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「SHOGUN 将軍」、第2、3シーズンを作ることが意味をなすワケ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
主演の真田広之(Courtesy of FX Networks)

注意:この記事は、「SHOGUN 将軍」最終回の内容について若干触れています。

 サムライの世界制覇は、まだまだ続く。大絶賛のままフィナーレを迎えた「SHOGUN 将軍」の続きが、あと2シーズン作られることになったのだ。

 正式なゴーサインはまだながら、これから脚本家を決め、夏には彼らを集めてストーリーについての話し合いが始まるとのこと。主演兼プロデューサーの真田広之、ショーランナーのジャスティン・マークス、マークスの妻で脚本家のレイチェル・コンドウ、原作者ジェームズ・クラベルの娘でエグゼクティブ・プロデューサーのミカエラ・クラベルも、戻ってくる。少し前には、ジョン・ブラックソーン役のコズモ・ジャーヴィスも呼び戻そうとしているとの報道も出たが、それに関して正しいことはまだわからない。

 10話構成のミニシリーズとして作られた「SHOGUN 将軍」は、クラベルが書いた原作小説を最後まで描いた。この後を作るとなると、製作陣は、自分たちで新しいストーリーを作っていかなければならない。もう原作がないのに続けたドラマの例は過去にもあり、結果はさまざまだ。「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」は第2シーズン以降も何度かエミー賞に候補入りしたし、「SHOGUN 将軍」がよく比較されるところである「ゲーム・オブ・スローンズ」も大成功。一方、ニコール・キッドマン主演の「ビッグ・リトル・ライズ」は、第2シーズンにメリル・ストリープを出してきたにもかかわらず失速した。

 だが、「SHOGUN 将軍」の続きを作る場合は、独特のチャレンジがある。フィクションであるにしろ日本の歴史にもとづくものである以上、知識を持つ脚本家が必要ではないか。全員が最初から詳しくなくても良いのかもしれないにしても、普通の脚本を書くようにはいかないのは間違いない。

 ストーリーにおいては、徳川家康が天下を納めた後、日本は平和な時代になるので、戦いのシーンがなくなってしまうことが気になる。ただし、ミニシリーズの最終回の直後から始めるならば、アクションを入れる余地はありそうだ。最終回では、虎永(真田広之)が頭の中にあることを藪重(浅野忠信)に向けて語るだけで、実際に関ヶ原の戦いを見せることはしなかった。その終わり方がかっこいいのだが、そこをきちんと見たかったという声も時々聞かれたので、第2シーズンは、あの歴史的な戦いと、虎永が将軍になるまでの過程を見せる機会となりえる。また、最終回で、ブラックソーンが最終的にイギリスに帰ることはわかったが、船を取り戻したところから歳を取ってベッドに横たわっているところまでに何があったのかはわからなかった。そこを知りたいと思っているファンも、少なくないはずだ。

膨大なお金と努力が費やされて築き上げたノウハウ

 とは言え、当然のことではあるが、ソーシャルメディアやコメント欄では、せっかく良い形で終わったのだからそのままにしておくべき、あるいは、次を作るのは金儲け目的にすぎないという、否定的な意見も目にする。大好きだった映画に続編ができたらがっかりだったという経験は誰しもあるものだし、その気持ちもわかる。

 しかし、ハリウッドの常識で見て、「SHOGUN 将軍」が次を作らないという手はない。

 製作のFXプロダクションズが同社の歴史で最大の予算を投入した「SHOGUN 将軍」には、お金だけでなく、とてつもない労力が費やされている。浅野忠信は、筆者とのインタビューで、「日本の時代劇なんて僕らですらわからないことがあるのに、アメリカやカナダの人たちなんて、さっぱりわからなかったと思いますよ。それを真田さんがちゃんとサポートして、日本人が見られる時代劇にしたというのはすごいことだと思います」と言っていた。実際、ショーランナーのマークスは、リサーチを重ねたことをまとめた900ページにも及ぶマニュアルを作っている。日本を正しく描写するために、すべての分野の専門家をわざわざ日本から雇うこともした。たった10話のためにそこまでしたことを、「工場をひとつ作ったのに、車を10台作っただけで閉鎖したようなもの」と、マークスは語っている。

 そうやって得た知識、作り上げたノウハウをそのまま捨ててしまうのは、あまりにもったいない。視聴者に全然受けなかったというならともかく、こんなにも愛されたのだから、なおさらだ。次は一から始めなくていい分、効率が良く、その部分ではお金の節約になるだろう。もっとも、あくまで「その部分では」だ。映画の続編でもそうだが、大ヒットしたものの続きはたいてい、スケールアップする。真田広之、マークス、コンドウのギャラも、おそらく前回より上がる。それでも、字幕がたくさんある日本の時代劇を果たして多くの人が見てくれるものかというリスクがあった前回と違い、多くのファンが見てくれるという保証が、次のシーズンにはあるのだ。

日本人俳優にとってはすばらしい雇用の機会

 日本人俳優にとっても大きなメリットがある。

 近年、ハリウッドでアジア系が中心のドラマや映画がヒットするようになってきたとはいえ、日本人、日系アメリカ人の存在感はまだまだ薄い。だが、このドラマには大勢の日本人キャラクターが登場し、それらはすべて、日本語をきちんと話せる日本人俳優が演じている。第1シーズンに出てくる主要なキャラクターの何人かは死んでしまったし、次のシーズンには新たなキャラクターが出てくるはずだ。それは、日本人俳優にとってすばらしい雇用の機会。全世界に自分の仕事を見てもらえる絶好のチャンスとなる。 

「SHOGUN 将軍」L.A.プレミアに出席したコズモ・ジャーヴィス、アンナ・サワイ、真田広之、浅野忠信。彼らは全員、エミー賞候補入りが予想されている(筆者撮影)
「SHOGUN 将軍」L.A.プレミアに出席したコズモ・ジャーヴィス、アンナ・サワイ、真田広之、浅野忠信。彼らは全員、エミー賞候補入りが予想されている(筆者撮影)

 7月に発表されるエミー賞のノミネーションでも、西海岸時間16日現在、「SHOGUN 将軍」からは、真田広之(主演男優)、アンナ・サワイ(主演女優)、浅野忠信(助演男優)、平岳大(助演男優)、コズモ・ジャーヴィス(主演男優)の候補入りが予測されている(いずれも、ドラマシリーズ部門。第2シーズンが作られる計画になったのを受けて、リミテッド・シリーズ部門から変更された)。このうち、真田広之、アンナ・サワイ、浅野忠信は、受賞すると見られている。

 エミー賞でこれほどまでに日本人の健闘が予想されるのは、初めてのことだ。同じようなことが第2シーズンでも、第3シーズンでも起きるなら、すばらしいことではないか。とは言っても、先に述べたように、まだ正式なゴーサインは出ていない。彼らが優れたストーリーを思いつき、本格的に進み出すことを、心待ちにしたい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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