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アラン・アーキンが死去。オスカー、トニーを受賞した大ベテラン俳優

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
2020年、妻を同伴しプレミアに出席したアラン・アーキン(写真:REX/アフロ)

 ハリウッドで最も尊敬される俳優のひとり、アラン・アーキンが亡くなった。89歳。アメリカ時間29日、カリフォルニア州サンマルコスの自宅で息を引き取ったという。

 次男マシューによれば、アーキンは心臓を患っていたとのこと。アーキンの3人の息子、アダム、マシュー、アンソニーは、現地時間30日朝、「私たちの父はアーティストとしても、ひとりの人間としても、ユニークな才能に溢れていました。優しい夫、父、祖父、曽祖父でした。人々から愛されていた父を恋しく思います」と声明を発表している。

 アーキンは1934年、ニューヨークのブルックリン地区生まれ。父は画家でライター、母は教師。祖父母はウクライナとドイツからのユダヤ系移民。11歳の時、家族と共にロサンゼルスに移住した。10歳から演技のレッスンを受け、ロサンゼルス・シティカレッジとベニントン・カレッジで演技を専攻。最初の仕事は、フォークバンドの一員としてノークレジットで出演した映画「Calypso Heat Wave」(1957/日本未公開)。ここから演技の仕事につながるかと期待したがかなわず、シカゴのセカンド・シティに入る。

 セカンド・シティは、ビル・マーレイ、ジョン・べルーシ、マイク・マイヤーズ、ユージーン・レヴィ、スティーブ・カレルらを育てた有名な即興コメディシアターカンパニーで、アーキンは初期のメンバー。ここで得た即興のスキルはその後のキャリアで大活躍することになる。2009年の筆者とのインタビューでも、アーキンは、「即興シアターの出身なので、私は言葉に対して鋭いセンスを持っている。だから、いつも自分の役のせりふを、時間をかけて練り直すんだ。自分が演じるキャラクターの真実を追求したいから。もちろん、ほかのキャラクターに迷惑をかけないよう配慮しながらね」と語っていた。

 1961年、セカンド・シティとしての公演でブロードウェイデビュー。その2年後には、カール・ライナーの自伝的小説を舞台化した「Enter Laughing」に出演し、トニー賞を受賞した。本格的映画デビューは1966年の主演作「アメリカ上陸作戦」。この映画で初のオスカー候補入りを果たし、1969年の「愛すれど心さびしく」で再び主演男優部門にノミネート。その次の候補入りは37年後と、ずいぶん間が空くが、その映画「リトル・ミス・サンシャイン」(2006)のおじいちゃん役で、アーキンは、最有力と思われていた「ドリームガールズ」のエディ・マーフィを制し、見事、助演男優賞を受賞することに。2013年にも、ベン・アフレック監督の「アルゴ」(2012)で助演男優部門に候補入りしている。

「リトル・ミス・サンシャイン」でオスカー助演男優賞を受賞
「リトル・ミス・サンシャイン」でオスカー助演男優賞を受賞写真: ロイター/アフロ

 出演した映画は、「暗くなるまで待って」(1967)、「クルーゾー警部」(1968)、「キャッチ22」(1970)、「シザーハンズ」(1990)、「摩天楼を夢見て」(1992)、「ガタカ」(1997)、「ポイント・ブランク」(1997)、「アメリカン・スイートハート」(2001)、「ゲットスマート」(2008)、「ジーサンズ はじめての強盗」(2017)、「ダンボ」(2019)など、80本以上。声の出演をした昨年の「ミニオンズ フィーバー」(2022)が最後の作品となった。

 テレビにも多数出演。Netflixの「コミンスキー・メソッド」(2018-2021)では、2度エミー賞にノミネートされた。監督、演出家としても活躍。監督した映画に「殺人狂想曲」(1971/日本未公開)、「Fire Sale」(1977/日本未公開)など。演出した舞台劇には、ニール・サイモンが戯曲を書いた「サンシャイン・ボーイズ」(1972)などがある。著書も複数あり、回顧録も2冊出版している。

 結婚歴は3度。1955年から1961年まで連れ添った最初の妻との間に息子をふたり、1964年から30年間生活を共にした2番目の妻との間に息子をひとり授かった。3番目にして最後の妻スーザン・ニューランダーとは1996年に結婚。「コミンスキー・メソッド」でアーキンが演じるノーマン・ニューランダーの名前は、妻から取ったものだ。そんなところからも見て取れるが、夫婦は仲良しで、2017年に筆者が取材した時も、奥様が一緒に部屋に入ってきてはインタビューを受ける夫を優しく見守っていた。

 ご家族のご心中をお察しし、ご冥福をお祈りします。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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