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ハリウッド俳優のストライキ、ついに終了。4ヶ月近く続いた闘いに幕 #ハリウッドのストライキ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
この光景を見るのもついに終わりだ(筆者撮影)

 みんなが待っていた瞬間が、ついに訪れた。7月14日からストライキをしてきた全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が、スタジオと配信会社の代表、全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)と、新たな契約条件で合意したのだ。

 ストライキは西海岸時間9日0時1分をもって終了する。その後は、ストライキ前のように、俳優は撮影をしたり、自分が出演する新作についてソーシャルメディアで語ったり、宣伝活動に参加することができる。オスカー狙いの秀作や、感謝祭、クリスマスの休日に向けた大作が控えている時期だけに、ここで終わってくれたのは本当に大きい。

 この118日間には、俳優がプロモーションできなかったために興行成績に影響が出たと思われる作品も、いくつかあった。ストライキで製作が中断し、来年に予定されていた公開日を延期した映画も複数ある。先週末までに終わらなければおそらく年明けまで長引き、そうなると来年の公開カレンダーはめちゃくちゃになると恐れられていたが、なんとかそれは避けられた。

 合意された内容については現段階で明らかにされていないが、明日か明後日には情報が出てくると思われる。最後まで揉めていた項目はAI。AMPTP側が出した最後かつ最良のオファーでも、そこに抜け穴があるとして組合側は納得せず、また話し合いをすることになった。俳優の最低賃金については、当初、組合側が1年目は15%アップを求めていたのに対し、AMPTPは5%をオファーし、大きな開きがあったが、最近は組合が9%、AMPTPが7%まで歩み寄ったとされる。

 もうひとつ大きな争点だった配信作品のレジデュアル(印税)についても、AMPTPは、9月にストライキを終わらせた全米脚本家組合(WGA)と合意したよりも良い条件を示している。WGAは、配信開始から90日以内に会員の20%以上が視聴した作品に対して、最初に決められていたレジデュアルの50%をボーナスとして払ってもらえることになったが、俳優は100%をオファーされたという。しかし、その後さらに交渉がなされ、条件が変わった可能性はある。

 5月2日にWGAのストライキが始まり、7月からは俳優が加わったことで、ロサンゼルスを中心とするコミュニティは多大なるダメージを受けた。映画やテレビの撮影がストップしたことは、カメラマン、衣装デザイナー、小道具レンタル屋、ヘアメイク、ドライバー、ケータリングなど、業界にかかわる多くの人の収入を直撃している。推定によれば、南カリフォルニアが受けた経済損失は65億ドル、失われたエンタメ業界の雇用は4万5,000とのことだ。

 とは言っても、この合意は、SAG-AFTRA組合員全員の投票にかけられ、可決されてようやく正式となる。WGAの場合、組合員の99%が賛成し、圧倒的な可決となった。SAG-AFTRAは組合員がWGAの10倍以上いる上、ストライキ中もさまざまな意見が見られたが、脚本家たちの時と同じようにみんなが納得し、すっきりした気持ちで仕事に戻れることになるだろうか。そうであることを願うばかりだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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