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トム・ウィルキンソンが死去。「フル・モンティ」「ミッション:インポッシブル」の個性派英国俳優

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

「フル・モンティ」「イン・ザ・ベッドルーム」「バットマン ビギンズ」など数多くの映画で知られる個性派俳優トム・ウィルキンソンが亡くなった。75歳。自宅で家族に見守られながら息を引き取ったという。死因は明らかにされていない。

 1948年、イギリス、ヨークシャーのリーズ生まれ。農業に従事していた両親は、ウィルキンソンが幼い時、より良い人生を求めてカナダに移住。だが、父が得られたのはアルミニウムの製造工場での仕事で、6年後に家族は帰国。両親はコーンウェルでパブを経営したが、父が亡くなると、母と共にヨークシャーに戻った。16歳だったウィルキンソンは、新たに入学した学校で劇の演出を任され、その魅力に目覚める。カンタベリー大学在学中に演技を始め、卒業後はロンドンの王立演劇学校で本格的に学んだ。地方の労働者階級出身の子供が画家やミュージシャンやデザイナーとして成功できるのだと発見したのは、その時だ。

 王立演劇学校を出てからは、舞台やイギリスのテレビドラマでキャリアを築き始める。90年代初めには、ダニエル・デイ=ルイス主演の「父の祈りを」、アン・リー監督、エマ・トンプソン、ケイト・ウィンスレット、ヒュー・グラントらと共演する「いつか晴れた日に」などに出演した。映画俳優としての大きなブレイクは、1997年に到来。生活のためにストリップをする男性たちを描いた低予算のインディーズ映画「フル・モンティ」が、当時、イギリス映画として史上最高の興行成績を達成するほどの大ヒットになったのだ。この映画でウィルキンソンは英国アカデミー賞の助演男優賞を受賞した。作品自体も英国アカデミー賞を受賞したほか、オスカーにも候補入りしている。

 その後は、「オスカーとルシンダ」でレイフ・ファインズ、新人だったケイト・ブランシェットと共演。ハリウッドのブロックバスター「ラッシュアワー」や、オスカー作品賞受賞作「恋におちたシェイクスピア」、メル・ギブソン主演作「パトリオット」にも出演した。そして2001年のトッド・フィールド監督作「イン・ザ・ベッドルーム」で、初のオスカー候補入りを果たす。この年の主演男優部門のほかの候補者は、「トレイニング デイ」のデンゼル・ワシントン、「ビューティフル・マインド」のラッセル・クロウ、「I am Sam アイ・アム・サム」のショーン・ペン、「ALI アリ」のウィル・スミス。受賞したのはワシントンだった。

 その6年後には、トニー・ギルロイ監督の「フィクサー」で助演男優部門にノミネート。トニー・ギルロイ監督、ジョージ・クルーニー主演のこの映画は7部門で候補入りし、ティルダ・スウィントンが助演女優賞を受賞した。

 そのほかにも、ジム・キャリーとケイト・ウィンスレット主演の「エターナル・サンシャイン」、スカーレット・ヨハンソン主演の「真珠の耳飾りの少女」「理想の女(ひと)」、「ウディ・アレンの夢と犯罪」、「マリー・ゴールドホテルで会いましょう」、ウェス・アンダーソン監督の「グランド・ブダペスト・ホテル」、エヴァ・デュヴァネイ監督の「グローリー/明日への行進」など小粒の優れた作品に出演。同時に、トム・クルーズ主演の「ワルキューレ」「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」、ジョニー・デップ主演の「ローン・レンジャー」、クリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベール主演の「バットマン ビギンズ」などハリウッドの超大作にも出演した。HBOのミニシリーズ「ジョン・アダムス」ではエミー賞の助演男優賞を受賞している。

 妻は、1986年のイギリスのテレビドラマで共演した女優ダイアナ・ハードキャッスル。結婚後も、ふたりは2度、夫婦役で共演した。夫妻の間には娘がふたりいる。

「イン・ザ・ベッドルーム」のフィールド監督は当時、「自分の隣に住んでいると信じられる人。ロバート・レッドフォードが隣に住んでいるとは必ずしも信じられないかもしれないが、トム・ウィルキンソンなら信じられる」と語っている。

 ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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