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ハロウィンの仮装、バービー、スーパーマリオはNG #ハリウッドのストライキ

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
この仮装でハロウィンの夜に繰り出したい人は多いだろうが…

 もうすぐハロウィン。子供はもちろん、大人も仮装パーティを楽しむこの日のために、すでに準備を始めている人も少なくないだろう。

 毎年、ハロウィンの仮装で目立つのは、その年に人気を集めた映画やテレビのキャラクター。たとえば2年前なら「イカゲーム」のキャラクターと同じ衣装がたくさん見られた。「バービー」や「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が爆発的にヒットした今年は、これらの映画のキャラクターになろうと考えている人が多いと思われる。

 そんな中、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)は、これらのキャラクターの仮装をして人目に触れるところに行くことを、組合員に禁止した。ストライキをしている相手であるメジャースタジオの作品を、意図せずして宣伝することになるからだ。

 7月14日に全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に対するストライキが始まって以来、俳優たちは、メジャースタジオや配信会社の映画、テレビの撮影、完成した作品の宣伝活動、これから作られる作品の出演交渉やミーティングに参加することを禁じられてきた。もともとバービーはマテル社の人形、スーパーマリオは任天堂のゲームだが、これらを映画化してヒットさせたのは、それぞれワーナー・ブラザースとユニバーサル。これらのスタジオは、来たるアワードシーズンで候補入りさせることも狙っている。労働条件交渉で自分たちの要求を聞き入れてくれないこれらのスタジオのキャンペーンを後押しするようなことをするわけにはいかない。

 やはりこの夏大ヒットした「オッペンハイマー」や、Netflixの人気シリーズ「ウェンズデー」も、もちろんNG。定番であるスーパーヒーローも、マーベルはディズニー傘下、DCはワーナーなのでダメ。特定の作品に属しない、ゾンビや幽霊のような一般的な仮装であれば大丈夫だ。SAG-AFTRAは、「フェアな契約をしてくれないならあなたたちの作品の宣伝はしないと、みんなで力を合わせてこれらの会社に大きな声ではっきりメッセージを送りましょう」と、組合員に呼びかけている。

少し前にはストライキ終了の希望が見えていた

 それにしても、いよいよハロウィンまでストライキが続くことが現実となったのは、なんとも残念である。今月初めには、そこまでには終わるのではないかという希望がかなり見えていただけに、なおさらがっかりだ。

 俳優たちより2ヶ月半早く始まった全米脚本家組合(WGA)のストライキは、長い間進展がなかったが、9月なかばになってディズニー、ワーナー、ユニバーサル、Netflixのトップらが直々に出てきて本気で話し合いを始めると、5日で解決できてしまった。WGA側はこの結果を「大勝利」と宣言したが、内容を見ると双方ともに歩み寄ったのは明白。お互いここまで妥協できるならそれまでの4ヶ月は何だったのかという気もしなくはないものの、ストライキが終わったのならめでたしめでたしだ。

 その勢いがあるうちにと、スタジオのトップは次にSAG-AFTRAの交渉リーダーたちと同じように顔を突き合わせて交渉を始めた。成功に応じた配信作品のレジデュアル(印税)の支払い、最低賃金、AIの問題など、WGAとSAG-AFTRAには共通する要求事項もあったので、それらについてWGAから合意を取れたとあれば、SAG-AFTRAとの交渉も今度はスムースに行くのではないか。そう期待されたのだが、そうはいかなかったのだ。配信作品の利益を分かち合う方法として、配信各社が会員から集める月会費のうちひとりあたり57セントを徴収し、組合員に配分したいとSAG-AFTRAが提案すると、スタジオのトップらは「話にならない」と席を立ち、話し合いがストップしてしまったのである。

 スタジオと配信会社は、この提案を許せば毎年8億ドルの出費となると主張。これではまるで税金だとまで言っている。一方、SAG-AFTRAは、彼らが挙げる数字は「大きな誇張」だと反論。正しい対価をもらえるまでストライキはやめないと強い姿勢を崩さない。

ストライキを終わらせるためにトップスターが出した提案

 長引くストライキの影響は、以前にも増して目に見えてきている。普通ならばメジャーネットワークで新シーズンが始まる季節だというのに当然始まらないし、俳優がプロモーションに参加できないことから、興行成績が予想以下に終わる新作映画もいくつかあった。今週は、来年5月に予定されていた「デッドプール3」の公開時期が未定に戻されている。アワードキャンペーンも過熱し始める時期だが、稼働しているのは監督やカメラの後ろの人たちだけで、華がない。

 そんな中、ジョージ・クルーニー、スカーレット・ヨハンソン、タイラー・ペリー、エマ・ストーン、ベン・アフレックらトップクラスの映画俳優は、なんとかストライキを早く終わらせようと、身銭を切る提案を組合に提出した。SAG-AFTRAの年間組合費は、基本の金額に稼ぎのパーセンテージが加算されるもので、上限が決まっているが、稼ぎの多いこれらのスターは上限を撤廃しようと自ら申し出たのだ。そうすることで組合に入ってくるであろう1年あたり5,000万ドル、3年で1億5,000万ドルを困っている組合員のために使ってくれとのこと。ほかに、レジデュアルはその作品でランクが下の出演者を優先して払い、トップスターは最後にもらうよう順番を決めようとも提言した。

 それは非常に寛大で立派な姿勢だ。しかしながら、ストライキをやめる理由にはならない。組合は、雇用者であるスタジオ、配信会社がフェアな対価を払ってほしいと要求しているのであり、俳優仲間からお金をもらえるならそれでいいや、ということにはならないのだ。それに、AIやオーディション方法についてなど、お金以外の案件もある。

 それらをひとつずつ解決していかなければいけないのだが、話し合いは止まったまま。ここまで来ると、年内に終わるのかどうかも本気で不安になってくる。ハロウィンの夜、娘と一緒にバービーの衣装で外出する計画は崩れたが、クリスマスにはバービー人形をもらって喜ぶわが子の写真を堂々とソーシャルメディアにアップすることが許されるのか。そうであってほしいと、みんなが願っている。

場面写真:(c)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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