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ハリソン・フォード、ハリウッドの多様化を称賛。「業界が変わって嬉しい」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ジェームズ・マンゴールド監督からトロフィーを受け取るハリソン・フォード

「この業界がこんなふうに変わってきたのを見られて嬉しいです。今、才能のある人たちがチャンスを得られています。私のキャリアの初期にはなかったようなチャンスを。そのことに、とても満足しています」。

 現地時間14日の放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards/CCA)授賞式で功労賞を受賞したハリソン・フォードは、開口一番、そのように述べた。

 81歳のフォードにトロフィーを授与した「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」の監督ジェームズ・マンゴールドは、「アメリカン・グラフィティ」、「地獄の目次録」、「逃亡者」、「ワーキング・ガール」、「ブレードランナー」などのタイトルを挙げ、「『スター・ウォーズ』を入れなくても、彼はこれだけ違う作品で、すばらしい演技を見せてきたのです」と、フォードの役者としての幅の広さを絶賛。「彼の演技には真実と感情があり、男らしさと同時に脆さもあります。感動も、そして笑いも与えてくれます」とマンゴールがさらに続けた後、舞台のスクリーンには彼の出演作のシーンを編集したフッテージが上映された。

 それが終わると、総立ちになった会場の人々の拍手に包まれ、フォードは舞台へ。そして冒頭の言葉で受賞スピーチを始めたのだ。

 舞台の上から見る会場は、たしかにひと昔前と違って多様だっただろう。この授賞式では、アジア系主要キャストの「BEEF/ビーフ〜逆上〜」が複数部門で受賞したし、このアワードシーズンに助演女優部門を制覇している「The Holdovers」の黒人女優ダヴァイン・ジョイ・ランドルフは、この夜も賞を手にした。また、受賞こそ逃したものの、黒人キャストの「カラーパープル」が作品部門および演技部門に候補入りしている。プレゼンターにも、ラティーノのアンソニー・ラモス、エジプト系アメリカ人のラミー・ユセフ、アジア系のサンドラ・オー、黒人のドナルド・フェイソンなどがいた。

 それも、「#OscarsSoWhite」騒動をきっかけに、この8年間、ハリウッドは真剣に多様化への努力を積み重ねてきた結果だ。変化は痛みを伴うもので、時には「やりすぎ」「見え見え」などネガティブな声も聞かれている。一番割を食ったのは、ずっと優位に立ってきた、白人のストレート男性だ。しかし、そのひとりであるフォードは、純粋にこのことを祝福している。その誠意は、彼の様子に見て取れた。

フォードとフロックハートは今年結婚14年目を迎える
フォードとフロックハートは今年結婚14年目を迎える

 スピーチの中で、フォードは、「私がここまで来られたのは、運と、優れた監督、脚本家、フィルムメーカーたちのおかげです。その組み合わせ。自分はとても恵まれていると感じます」と、自分のキャリアを謙虚に見つめ直した。続いて彼は、出会って22年、結婚14年目を迎えるカリスタ・フロックハートに対し、いつも支えてくれることを感謝。これまでに一緒に共演してきた「優れた俳優たち」にも、心からのありがとうを述べた。

 感極まった様子も見せたフォードは、会場の注目を一斉に集めていることに照れたのか、「これ以上みなさんのお時間を取らせることはしません」と、早々とスピーチを締めくくっている。そんなところもまた好感を呼び、会場はあらためて惜しみない拍手をフォードに向けて送った。

「20年前には不可能なことに思えた」

 この授賞式ではほかに、「バービー」のアメリカ・フェレラが、男女平等を主張し、ステレオタイプを打ち破ろうとする女性に与えられる「SeeHer」賞を授与された。彼女もまた、受賞スピーチで、多様化への長かった道のりについて振り返っている。

大ヒット映画「バービー」で、フェレラは女性たちが置かれた状況について最もインパクトのあるせりふを言う
大ヒット映画「バービー」で、フェレラは女性たちが置かれた状況について最もインパクトのあるせりふを言う

 フェレラにトロフィーを渡したのは、「バービー」のプロデューサー兼主演女優マーゴット・ロビー。ラティーノで初めてエミー賞を受賞した人物でもあるフェレラは、「私のような見た目の人が(テレビや映画で)人間としてしっかり描かれるのを見たいと、ずっと思ってきました。私がこの業界に入った20年前、そんなラティーノのキャラクターを演じてキャリアを築くのは不可能なことに思えました」と振り返った。おもちゃの人形をテーマにしたコメディ映画でありながらフェミニストのメッセージを持つ大ヒット映画「バービー」で最もインパクトのあるせりふを言うフェレラは、共同脚本家のノア・バームバック、ケン役のライアン・ゴズリングら男性の関係者に向けて、「本当に男らしい人たちである彼らは、女性の仕事を支えてくれました。あなたたちはみんな素敵です」と感謝。最後には、人生の伴侶として彼女の夢を支え続けてきた夫ライアン・ピアース・ウィリアムズにも、大きな感謝を捧げた。

監督賞を受賞したクリストファー・ノーラン。彼の「オッペンハイマー」は作品賞を含む8部門で受賞
監督賞を受賞したクリストファー・ノーラン。彼の「オッペンハイマー」は作品賞を含む8部門で受賞

 CCAは、主にアメリカとカナダ中心の批評家、ジャーナリスト約650人が投票する映画とテレビの賞(筆者も投票者を務める)。この夜、映画では、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」が、作品、監督、助演男優、演技アンサンブル、撮影、編集、作曲、視覚効果の8部門で受賞し、圧勝した。テレビでは、「メディア王〜華麗なる一族」、「BEEF/ビーフ〜逆上〜」、「一流シェフのファミリーレストラン」が複数部門で受賞。これらのドラマは現地時間15日のエミー賞授賞式でも大健闘が期待されている。

写真:Critics Choice Association/Getty Images

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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