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マドンナ、コンサート遅刻で訴えられる。映画、養子縁組、騒音問題まで、過去の法廷争いを振り返る

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「Celebration」ツアーのNYコンサートに遅刻したマドンナ(写真:Splash/アフロ)

 マドンナが、またもや世間を騒がせている。先月、ニューヨークのブルックリンで行われた「Celebration」ツアーのコンサートに彼女が大幅に遅れてやってきたことに怒ったファンが、訴訟を起こしたのだ。

 原告は、ニューヨーク在住の男性ふたり。午後8時半に始まる予定のコンサートにマドンナが現れたのは午後10時45分頃で、終了したのは午前1時前後。その時間には交通手段も限られ、料金が割高になってしまった上、翌朝出勤したり、家族の世話をしたりなど、平日にこなす普通のことが思っていたより大変になってしまったと、ふたりは主張している。こんなに遅く始まるとわかっていたらチケットを買わなかった、約束の時間より3時間近くも遅れるのは虚偽の広告だと責める彼らは、その後のコンサートでもマドンナが同じように遅刻をしていることから、これを集団訴訟にするかまえでいる。

 コンサートに遅れてくることで悪名高いマドンナは、「Madame X」ツアーを行った2019年にも同じ理由で訴訟されている。原告は、フロリダに住む男性。この時は事前に遅延が通達されたものの、午後8時半だったコンサートが午後10時半に変更になったことを理由に返金を要求しても受け入れられず、転売するにも価値が下がっていたと、この男性は損害を訴えている。この訴訟は、1ヶ月後に原告によって自主的に取り下げられた。同年、同じツアーのニューヨークでのコンサートのチケットを買った男性ふたりも、マドンナが予定よりずっと遅れてやってきたとして訴えたが、こちらもまもなく示談で解決。どのような条件で合意がなされたのかは不明だ。

同じマンションのご近所さんと争いも

 これ以外の理由でも、マドンナは、過去にさまざまな人々から何度となく訴訟されてきている。

 1992年には、ドキュメンタリー映画「イン・ベッド・ウィズ・マドンナ」をめぐり、3人の男性ダンサーが、プライバシーの侵害を理由に、マドンナ、彼女のプロダクション会社、映画会社ミラマックス、プロパガンダ・フィルムズを訴訟した。ダンサーらによれば、私生活について個人的なおしゃべりをしているところや、男性同士でキスしているところを撮影されて映画に使われ、心が深く傷ついたとのこと。監督にカットしてほしいとお願いすると、マドンナに「面倒くさいことを言わないで」と怒鳴られたそうだ。この訴訟は1994年に示談で解決した。

 また、2012年には、「MDNA」ツアーで「Vogue」を歌う時にマーロン・ブランドの写真を使ったことが訴訟問題へと発展。この歌のパフォーマンスにはジェームズ・ディーンをはじめ、すでに亡くなっているほかのセレブリティの写真も使われ、それぞれに同じ金額が支払われたのだが、納得しないブランドの遺族がもっと大きな額を要求してきて拗れた。マドンナ側がまず訴訟を起こし、ブランド側がそれに応じて逆訴訟するも、その翌年、両者は、裁判に至る前に合意に達している。

2012年、「MDNA」ツアーのマドンナ
2012年、「MDNA」ツアーのマドンナ写真:ロイター/アフロ

 ご近所さんとの争いもあった。マドンナがニューヨークに所有するマンションの住人のひとりは、マドンナが家の中でダンスのリハーサルする音が「耐えられないほど大きく、壁が振動する」として、訴訟。マドンナは裁判所に棄却を願い出るもかなわず、最終的に示談が成立した。

 しかし、数年後には、その同じマンションで別の揉めごとが起きている。仕事で不在にしている時も子供たちや使用人を住まわせているのはマンションの規定に反すると指摘されたことに怒ったマドンナが、「私は世界的に有名なレコーディングアーティストで、世界中を飛び回っているのだから仕方がないでしょう」と、管理組合を訴訟したのだ。裁判所は彼女の訴えを棄却するも、諦めないマドンナが上訴したところ、今度は管理組合から、かかった弁護士代として14万ドルを求める訴訟を起こされてしまった。

養子縁組をめぐる複雑な揉めごと

 揉めごとの舞台はアメリカ国内に限らない。騒音に関する住人からの苦情は彼女のロンドンの住居でも寄せられたし、はるか遠くアフリカはマラウイでも法にかかわる問題が起きている。

 当時の恋人でパーソナルトレーナーのカルロス・レオンとの間に長女ローデス、2度目の夫ガイ・リッチーとの間に長男ロッコを生んだマドンナは、その後、マラウイから、2008年にデビッド、2009年にマーシー、2017年に双子のステラとエスターを養子に引き取った。しかし、国外への養子縁組に厳しいマラウイには、養子縁組を希望する外国人は最低18ヶ月マラウイに住まなければいけないという法律がある。マドンナはその規定を満たしていないことから、マーシーの時には現地の判事によって養子縁組の申請が拒否された。しかし、その後、最高裁に移ると、マドンナが現地のチャリティに多額の寄付をしていることが功を奏し、判決は一転。マドンナは望み通りマーシーをアメリカに連れて帰ることができた。

マドンナとマーシー、2010年
マドンナとマーシー、2010年写真:ロイター/アフロ

 デビッドと双子のステラとエスターの時は、マーシーのようなトラブルはなかったものの、いずれも後になってから、血のつながった父が「養子縁組というものを理解していなかった。アメリカのお金持ちの女性が教育を受けさせてくれて、将来的には戻ってきてくれるのだと信じていた」とメディアに語り、疑問や批判が起きることになっている。カンボジア、エチオピア、ベトナムから引き取った子供を持つアンジェリーナ・ジョリーも、マドンナが法を守らずに養子縁組をしたことについて複雑な心境を語ったことがある。

 家族と言えば、彼女は離婚でもずいぶん裁判所のお世話になった。最初の夫ショーン・ペンとは婚前契約(pre-nup)を結んでいたせいで比較的すんなりと離婚できたが、リッチーとはなぜかこの契約を交わしておらず、より多くを稼ぐマドンナは、財産分与で9,000万ドル(今日の換算レートで約133億円)を支払うことに。さらにロッコの親権に関しても相当に揉め、最終的に判事は16歳だったロッコにどちらの親と住むかを決めさせることにし、ロッコに父を選ばれてしまうという屈辱を体験した。

 そのせいでロッコとマドンナの関係はやや複雑になったが、昨年マドンナが突然倒れた時、ロッコはイギリスから急遽駆けつけてきたし、最近もマドンナのスウェーデンでのコンサートで舞台に上がっている。何かと身辺が忙しいマドンナも、ここに関しては安らぎができたようである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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