑問を投げかけている。また、事件当日にグテレス=リードがドラッグや酒の影響を受けていたという証拠はないとも主張。「どれだけのコカインが使用されたのか、グテレス=リード氏の判断力にどんな影響があったのか、検察は何の証拠も持っていない」とし、そのような情報を裁判に出してくることは陪審員に偏見を持たせるだけだと、それらを証拠として認めることに反対した。グテレス=リード本人は、ホテルの部屋にドラッグがあったことを否定している。

「安全です」と銃を手渡した助監督は司法取引で起訴されず

「Rust」は、製作費700万ドルのインディーズ映画。予算が厳しく、製作現場のあちこちで切り詰められていた。そのせいもあり、武器が多用されるウエスタン映画であるにもかかわらず、武器担当者はなかなか決まらないまま。撮影開始直前になってようやく、当時24歳で、映画の武器担当者を務めたことは一度しかなかったグテレス=リードに決定した。グテレス=リードは、初めて武器の責任者を務めた映画「The Old Way」の現場でも、きちんと中身をチェックせずに小道具の銃を子役に渡す様子が目撃されている。また、「Rust」の現場では、武器だけでなくほかの小道具についての仕事も任されており、大変すぎると上に苦情を出していた。

 事件が起きたのは、ランチ休憩の後、次の撮影場所である小さな教会の中。ボールドウィン、監督ジョエル・ソウザ、撮影監督ハリナ・ハッチンスは、次のシーンのカメラアングルを決めようとしていた。ボールドウィンに「コールドガン(安全な銃)です」と言って小道具の銃を手渡したのは、助監督のデイヴ・ホールズ。だが、ハッチンスがカメラを覗いていると、ボールドウィンの銃が突然、実弾を発射したのだ。その弾はハッチンスの体を突き抜け、横にいたソウザの肩に当たり、ハッチンスは搬送先の病院で死亡。ソウザも負傷した。

 ボールドウィンは「引き金を引いていない」と、当初から主張し続けている。また、問題の銃が事前に改造されていたこともわかっている。中をチェックせず「コールドガンです」と言ったホールズは、司法取引をしたため、起訴されていない。

撮影再開にあたり、モンタナ州に作られた「Rust」のセット
撮影再開にあたり、モンタナ州に作られた「Rust」のセット写真:ロイター/アフロ

 ボールドウィンは主演俳優であるだけでなくプロデューサーでもあり、この事件で民事でも複数から訴訟された。ハッチンスの夫マシュー・ハッチンスも訴訟を起こしたが示談で解決し、彼もエグゼクティブ・プロデューサーとして加わることで、「Rust」の撮影は再開。ロケ場所はモンタナ州に移り、撮影は昨年6月に終了している。

 映画の舞台は、1880年のカンザス州。両親を失った13歳の少年が事故で誰かを殺してしまい、追っ手を逃れて疎遠になっている祖父(ボールドウィン)に助けを求めるという物語。公開予定についてはわかっていない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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