Yahoo!ニュース

メーガン妃、女優復帰でオスカーを狙う?今さらながらの「SUITS/スーツ」人気沸騰が自信を後押し

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「SUITS/スーツ」の一場面(Suits Official/YouTube)

 Spotifyから大型契約を切られ、複数作品契約を結んだNetflixでも昨年末にデビューした「ハリー&メーガン」以後、具体的なプロジェクトを発表しないままのメーガン妃。今月末にはハリー王子主導のこのドキュメンタリーシリーズ「インヴィクタスー負傷戦士と不屈の魂」がようやく配信開始になるも、これはメーガン妃とハリー王子のアーチウェル・プロダクションズにとって最初のプロジェクトだ。企画が発表されたのは2021年4月で、「ハリー&メーガン」より前からあったものである。

 アイデアがない、仕事ぶりが怠慢など、ここしばらくプロデューサーとしての力量を問う評判が聞かれ、夫妻のハリウッドでの将来は疑問視されている状態。そんな中、誰も予想しなかったことが起きた。ハリー王子と出会う前からメーガン妃がレギュラー出演していた「SUITS/スーツ」が、アメリカで突然にして配信の大ヒット作品になったのである。

「SUITS/スーツ」は、NBCユニバーサル傘下のケーブルチャンネル、USAネットワークが9シーズンにわたって放映。メーガン妃は第8シーズンまで出演した。2019年に終了したこのドラマは、やはりNBCユニバーサル傘下のPeacockで配信されていたが、今年6月からNetflixでも配信が始まると(ただし第9シーズンはPeacockの独占配信)、たちまち配信の視聴時間数ですばらしい結果を出したのだ。以後も勢いは止まらず、ニールセンの今週のレポートでは、6週間連続の視聴時間数で、「SUITS/スーツ」は「ストレンジャー・シングス」に次いで史上2位となっている。

 9年も続いたのだから、リアルタイムで放映された時もそれなりにファンはいたのだろうが、エミー賞にノミネートされたこともないし、決して誰もを夢中にしたドラマだったとは言えない。それだけに、終了して4年も経つ今、ここまで人気を得たのは驚きである。

 理由としては、いろいろな意見が聞かれる。ひとつは、女優としてのメーガン妃を見たことがなかった人が好奇心を持ったのではないかということ。また、近年、複雑でダークなドラマが賞賛を浴びる中、リアリティがあるとは言えないが楽しくて「ながら視聴」にも向いている、良い意味で昔ながらのスタイルであることが、むしろ受け入れられているのではないかという説もある。

(Amazon.com)
(Amazon.com)

 いずれにせよ、この思わぬ展開をメーガン妃が喜んでいることは容易に想像がつく。実際、彼女はこれを機に方向転換を考えているようだ。今年4月、メーガン妃とアーチウェル・プロダクションズがハリウッドの大手タレントエージェンシー、ウィリアム・モリス・エンデヴァー(WME)と契約を結んだ時、力を入れるのは映画やテレビの製作、メーガン妃とブランドのパートナーシップで、女優としての活動は入らないとされていた。しかし、「New York Post」「Life & Style」が報じるところによれば、今、メーガン妃は女優復帰を考えているという。

 事情を知る人の話によれば、ほかのプロジェクトがうまくいかなかったこともあって「メーガンは積極的に役を探している」とのこと。「彼女は大物の監督やプロデューサーと話をしている。ハリーもそんな彼女を100%支えている。演技はメーガンが知っていることで、ずっと愛してきたことだから」とも、その人物は語る。しかも、カムバックをするならば派手にやろうと計画をしているようで、「テレビの役を得られたら嬉しいけれど、彼女は映画で本当に演技力を発揮してみたいと思っている。将来オスカーを取れるかもしれないとも彼女は考えている」とも、同人物は述べている。

 さらに彼女は、夫にも演技に挑戦することを奨励しているらしい。しかし、「彼女は、ハリーは良い役者になれると見ているけれど、ハリーはばかにされると思っているので、ふたりが共演することはないと思う。でも、未来はどうなるかわからない。いつか彼もやってみるかもしれない」とも、同人物は話す。

世間の反応は優しくない

 それにしても、オスカーを視野に入れるとは相当に野心的だ。メーガン妃のキャリアは圧倒的にテレビ中心で、レギュラー出演をしたのは「SUITS/スーツ」のみ。ノークレジットでデビューしたのもシットコム番組で、その後は「新ビバリーヒルズ青春白書」、「FRINGE/フリンジ」、「CSI:マイアミ」などに1話か2話、ゲスト出演をしてきた。小さい役で出演した映画には、ロバート・パティンソン主演の「リメンバー・ミー」や、ジェニファー・アニストン、ケビン・スペイシーらが出演するコメディ「モンスター上司」などがある。

 だが、今の彼女には知名度がある。「SUITS/スーツ」の出ていた時は1話あたり5万ドル(今日の換算レートで約732万円)のギャラをもらっていたとされるが、今ならばもっともらえるかもしれない。Spotifyから契約を切られ、Netflixとも次の企画が決まらない中、収入を確保する上でも意味をなすし、手っ取り早いとメーガン妃は思っているのではないか。

 しかし、世間の反応は冷たい。「New York Post」のコメント欄には、「『SUITS/スーツ』は好きだったけれど、彼女は一番好きじゃないキャラクターだった。彼女には演技ができない。彼女が主役の作品なんて絶対見ない」、「彼女の大きな問題は、エゴと現実がマッチしていないこと。ケーブルチャンネルの助演から一気にオスカーになんて行かないんだよ。彼女の名前をヘップバーンやストリープと並べるなんて失礼すぎる」、「オスカーを取れるかもしれない、だって?笑って椅子から転げ落ちてしまった」などというコメントが寄せられている。「WMEと契約して5ヶ月になるけれど(原文のまま。実際には4ヶ月)、何の仕事も入っていない。演技もないし、広告出演も、ブランドとのパートナーシップもない。ハリウッドは彼女のことを才能のない、やりづらい、要求の多いわがままな人と思っている。誰も彼女と仕事をしたくないんだよ。彼女を大スターにするというWMEの計画は、実現不可能なミッション」という相当に辛辣なものもある。

役を取れるかどうかは事務所の力ではなく本人次第

 事実、オスカーを取るのは、経験と経験豊かな俳優にとっても至難の業だ。長いこと業界の尊敬を集めてきたケイト・ウィンスレットだって6度目のノミネーションでようやく受賞しているし、グレン・クローズも8度も候補入りしたのに、ついに取れるはずと信じられていた7度目の時も逃した。

 もちろん、志を高く持ち、それに向けて努力をするのはすばらしいことに違いない。だが、ハリウッドでは事務所(タレントエージェンシー)に力があるからと言って役を取れることにはならない。エージェンシーがプロジェクトを探してきてくれても、プロデューサーや監督にイエスと言わせるかどうかは本人次第だ。話題になることを狙って小さな役をオファーしてくる作品はあるかもしれないが、女優メーガン・マークルの実力を信じて美味しい役を任せてくれる作品は出てくるだろうか。

 ハリウッドではまだストライキが続いており、今後のプロジェクトについて話し合うことも許されない。しかし、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が全米映画テレビ製作者協会(AMPTP)に対して要求している労働条件をすべて飲むインディーズのプロダクションに関して、SAGはケースバイケースで撮影やキャスティングを許可している。つまり、もしかしたら今すぐでも彼女が役を見つけてくる可能性はなくはないということ。近い将来、大物監督の次回作に女優メーガン・マークルが重要な役で出演するという驚きの発表はあるのか、なりゆきが注目される。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事