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批評家のベスト国際映画に「ゴジラ-1.0」がランク入り。宮崎駿、役所広司作品も

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「君たちはどう生きるか」は3位(2023 Studio Ghibli)

 今月1日に北米公開された「ゴジラ-1.0」が、相変わらず健闘している。

 公開2週目を迎えた8日から10日にかけての売り上げは859万ドルで、初週末からわずか22%しか落ちていない。スーパーヒーロー映画などもそうだが、固定ファンがいる作品の場合、初週末にファンがどっと押し寄せて、次の週は大きく落ちることが多い。前の週よりスクリーン数が200ほど増えたとはいえ200程度だし、これはかなり立派だ。批評家の評も、とても良い。とは言え、怪獣映画である今作は、この時期に北米公開が集中するアワード狙いの作品とは違った位置付けである。

 と思っていたら、業界サイトIndiewireが毎年発表する今年のベスト映画の国際映画部門に、「ゴジラ-1.0」が入ったのだ。これは正直、驚きだった。

 このIndiewireの「批評家によるベスト映画と演技」は、世界の映画批評家が投票するもので、今年は158人が参加した(筆者も毎年投票している)。最優秀国際映画に選ばれた10本のうち、「ゴジラ-1.0」は8位。首位はカンヌ映画祭で最高賞パルムドールに輝いた「Anatomy of a Fall」、2位はカンヌでグランプリを取った「The Zone of Interest」。3位は宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」、4位はヴィム・ベンダース監督、役所広司主演の「PERFECT DAYS」、5位はカンヌで審査員賞を受賞したアキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」、6位はカンヌの監督賞受賞作「ポトフ 美食家と料理人」。

 6位までのうち4本がカンヌで重要な賞を受賞した作品で、残りの2本にしても、ベンダースはカンヌの常連だし(この作品も、受賞こそしなかったがカンヌで上映された)、宮崎駿は長編アニメーション賞(『千と千尋の神隠し』)と名誉賞で2度のオスカーに輝く巨匠だ。「君たちはどう生きるか」も、オスカー戦線において重要な意味を持つトロント映画祭で上映され、観客の投票で3位に入った。

 そして、これらの映画は、現在、どれもアワードキャンペーンを展開している。どれも外国資本の映画なので、Appleがお金を出した「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」やNetflix作品のためのキャンペーンの規模とはまるで比較にならないものの、早い時期から何度も投票者向けの試写を組んだり、投票者に向けてメールを送ったりしてきている。この時期に多数発表されるベスト映画や批評家賞などに入るよう、努力が積み重ねられているのだ。

 だが、「ゴジラ-1.0」は、そのようなキャンペーンはまるで目にしない。最初からそれは目的ではなく、興行面での成功が狙いなのだろうが、にもかかわらずこういうところへ入ってきたというのは、なおさらすごいと言える。一方では、これは批評家が投票するもので、「ゴジラ-1.0」はRottentomatoes.comで見ても97%の批評家が褒めているのだから、当然と受け止めることもできる。

オスカーはハードルがとても高い

 ではこの勢いでアカデミー賞はどうかというと、そこはハードルが思いきり高い。この映画にはオスカーの国際長編部門の資格がないというのが、一番の障害だ。

 アカデミー賞の国際長編映画部門には、それぞれの国がひとつの映画を選んでエントリーをする。その段階で選ばれなかったら、オスカーのこの部門では最初の土俵にも入れない。次のオスカーに日本からエントリーされたのは、ベンダースの「PERFECT DAYS」。つまり、「君たちはどう生きるか」も、国際長編部門では戦えない。

 だが、「君たちはどう生きるか」には、長編アニメーション部門がある。すでにニューヨーク映画批評家サークル、ロサンゼルス映画批評家協会、ボストン映画批評家協会から最優秀アニメーションに選ばれているこの映画は、オスカーでもこの部門を制覇できる可能性はかなりある(おそらく最もパワフルなライバルは、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』)。

 国際長編映画部門に入ることができず、アニメーション映画でもない「ゴジラ-1.0」に残されたのは、メジャーな部門だ。そこに入った前例は、存在する。濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は、国際長編映画部門で受賞したほか、作品、監督、脚本部門に候補入りしたし、韓国映画「パラサイト 半地下の家族」は、作品、監督、美術、編集にも入り、作品、監督、脚本、国際長編の4部門で受賞するという快挙を達成した。そのずっと前には、ミヒャエル・ハネケの「愛、アムール」が、外国語映画(当時の名称)受賞のほか、作品、主演女優、監督、脚本部門に候補入りしている。

メジャー部門に食い込んだ外国語映画も「カンヌ組」

 しかし、これら3作品も、やはりカンヌ組なのだ。「パラサイト 半地下の家族」と「愛、アムール」はパルムドール、「ドライブ・マイ・カー」は脚本賞を受賞している。5月という早い時期に業界関係者や映画批評家に見てもらい、受賞をして名を知らしめ、その後もほかの映画祭で上映したり、投票者に向けて試写を組んだりする中で良い評価をする人が増えて、オスカーでは外国語映画という枠にとらわれずに多くの人から投票してもらえたという流れだ。「ゴジラ-1.0」は、そういった映画とは違っている。

 そんな「ゴジラ-1.0」にこれから最も期待されるのは、北米でどこまで興行成績を伸ばすのかだろう。北米デビューした12月1週目と、その次の週は、アメリカの大人があまり映画館に行かない時期だ。ホリデー前で、ショッピングやイベントなどで忙しいからである。だが、完全に休みになる人が多いクリスマスから大晦日にかけて、映画館ビジネスは毎日が週末のようになる。その時期こそ、一番の稼ぎどき。もちろん、その頃にはまた話題の新作が公開され、ライバルが増える。それはそれでまた大変だ。今回のゴジラは、そこをどう戦っていくだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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